日本代表26歳は「もう少しやれた」 指揮官から評価上昇、移籍3か月で古豪のキーマンに【現地発コラム】

リーズで存在感を発揮している田中碧【写真:Getty Images】
リーズで存在感を発揮している田中碧【写真:Getty Images】

昇格有力候補としての「実力テスト」で敗れたリーズ

 チャンピオンシップ(2部)勢にとって、「約束の地」を意味するプレミアリーグへの昇格争い。そのプレッシャーの大きさは、CL出場権を懸けたプレミアのトップ4争いに勝るとも劣らない。トップ2での自動昇格が妥当と目されるクラブとなれば、尚更のことだ。

 その1つに、今年8月に田中碧が移籍したリーズがある。昨季は、プレーオフ(3~6位)でサウサンプトンとの決勝に進出し、昇格まであと1勝と迫った。今季は、3年ぶりのプレミア復帰実現が使命とも言えるが、11月6日のチャンピオンシップ第14節では、ミルウォールとの上位対決に敗れた(0-1)。

 リーグ順位は、前節から1つ下げたとはいえ3位。ほぼ2か月ぶりとなるリーグ戦2敗目は、開幕後、意外なプレーオフ候補となっている難敵とのアウェーゲームでもあった。ミルウォールのホームであるザ・デンは、チャンピオンシップ随一の威圧感を醸し出すスタジアムとしても知られる。

 それでも、リーズの地元紙「ヨークシャー・イブニング・ポスト」などでは、昇格争いにおける「形勢不利」が報じられた。

 就任2シーズン目のダニエル・ファルケ監督は、試合後の会見で「これもサッカーだ」と、さばさばしていた。潔く、勝者の「固い守りと効率の良い攻め」を称えもした。

 だが内心は、さぞかし悔しかったことだろう。いずれも1-0のスコアで3連勝中だったミルウォールとの対戦は、昇格有力候補としての「実力テスト」と見られていた。敵が、セットプレーとカウンターに勝機を見出すことも分かっていたはずの一戦で、リーズはしてやられた格好だ。違う結果になっていれば、チームとしてミックスゾーン対応なしという試合後の決定はなかったとも考えられる。

 勝敗を分けた前半40分の1点は、フリーキックの流れから奪われている。身長199センチのジェイク・クーパーが頭で折り返したボールを、相手CBコンビの相方ジャフェット・タンガンガに右足でミートされた。

 リーズのポゼッションは75%に上った。しかし、オフサイドの判定で同点ゴールが幻に終わった後半16分のシーン以外は、攻めあぐねたと言わざるを得ない。逆に、あわや2点ビハインドの危機を迎えてもいた。同41分、フリーキックの流れから、ポストに阻まれたヘディングを打ったのは、またしてもクーパーだった。

中盤の底に入ってプレーする時間帯も【写真:Getty Images】
中盤の底に入ってプレーする時間帯も【写真:Getty Images】

指揮官が試合後に口にした指摘

 リーズの敗戦を告げるホイッスルが鳴ると、田中の仕草には無念が見て取れた。2ボランチの一角で、7試合連続の先発フル出場を果たした日本代表MFは、しばし俯いたままだった。

 自身の出来が悪かったわけではない。指揮官は、「全体的に非常に良くやってくれた。特に前半は目を見張るパフォーマンスだった」と、田中の90分間を評している。

 確かに、いてほしい所にいる田中は、繰り返しルーズボールを拾い、中盤深部で味方にパスのオプションを提供しては、シンプルに捌いてビルドアップに絡んでいた。そうした持ち味は、随所で確認された。

 しかしながら、計96本のパスには、前半から無難なバックパスが目立った。4日前の前節プリマスス戦(3-0)、「133」を数えたパス本数以上に圧倒的な存在感を示した本領発揮とは違っていた。

 この日は、前半26分に見せたようなダイアゴナルパスは希少だった。タイトなスペースでボールを要求し、巧みなタッチで相手選手2人の間を抜けて前方へとつないだ、同37分のようなプレーも限られた。

 チームが2位の座を維持するには勝利が必要だった一戦で、影響力を見せるには至らなかった。特に、追う立場での選手交代に伴い、アンカーを務めることになった後半27分以降は。

 ファルケはというと、次のように言っている。

「2ボランチでは、ビルドアップにしても、より組織だったプレーが可能だが、相手ゴールに近い位置に頭数を割けるようにしたかった。そこで、アオ1人に中盤の底を任せて(4-2-3-1から)4-1-4-1に移行することにした。

 もちろん、もう1人ボランチがいる方が、やりやすかった部分はあるだろう。彼が持つ攻撃面での能力も発揮しやすい。(システム変更後は)より持ち場を意識しなければならなくなった。

 そうしたなかでも、1つや2つ、もう少しやれたはずだと感じるような場面は必ずあるものさ。もう少し上手くやれていたらと思うような場面は。ただ、チャンピオンシップのピッチは、3日ごとに結果を出し続けることが求められるような(厳しい)世界。しかも終盤は、それまでの70分間よりもコントロールが難しい展開でもあった。総体的にものを言えば、彼がチームにいてくれることをありがたく思っているよ」

 締めの一言は、平日の夜に、2000人強がイングランド北西部から約270キロ離れたロンドン南東部に駆けつけた、リーズ・サポーターたちが一様に頷く光景が目に浮かぶようだ。

1部昇格を目指す古豪で果たさなければならない責任

 リーズは、中2日での第7節と第8節で、立て続けにイーサン・アンパドゥとイリア・グルエフを、ともに手術を要する膝の怪我で失った。前者は、昨季リーグ戦全46試合に先発したボランチ兼CBで、キャプテンマークも付ける。昨季新戦力の後者も、同様の守備力でスタメンに定着。開幕から2ボランチで先発が続いた両MFの長期離脱により、チームは安定性と原動力の源を失ったことになる。

 ところが、フォルトゥナ・デュッセルドルフから獲得された田中と、ボーンマスからレンタル移籍したジョー・ロスウェルが代役を務めることになったリーズは、第9節から両新戦力が2ボランチを組んで先発するようになっても、順調にポイントを重ねていた。その第1の立役者が、田中だと言える。

 昨季の加入以来、絶対的な存在となっているアンパドゥのプレーは、2017年に16歳で移籍したチェルシー時代から目にしてきた。中盤深部におけるマイボールの扱い、ポゼッション維持による試合のコントロールにかけては、田中が一枚上のように思える。

 個人的には、当初は絶望的とされた年内復帰の可能性が浮上しているアンパドゥとのコンビ結成が楽しみでもある。より守備的な相棒を賢明な守りで支援しつつ、チームの現ボランチ陣では最高のセンスを感じさせる攻撃面でも、貢献度を高められるのではないだろうか? まだ、イングランドでの挑戦が始まって3か月と経ってはいない田中だが、早くも主軸としての責任感が求められると言っても良い。

 加入以来、順調に評価を高めてきた背景には、海外経験がドイツ2部に限られていた日本人としての未知数が幸いした部分があったかもしれない。しかし、チャンピオンシップのスピードにも、フィジカルにも予想以上の早さで適応し、オン・ザ・ボールとオフ・ザ・ボールの双方で、プレーの質の高さが認められるようになった今後は、及第点の出来では物足りない。

 それが、通算3度のトップリーグ優勝歴を誇る古豪であり、プレミア復帰が当然と理解される現チームの主力。田中には、リーズのキーマンと化してプレミアを目指してもらいたい。スタメンとして初めて味わった敗北の無念に、下を向いていた頭を上げて。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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