日本代表CBが絶賛「めっちゃいい」 頭角示す23歳日本人ボランチ…欧州で遂げる進化【現地発コラム】
今季マインツ加入のMF佐野海舟、対戦した板倉滉も称賛「すごい合ってる」
ボルシアMGの日本代表DF板倉滉が、今季ドイツ1部のマインツに加入したMF佐野海舟について非常にポジティブに語っていた。
「いや、めっちゃいいじゃないですか。自分たちがここを抜ければチャンスというところを、海舟がとことん潰していたなと思う。危機察知能力とフィジカル能力、両方持ってる選手なんで。うわ、また海舟プレスに入ったなとか、うしろで思いつつ。なおかつ前にも運べる選手なので。すごい合ってるなというのは思いました」
2人が対戦したのは10月25日に行われたブンデスリーガ第8節、マインツのホームで行われたボルシアMG戦だった。佐野のボールを奪い切る守備やセカンドボールへの反応の良さだけでなく、味方との距離感の良さによって生み出されるサポートへの出足にも、目を見張るものがある試合だった。ヘディングでの競り合いでは、194センチのドイツ代表FWティム・クラインディーンストに勝利する場面もあった。
ボールを受けない場面でもその次の状況を常に予想しながらプレーし、味方の特徴とチームのサッカーが分かってきている印象を受けた。
開幕戦のウニオン・ベルリン戦ではデビュー戦ということもあったが、インテンシティーの高さとプレスに来る相手のスピードの速さに少なからずの戸惑いを感じていたと佐野は明かしていた。
「今まで感じたことのないプレッシャーだったり、相手の強度だったりというのはすごい感じました。これにいち早く慣れないといけないと思います」
開幕から2か月が経った。本人は「慣れるのが遅い」という反省の弁をたびたび口にしているが、周囲から見た順応スピードはなかなかに早い。試合を重ねるごとに収穫と反省を持ち帰り、練習からどんどんチャレンジをしているからだ。
「練習で抜かれてもいいんで、間合いのところで(相手に)詰めるところだったりっていうのは意識してやってます。だんだん感覚を掴めてきて、試合でも上手く出せるのかなと」
ウニオン戦後には「セカンドボールを全然拾えなかった。自分の持ち味だったり、求められているのはそこ。単純にそこが出せなかった」と話していたが、ボルシアMG戦ではボールがこぼれているところにはいつも佐野がいるような印象さえあった。それくらい次の展開を予測したプレーを上手く出せている。
「慣れてきたっていうのが強いと思います。最初はスピード感だったり慣れない部分がありましたけど、慣れたら絶対できるっていう自信はあったので。そこは今のプレーにつながってるかなと思います。けど、まだまだ自分としては足りない部分がたくさんあります」
佐野が自覚する課題「求められているところは守備だったけど…」
ボルシアMG戦や第9節のフライブルク戦では攻撃面でも光るプレーが随所に見られていた。開幕当初から攻撃へのより効果的な関与というのを自身の課題として掲げ、そこに積極的に取り組んできている。マインツでは元ドイツ代表MFナディーム・アミリが司令塔として君臨し、ほとんどの攻撃はアミリを経由して構成される。当然、相手の警戒も強まるからこそ、佐野が攻撃面で変化を加えられることが求められている。
「今まではあんまり前に行くようなタイプではなかったし、求められているところは守備というところだったのですけど、このチームでは前にどんどん出ることを求められてる。やっぱりゴールっていうのは必要になってくる。取れるだけ取らないといけないと思います、アシストも」
フライブルク戦では右サイドから鋭く正確なサイドチェンジや丁寧なつなぎでリズムを作り出すシーンもあった。マインツは5バックによる堅実な守備とアグレッシブなプレスの連続が持ち味のチーム。フライブルクのようにビルドアップ能力の高いチームが相手だと前では決め切れず、自陣深くで人数をかけてブロックを築く時間が多くなる。そのためボール奪取後にすぐカウンターへ持ち込めず、いたずらにボールを失うシーンが少なくなかった。
「状況によりますけど、奪ったあとにボールを保持するのか、前に当てて自分が出ていくのか、というのをしっかり判断しないと。前にパスを当てて、出ていってもマイナスな時もある。そこの判断というのはしっかりしながら、ボールを保持するのか、素早く攻めるかという判断をもっと的確にやりたいです」
ここ最近は安定したパフォーマンスを見せている。誰よりも走り、誰よりも戦い、誰よりもボールを奪い、激しい交錯プレーで倒されても、文句も言わずにすぐまた立ち上がって走り出す。クラブのために全力を尽くし、大事なところで身体を張ったプレーを披露する佐野に送られる拍手は、試合を重ねるごとに増えてきている。
「守備の時はトップ下の選手を見る、バランスを見る役割だった。ボールを持つ時は、やっぱりアミリから始まるし、そこのフォローをしつつ、自分ももうちょっと出れる時は出ていかないと。FWの選手が孤立している場面っていうのが多いと思う。そこはもうちょっと自分の位置を高くしつつ、守備になった時には問題ないというポジショニングを取り続けることが大事かなと思います」
フライブルク戦後にそう自分の役割について語っていた。ブレることなく、少しずつ着実に持ち味を発揮していきたい。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。