日本で活躍の豪州代表…運命が「本当に変わった」 伝説的FWとの秘話「想像していましたか?」【インタビュー】

新潟でプレーするトーマス・デン【写真:Getty Images】
新潟でプレーするトーマス・デン【写真:Getty Images】

新潟のトーマス・デン、マインドを大きく変えたオランダ名手の話

 J1アルビレックス新潟の守備を高い身体能力とスピードで支え、洗練された足もとの技術を生かし後方からの組み立てにも貢献するオーストラリア代表DFトーマス・デン。多様なバックグラウンドを持つプレーヤーとして、今なお続く進化に寄与したものは何なのか? “指導者”という観点で、キャリアを振り返ってもらった。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の1回目)

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 1997年に南スーダン出身の両親の下、ケニアの難民キャンプで生を受けたデン。6歳で移住した豪州のアデレードで本格的にサッカーを始めると、14歳で転居したメルボルンにてAリーグ強豪、メルボルン・ビクトリーのユースチームに加入。プロへの道を歩み出した。

 18歳でトップチームとプロ契約を結ぶと、翌シーズンにオランダの名門PSVアイントホーフェンのリザーブチーム、ヨングPSVで1年の期限付き移籍を経験。2016-17シーズンに豪州へ帰還してからはビクトリーの主軸として3季、クラブの年間優勝やAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場に貢献した。この間、1シーズンの限られた時間ではあったものの、Aリーグに大物助っ人として鳴り物入りで参戦した元日本代表MF本田圭佑との共闘も果たしている。

 ACLでのJリーグクラブとの対戦から刺激を受け、2020年に日本行きを決断した。浦和レッズを経て、22年から新潟の一員に。日本で着実にキャリアを積み上げるなか、カタール・ワールドカップのメンバーにも選ばれるなど代表でも実績を残してきた。

 デンは、生まれ故郷のケニアをはじめ「すべての場所から多くの影響を受けてきた」と話す。時間を過ごした先々での経験をかけがえのないものとして大切にしてきたからこそ、「ここが大きな転機だという考えはない」。それでも、プレーヤーとして何かが変わった瞬間は? オランダでの1年に話を向けると、同国を代表する名手とのエピソードを教えてくれた。

 デンがヨングPSVでの武者修行に励んでいた当時、コーチの1人だったのがかつてプレミアリーグの名門マンチェスター・ユナイテッドでエースFWとして活躍したルート・ファン・ニステルローイ氏。ある日、ジムでユナイテッドの“後輩”であり当時スペイン1部レアル・マドリードで世界的クラックとなっていたポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドについて純粋な興味から質問してみた。「今ほどの活躍を想像していましたか?」と。

 ファン・ニステルローイ氏曰く、線が細かった10代後半の若武者からは「サッカー界のアイコンになる姿なんて想像できなかった」とのこと。一方、「とてつもなくストイックに物事に取り組む姿が印象的だった。そんな姿を日々目にしていたから、バロンドール(仏サッカー専門誌が選ぶ最優秀選手賞)を獲得できるほどの活躍は納得できるよ」と陰の努力をデンへありのままに伝えた。

 この話から、「才能だけではなくどれだけハードに物事へ取り組めるかという姿勢が未来の結果につながるのだと痛感しました」とデン。「本当に(サッカーに取り組む)マインドが変わったと思う」と受けた衝撃を振り返る。

デンが大きな影響を受けたというケビン・マスカット監督【写真:Getty Images】
デンが大きな影響を受けたというケビン・マスカット監督【写真:Getty Images】

今も生かされる同胞の恩師が授けた教え

 また、プロ入り以降に「非常に大きな影響を受けた」指導者として挙げたのが、J1横浜F・マリノスで3季にわたって指揮を執り、現在は上海海港(中国)を率いるケビン・マスカット監督。デンをプロデビューに導いた恩師だ。横浜FM在籍当時に言及すると、「彼がJリーグで成功した事実は自分のことのように嬉しい」と顔をほころばせる。

 オーストラリアと日本、ポジションはともにセンターバックとサイドバックなど、両者には共通点が多い。ゆえに、「ストライカーにどう対峙すべきか細かく指導してもらえました」と話す。さらに、「(マスカット監督からの)アドバイスで現在も試合中に応用しているものは多くある」とも語り、恩師の教えに支えられている今を明かしてくれた。

 日本に活躍の場を移し、新潟でのプレーは今年で3年目。時間の経過とともに周囲に対する理解の深化も進み、「(選手として)全体的に向上できている実感を持てています」と成長の手応えを口にする。そんななか、チームの松橋力蔵監督には「自分のことを本当に信じてくれている」と信頼への感謝を示す。

 佳境を迎えた今季J1リーグで、新潟を取り巻く状況は残り3試合で降格圏から勝ち点5差と残留へ予断を許さない。「毎年、選手としてより強く、よりうまく、より速くなるという考えの下でプレーしています」。これまでの教えとともに日々進化をめざす屈強なDFが、ここぞの場面でゴールに鍵をかけ、チームの救世主となるはずだ。

[プロフィール]
トーマス・デン/1997年3月20日生まれ、ケニア出身。6歳で家族とともに移住した豪州でサッカーを本格的に始め、2015年に18歳でAリーグのメルボルン・ビクトリーとプロ契約を結ぶ。ヨングPSV(オランダ)での期限付きを経て、母国では4季プレー。20年に浦和レッズへ移籍し、活躍の場を日本に移す。22年からアルビレックス新潟の一員となった。豪州代表としても活躍し、2021年の東京五輪で3試合プレーしたほか、22年カタール・ワールドカップのメンバーにも選出されている。

(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)

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