内田篤人コーチから指導受け…「違った味出せる」 代表初招集SB躍動、激しさ増す競争【コラム】

なでしこジャパン・遠藤優【写真:徳原隆元】
なでしこジャパン・遠藤優【写真:徳原隆元】

パリ五輪後初の実戦、なでしこジャパンが韓国に4発快勝

 なでしこジャパン(日本女子代表)は、10月26日の国際親善試合で韓国に4-0の勝利を飾った。パリ五輪を最後に池田太前監督がすでに退任しており、今回は佐々木則夫女子委員長が代行、内田篤人氏が臨時コーチを務めた。宮本恒靖JFA会長は3年後にブラジルで行われる女子ワールドカップ(W杯)、翌年のロサンゼルス五輪を目指すチームを率いる監督を年内に決めたいと表明しているが、4-4-2をベースにハイプレスと素早くゴールを目指す攻撃は国立に詰めかけたファンにも好印象を与えたはずだ。

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 今年8月に行われたU-20女子W杯で、中心的な存在だったメンバーからGK大熊茜(INAC神戸レオネッサ)、DF小山史乃観(ユールゴーデンIF)、FW松窪真心(ノースカロライナ・カレッジ)、土方麻椰(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の4人が招集された。同世代からA代表に定着しているMF藤野あおば(マンチェスター・シティ)、MF谷川萌々子(ローゼンゴード)、DF古賀塔子(フェイエノールト)を含めて“ヤングなでしこ”世代から6人の選手が招集されたことは新たな流れを感じさせる。

 土方は怪我で辞退となってしまったが、追加招集されたFW上野真実(サンフレッチェ広島レジーナ)も辞退となり、MF塩越柚歩(三菱重工浦和レッズレディース)が呼ばれた。同じ浦和からはDF遠藤優もなでしこジャパン初招集。そうした選手たちが、メンバー定着に向けてアピールできるかという意味でも興味深い試合だった。

 佐々木監督代行による1試合限りの指揮ではあるが、言い換えると4-4-2システムの中で、オーソドックスに現在の序列を反映するスタメン起用と考えられる。GKはパリ五輪後の海外挑戦からイングランドでも評価を高めている守護神の山下杏也加(マンチェスター・シティ)、ディフェンスラインはキャプテンの熊谷紗希と南萌華(ともにASローマ)が2センターを組み、大怪我を乗り越えてなでしこジャパンの左サイドバックで一番手となった北川ひかる(BKヘッケンFF)、そして清水梨紗(マンチェスター・シティ)が離脱中の右サイドバックはパリ五輪メンバーでもある守屋都弥(INAC神戸レオネッサ)が担った。

 中盤2ボランチは司令塔の長谷川唯(マンチェスター・シティ)と攻守のバランスワークに優れる長野風花(リバプール)という鉄板のコンビがスタメン。期待の谷川はベンチスタートだった。女子W杯得点王のMF宮澤ひなたが招集外となった左サイドにはWEリーグ組から中嶋淑乃(サンフレッチェ広島レジーナ)が抜擢されたが、ここはベンチスタートのMF浜野まいか(チェルシー)も含めて、競争が激しくなりそうなポジションだ。

 右サイドハーフはベレーザから海外挑戦をスタートさせた20歳の藤野が務めたが、2トップの一角を担う清家貴子(ブライトン)とは時間帯に応じてポジションをチェンジするなど、ローテーションの関係を作っていたことは興味深い。そして清家と2トップを組むFW田中美南(ユタ・ロイヤルズ)は清家や藤野よりセンターフォワードらしい役割を求められる。

なでしこジャパン・谷川萌々子【写真:徳原隆元】
なでしこジャパン・谷川萌々子【写真:徳原隆元】

初招集の遠藤優がアピール、19歳の谷川萌々子も台頭し競争は激化へ

 試合は前半32分に、CK(コーナーキック)から長谷川のキックにニアで北川が合わせる鮮やかな先制ゴールで主導権を奪うと、その3分後には北川のボール奪取を起点に田中の折り返しを藤野が決めて追加点。さらに、前半37分に藤野がボールを奪ったところから中央で長谷川を経由し、縦パスのこぼれを田中が押し込む3点目。わずか5分間で3得点を叩き込む、見事なゴールラッシュで、前半でほぼ試合を決した。

 後半はスタートから3枚を交代し、ボランチは谷川が長谷川と組む形に。左サイドには中嶋に代わり浜野、前線は田中がお役御免で、植木理子(ウェストハム)が投入された。後半は試合の流れとしても、やや停滞した時間帯も見られたが、谷川の存在感が攻守に際立っており、後半11分に中盤の展開から守屋の折り返しを右足で叩き込んだ4点目は見事だった。

 その後、佐々木監督は女子ブンデスリーガで、5分間でのハットトリックを達成した千葉玲海菜(フランクフルト)を右サイドに、初招集の遠藤優(三菱重工浦和レッズレディース)を守屋に代わり、右サイドバックで投入した。千葉に関しては本来のFWで見たかったところもあるが、ポリバレントな能力もテストされたと見られる。その中でも「積極的に自分の持ち味である推進力というところを意識して入りましたし、ノリさん(佐々木監督)からもそう言われたので、そこを意識しました」と語る。

 その千葉と右サイドで縦のラインを組んだ遠藤はドリブルを得意とする選手だが、内田コーチから、どんどん前に出ていくだけでなく、うしろのポジションからスピードのあるアタッカーをうまく使うことも指導されたといい、短い時間の中でも攻撃面の工夫が見られるパフォーマンスだった。その中で、タイミングの良い攻め上がりから谷川の惜しいボレーシュートにつなげたシーンはクオリティーの高さを感じさせる。

 左の北川とは浦和の同期であり、大怪我を乗り越えてなでしこジャパンに定着した北川には良い意味で刺激を受けているという。遠藤優は「守屋選手もすごい縦に走ると思うんですけど、私もドリブルを武器に、また違った味を出せると思うので。今日は出場時間が短かったですけど、今後このような機会があれば、自分らしさを出してなでしこジャパンに新しい風を受けるような選手になっていきたい」と語った。実績抜群の清水が復帰となれば当然、守屋を含めた競争になるが、清水がほぼ1人で守ってきたポジションに2人の有力候補が出てきたことはポジティブだ。

 ここからすべての評価は新監督が決まってからとなるが、この1試合で評価を高めたのは北川と谷川だろう。左サイドバックは本来の主力である遠藤純(エンジェル・シティ)の復帰待ちではあるが、スウェーデンでさらに力強さを増した北川が、スタメン組に全く見劣りしない存在感と安定感を見せており、遠藤純もポジションを取り返すのは簡単ではないだろう。もしかしたら、攻撃的なキャラクターの遠藤純がウイングかサイドハーフに上がり、北川と縦に並ぶ構図も考えられる。

 谷川に関しては個の力としてはスタメン級と見て申し分ない。ただ、ボランチは長谷川と長野が安定していることもあり12人目のレギュラーあるいは途中から試合の流れをガラリと変えるゲームチェンジャーとしての役割も有効ではあるだろう。無論、谷川もスタメン奪取を狙っているはずだが、新監督がどう考えて組んでいくかは注目点だ。ただ、はっきり言えるのは世界一を目指す3年後の女子W杯、4年後のロサンゼルス五輪に向けて、中心的な存在になっていくべきタレントであることだ。

 その一方で、後半途中からボランチで谷川と組んだ塩越も、主力の長谷川や長野とも違うリズムでボールを動かしたり、ワイドに展開しながら前目に絡んでいくセンスは見応えがあった。ここは今回外れたMF林穂之香(エバートン)もいるポジションであり、ボールを奪うところで能力を発揮できる林を含めた競争になっていきそうだ。結果的にヤングなでしこから昇格した小山や松窪、若いセンターバック候補である古賀や石川璃音(三菱重工浦和レッズレディース)が使われなかったが、交代枠の事情を考えれば仕方がないところもある。本当の意味での新体制で迎える次の活動に向けて、所属クラブでしっかりと成長し、今後の活性化につなげていってほしい。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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