J1残留へ風向き変えた“見えない力” 降格圏脱出へ…追い風になる「アドバンテージ」【コラム】

磐田・川島永嗣【写真:徳原隆元】
磐田・川島永嗣【写真:徳原隆元】

C大阪とのアウェー戦で劇的勝利、降格圏18位・磐田の命運握る“ラスト5”

 ジュビロ磐田は前節、セレッソ大阪とのアウェー戦で2-1の劇的勝利を飾り、逆転残留に向けた“ラスト5”に向かう。次に対戦するのは現在2位で、J1連覇の可能性を残すヴィッセル神戸だ。このアウェーゲームを乗り切れば、ヤマハスタジアムでのホーム3連戦が待つが、残り試合とライバルとの勝ち点差を考えると、神戸戦もなんとか勝ち点3を持ち帰りたいところだ。

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 磐田と時を同じくして、ライバルの京都サンガF.C.と湘南ベルマーレが勝利し、揃って勝ち点を41に伸ばした一方で、ルヴァン杯の決勝に残っているアルビレックス新潟がホームで東京ヴェルディに敗れて、3試合を残して勝ち点40で16位に。17位の柏レイソルは雷雨により延期された浦和レッズとの“6ポイントマッチ”に敗れて、勝ち点39のまま、残り試合が4となった。そうした周りの状況は変わっているが、磐田としては直接対戦しない残留争いのライバルを気にするよりも、5試合を1つ1つトーナメントのように戦っていって、結果的にライバルとの関係がどうなっていくかぐらいのスタンスでいるべきだろう。

 現在18位の磐田としては目の前の試合でしっかり勝ち点3を獲得し、残留圏を目指していくしかない。横内昭展監督は「戻ってホームで3試合やれるのは僕らのアドバンテージ」と認めるが、アウェーでも相手に圧倒される感覚はないという。実際にアウェーのC大阪戦も前節のサンフレッチェ広島戦から導入した3-4-2-1をベースに、攻守がうまく機能する形で2点をリードし、終盤に1失点しながらも2-1で勝利した。

 後半アディショナルタイムには相手にPKを与えてしまったあと、守護神の川島永嗣がFWレオ・セアラのPKをストップした時、ちょうど磐田のエンド側だったアウェーゴール裏の後押しが印象的だった。横内監督も「我々のサポーターがうしろにいて、目に見える形ではないけど、そういう見えないものがあいつを突き動かしているものはあったかな」と振り返る。試合終了の笛が鳴った瞬間、駆け寄る選手たちと抱擁をかわし、上空に雄叫びをあげる守護神の姿は感動的だった。

 川島は「こういう厳しい状況に置かれてる中でも1つの勝利っていうのが、自分たちのパワーにつながっていくと思うので。あれをやっぱり引き分けで終えるか、勝ちで終えるかっていうのは自分たちにとって本当に大きな差になると思います。ただ、何かが終わってるわけでもないし、気を引き締め続けて、残りの試合をやりたい」と力強く語る。

アウェーで神戸攻略へ、鍵となる“ファーストインパクト”の回避

 間違いなく厳しい戦いになると予想されるアウェーの神戸戦だが、磐田にとって多少なり、アドバンテージになり得るのが日程だ。磐田が10月19日のC大阪戦からほぼ2週間空くのに対して、神戸は0-2で敗れた18日のFC東京戦から中4日でACL(AFCチャンピオンズリーグ)エリートのアウェー蔚山現代戦、さらに中3日で京都と天皇杯の準決勝を戦った。2-1から京都の猛攻に耐えて、90分で試合を終えたことは神戸にとって大きいが、それでもコンディション面の負荷というのは少なからずあるだろう。

 キャプテンの山田大記は「後半に点を取れるというのはJ1の中でも自信として持っている」と前置きしながら「どういうスタートか分からないですけど、誰が出たとしてもサブにもある程度、ゲームを決められたり流れを変えられる選手がいるので。そこは1つの強みとして勝ち点3を取れればいい」と主張する。その流れに持ち込むためにも、まずは前半に失点しない、ビハインドを負わないことがアウェーでの勝利条件になってくる。

「チームとして90分を通して強度の部分だったり、そこの積み上げを試すというところはありながらも、開始早々の失点でゲームを難しくしてしまうと、相手の力、チーム状況から、かなり難しいゲームになってしまうので。そういうところも自分たちは意識して取り組んできたところなので、いいゲームの入りがものすごく重要になると思います」

 山田キャプテンもそう気を引き締めるが、まさにホームの開幕戦で磐田は神戸に開始5分でCK(コーナーキック)から失点。相手に主導権を握られて、後半の立ち上がりにもミスを突かれたカウンターから追加点を奪われて、0-2で完敗した苦い経験がある。横内監督も「入りというのはどの試合でも大事ですけど、神戸に関してはより重要なポイントかなと思ってます」と語る。神戸の強さの要因は色々とあるが、その1つがファーストインパクトだ。立ち上がりからトップギアで入り、ハイプレスと直線的な攻撃で相手を畳み掛けて、あわよくば早い時間帯に得点を奪いにくるのだ。

 横内監督ば「凌ごうと思って凌げないので。受けるだけじゃダメだと思うんですよね。そこは難しいですけど、注意深くはしなきゃいけない」と語るが、分かっていても厳しい神戸のファーストインパクトをいかに耐えながら、押し返していけるか。もちろん、その裏返しから磐田が少ないチャンスを決めてリードを奪うようなら、C大阪戦のような流れに持ち込みやすくはなる。少なくともリードを奪わせずに前半を折り返せれば、後半の好勝負に持ち込むことは可能だろう。

「神戸があっての次」…ホーム3連戦に良い形でつなげられるか

 神戸は過密日程と言っても、京都戦は前線の主力である大迫勇也と武藤嘉紀が後半13分から出場するなど、吉田孝行監督もうまく負荷を分散させながら、磐田戦にチームの体力を残している。それでも守備の要であるマテウス・トゥーレルや左右サイドバックの初瀬亮と酒井高徳など、主力の半数はフル出場している。神戸としては前半のうちにリードを奪って、メンバー交代を活用しながら、得意のクロージングに持ち込みたいはず。磐田としては、その土壌に乗ることなく後半勝負に持ち込むのが基本的な勝利のプランとなるだろう。

 磐田はボランチのレオ・ゴメスが出場停止となり、中盤のスタメンがどういう組み合わせになるのかは1つの注目点だが、外国人枠の関係でベンチ外になることが多いMFブルーノ・ジョゼをベンチ入りさせることができることは後半のベンチパワーを高める意味で、大きなメリットだ。またC大阪から期限付き移籍しているFW渡邉りょうも前節は試合に出られなかったため、横内監督は「試合には飢えてると思います。それをうまくピッチで出してほしい」と期待を寄せる。

 間違いなくタフなゲームになるアウェーの神戸戦を終えれば、磐田はホーム3連戦で逆転残留に希望をつなぐことはできる。しかし、今一番危ないのはホーム3連戦を拠りどころとすること。そこは一旦忘れて、まずは何としても神戸から勝ち点、願わくば勝ち点3を持ち帰ること。山田キャプテンも「神戸があっての次だと思うので。5戦と言いながらも、本当に一戦必勝というのが僕らに課されてると思う。すべてを懸けて、勝ち点3を持って帰りたい」と強調する。

 そうした意識を監督スタッフや選手だけでなく“ジュビロファミリー”として持って、神戸に挑むことができるか。開幕戦はホームで完敗した相手でもあるだけに、アウェーで成長の真価が問われる。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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