過激で異様な“革命”がサッカー界を再席巻? 「やられそうで、やられない」…日本代表に通じる肝【コラム】
バルサがレアルを4-0で撃破、コンパクトかつハイラインで圧倒した
ラ・リーガ第11節、アウェーのFCバルセロナが4-0でレアル・マドリードに快勝した。このゲームのポイントはバルセロナの極めて高いディフェンスラインの設定と、レアルがそれをどう攻略するかだった。
前半はレアルがいとも簡単にハイラインの裏を取って決定機を作り出していたが、シュートミスで得点ならず。後半に入ってバルセロナが2分間に2点を奪う。その後もレアルにはいくつかの決定機があったがやはり決め切れず、オフサイドも12回という多さ。逆に、バルセロナは効率よく加点し、終わってみれば思わぬ大差がついていた。
このエル・クラシコに先立ち、ウィークデイに行われたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)第3節でも、バルセロナは苦手のバイエルンに4-1で快勝している。この試合でもバイエルンに何度も浅いラインを突破されていたが、1失点に抑えた。
バルセロナの異様に高いディフェンスラインは、ACミランが1980年代の後半にゾーナル・プレッシングを世に出した当時を彷彿させる。
当時のアリゴ・サッキ監督が導入した超コンパクト、超ハイラインはまさに革命的な戦術だった。しかし、ミランの監督がサッキからカペッロに代わると、ラインの高さとプレッシングは緩和された。初期のミランに衝撃を受け、多くのチームがプレッシングを採り入れた。しかし、模倣したのはサッキ流の過激なものではなく、カペッロに近い緩和されたほうで、それが世界中に普及して今日に至っている。
今季のバルセロナのライン設定は、その意味でサッキ監督下のミラン以来の過激さだ。
初期のラディカルさがその後に緩和されていったのは、そのリスクゆえである。1本のパス、1回のドリブル突破が即失点に直結する。そのリスクが回避されたわけだ。
バルセロナのハイラインは初期ミランと同じリスクがあるのは、バイエルン戦、レアル戦でも明らかだった。ところが、現実にこの2試合で1失点しかしていない。そして8得点。収支は十分に合っていて、メリットがリスクを完全に上回っている。つまり、ハンジ・フリック監督の選択は一見無謀なようで、非常に効果があったということなのだ。
無謀に見えるハイラインということなら、2002年ワールドカップで日本代表を率いたフィリップ・トルシエ監督の「フラットスリー」もそうだった。まるで無防備に見える守備戦術には多くの批判と懸念があったのだが、意外と攻略されずに延命していたのを覚えている。
この守備戦術の肝は「やられそうで、やられない」というところにある。
ライン裏という弱点を見せることで、相手の攻撃がそれに囚われる。決定機かと思えばオフサイド。オンサイドでもあまりにフリーなので慎重になりすぎるのか、かえってシュートが入らない。そうこうしているうちにリズムは崩れ、いつのまにか相手のペースになっている。ハイラインは見た目ほど無謀でも杜撰でもなく、緻密に管理されているので実は思ったほど無防備ではないのだが、初見の場合まず相手は気づかないということも大きい。
これをやっている側はいわば確信犯。バルセロナもレアルに何度裏を取られても動じなかった。この心理的な優位性が相手の焦りを生む。
バルセロナのハイラインは、中央に人数を投入する攻め方とセットになっている。センターフォワード、トップ下、第二トップ下(ラフィーニャ)、第三トップ下(ボランチ)を集める攻撃は守備面でもプレスの速さにつながっていて、それがハイラインにもつながっている。2試合8ゴールの攻撃力とハイラインはパッケージになっているわけだ。
機械の導入でオフサイド判定の精度が著しく上がったのも関係があるだろう。数センチでもオフサイドを取れる判定は、逆にオンサイドにもなり得るわけだが、ラインコントロールに自信があるならメリットのほうが大きい。
さすがに対戦相手も対策を講じてくるだろうから、年末あたりから状況も変わって来る可能性はある。ただ、今のところバルセロナのハイラインはちょっと不思議なくらい見返りが大きくなっている。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。