争奪戦勃発…名門高入りで衝撃「本当に1年生か」 2年生で10番託された逸材タレント
鳴り物入りで前橋育英入り、2年生MF平林尊琉に懸かる期待
高校サッカーの名門・前橋育英には背番号14のほかにもう2つの伝統的な番号がある。1つは7番で、2年生以下がこの番号を着用すると「次期14番候補」となる場合もあり、それ以外でもリーダー格の選手がつけることが多い。もう1つが10番で、これまで細貝萌(ザスパ群馬)や田中亜土夢(ヘルシンキ)、渡邉凌磨(浦和レッズ)、飯島陸(ヴァンフォーレ甲府)、渡邉綾平(サガン鳥栖)、笠柳翼(V・ファーレン長崎)と技術レベルが抜きん出た選手が背負ってきた番号だ。
今年、背番号10を背負う2年生MF平林尊琉は、中学時代にJFAアカデミーU-15に所属し、多くの強豪校やJクラブユースが激しい争奪戦を繰り広げた末に前橋育英にやってきた逸材でもある。
昨年は1年生ながらスタメンに抜擢され、プレミアリーグEASTで14試合出場2ゴールをマークし、選手権にも全2試合にフル出場。今年はスタートからチームの主軸として君臨している彼は何が凄いのか。それはフィニッシャーとしてもパサーとしても正確かつ的確な判断と技術で質の高いプレーを見せることにある。
主戦場はサイドハーフ、トップ下、FWなど攻撃的なポジションで、常に頭の中でラインブレイクの仕方を思考しながらプレーを選択する。細かい部分で言うと、相手のプレスの仕方やボールの奪いどころなどを試合開始から観察し、そこで得た情報を基にドリブルを多くするのか、シンプルに周りを使いながら崩していくのかを考えてプレーに反映させていく。昨年のプレーを見ていても「これが本当に1年生か」と思うくらい、冷静にかつ大胆に仕掛けていくプレーに驚きがあった。
2年生になって10番を託されると聞いた時は納得だった。14番は攻守の要である3年生の石井陽に引き継がれることが予想されていたため、7番か10番を託されるだろうと思っていたからだった。
「背番号でプレーをするわけではないのですが、やはり10番をいただいてから、チームのために自分が何をできるかをより考えるようになって、意識が大きく変わったと思います」
前述したとおり、もともと相手プレーの意図を読んで何をすべきかを考えるのが日常だったが、今年に入ってチームの勝利につなげるために、より味方の意図や試合の流れを考えてプレーするようになった。
10番を背負う責任感を露わ「試合を決められるような選手に」
この変化は攻撃面の選択肢をより広げた。パスかドリブルかだけではなく、ドリブルからのパス、パスを出したあとの動きの質が一気に向上し、より攻撃の起点として機能するようになった。
プレミアEASTでは18試合すべてにスタメン出場し、2ゴールをマーク。5位につけるチームにおいて強烈な存在感を放っている。選手権予選も準決勝の大一番・桐生第一戦で2トップの一角でプレーすると、1-0のリードで迎えた後半27分にカウンターからセンターライン付近でボールを受けると、そこからドリブルを仕掛ける。その時、顔は前を向いていて、相手の動きと味方の動きを視野に入れながらドリブルコース、パスのタイミング、シュートまで持ち込めるかどうかを見極めていた。
「アグレッシブにプレーをするという前提で見て、いろいろな選択肢を考えていました」
そしてスピードを生かして裏に抜け出そうとしたFWオノノジュ慶吏に対し、相手DFが追わずに自分のところに食いついて来たのを見た瞬間、彼はノールックでオノノジュへスルーパスを通した。オフサイドラインも考えて絶妙なタイミングで出したスルーパスに抜け出したオノノジュが放ったシュートは、相手GKに触れて枠を逸れたが、それで得たCK(コーナーキック)からMF竹ノ谷優駕の2点目が生まれた。
「正直、今日の出来はあまり良くなかった。なんか自分たちのやりたいことができなかった」
3-0の快勝にも納得がいっていない様子だったのは、やはり10番を背負う責任感の表れだった。
「1年の時は自分の好きなようにやっていましたし、もらったパスを決めるというプレーをやっていたのですが、今年はそうはいかない。偉大な先輩たちが今まで積み上げられてきたものがあるので、僕が10番となってそれを損なわないように、さらに積み上げていけるようにしたいし、ふさわしい選手になりたい。だからこそ、周りを生かしたり、ラストパスを出したりすることで、試合を決められるような選手になりたいと思っています」
まだまだ伸び代は十分。黄色と黒のタイガー軍団の10番にぜひ注目をしてほしい。