ルヴァン制覇の舞台裏「誰にするか迷った」 采配に分かれ道…PK戦の決断にあった意図
ルヴァンカップで名古屋がPK戦の末優勝を決めた
国内三大タイトルの1つルヴァンカップは11月2日に国立競技場で決勝戦が行われ、両者譲らぬ激闘はPK戦の末に名古屋グランパスがアルビレックス新潟を下して3年ぶりの優勝を果たした。両監督が交代策を駆使したゲームを制した名古屋の長谷川健太監督は、最後にポイントになったのはPK戦で最後に蹴った2人だったと話した。
徹底した後ろからのポゼッションスタイルの新潟に対し、マンツーマンで対応した名古屋は前半31分にFW永井謙佑が相手の自陣でのパスワークのミスからダイレクトで蹴り込んだ。前半42分にも空中戦に圧力を掛けて最後は永井が決める、スピードとパワーを前面に押し出したスタイルで2点を先行。試合の行方は半ば決まったかと思われた。
しかし、新潟が後半に交代策で打開を見せた。後半20分に6得点で大会得点王をほぼ確実にしているFW長倉幹樹、MFダニーロ・ロペスらの3枚替えをすると、ロペスが右サイドで違ったリズムでアクセントになった。すると6分後、そこからのクロスをMF谷口海斗がヘディングで押し込み1点差に詰め寄った。この直後にFW小見洋太を含む2枚替えを行い、交代枠を早くも使い切った。
新潟の松橋力蔵監督は「負けているので5枚目のカードを早く使った。不安材料はありながらも点を取りにいくメッセージを伝えないといけないと思った」と、この采配を振り返る。一方、名古屋の長谷川健太監督は負傷明けでギリギリのコンディションだったというMF野上結貴をラスト10分でMF中山克広に代えた。しかし、後半アディショナルタイムも5分が過ぎたところで、ペナルティーエリア内で小見が中山との接触プレーで倒れ、ビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)の介入を経てPKに。これを小見が自ら決め、勝負は延長戦にもつれ込んだ。
この時点では両監督の交代策が明暗を分けた格好だったが、延長前半3分に名古屋はMF山中亮輔のクロスをFWキャスパー・ユンカーが競り、こぼれたところにFW山岸祐也も絡んで最後は中山が蹴り込んで勝ち越し。4人すべてが途中出場の選手でスコアを動かした。しかし、延長後半に新潟は長倉からのスルーパスを小見が決めた。これも途中から入ったコンビだった。
長谷川監督はPK戦になった時点での順番決めで「本来、5人目は河面(旺成)だった」と話す。しかし、負傷明けで厳しいコンディションだったことで山岸に繰り上げたという。山岸はアビスパ福岡に所属していた昨季、同じ決勝の舞台でPKを失敗した。それだけに「大丈夫かと聞いたら、一瞬間があって、『いきます』ということだったので。決してPKの上手い選手ではなかったのですが」と、決断を下した。
その山岸に、決めれば勝ちのシチュエーションで回ってくるのは何の因果か。それでも冷静にゴール右に蹴り込んで決着がついた。ユンカーも4人目で成功させていただけに、指揮官は「4番目と5番目を誰にするか迷ったが、キャスパーと山岸が外したらしょうがないと彼らに託した。山岸が決めて、キャスパーが決めてというのが今日のポイントになったのではないかと思う」と、プレッシャーの懸かる舞台で決めた2人をねぎらった。
両チームとも途中出場の選手が活躍を見せ、あらためてリーグ戦と並行することで多くの選手にチャンスが与えられて成長や選手層を厚くする機会になるルヴァンカップらしさも現れた。Jリーグ創設の日産自動車時代の先輩、後輩の関係でもある両監督が交代策も含めて渡り合った激闘は、最後の最後で長谷川監督に3回目の栄冠が輝いた。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)