日本人28歳が英2年目で苦境「とにかく辛抱」 大怪我→出番減も「いたら厄介」と評価…逆襲を見据える心境【現地発コラム】

コベントリーで奮闘する坂元達裕【写真:Getty Images】
コベントリーで奮闘する坂元達裕【写真:Getty Images】

QPR戦に途中出場した坂元達裕

「コンディション的には、2月に腰の骨を折る前ぐらいには戻ってきた感覚があります」

 そう語る坂元達裕の額には、大粒の汗が光っていた。

 10月22日に行われたチャンピオンシップ(2部)第11節、昨季から所属するコベントリーが、アウェーでクイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)と引分けた(1-1)試合後、ピッチサイドでの発言だった。ただし、当人が黒いサードユニフォームの裾で拭う汗は、クールダウン後の汗。出場時間は、後半39分からの10分間弱に限られていたのだ。

 最大の原因である怪我の不運は、坂元が口にした「アンラッキー」の一言で片付けることがはばかられる気の毒さだ。腰椎の横突起3本が折れる怪我に見舞われたのは、昨季終盤の第34節。自身は右ウイングに定着し、チームは昇格を懸けたプレーオフ出場権(3~6位)争いへの勢いを増していた最中の大怪我だった。

 公式戦のピッチ復帰は、ほぼ半年後の今季開幕節。だが、その3試合後には足首を痛めるはめになった。第8節で4試合ぶりのスタメン復帰を果たしたかと思いきや、脚に8針の裂傷を負って前半10分で負傷退場。翌節は、今季2試合目の欠場を余儀なくされた。

 坂元自身が言っている。

「ここに来るまで怪我は少ない方でしたけど、削られたり、厳しい当たりのなかで何回か怪我をしてしまって。試合数も多いですし、やっぱりタフなリーグだとは思います」

 腰の怪我などは、想像しただけで、こちらまで痛みで顔を歪めてしまいそうなほど。しかも、ハイボールを競った際の不慮の着地失敗は、滅多にないケースというわけでもない。プロ選手とはいえ、頭の片隅にある再現の不安は、そう簡単に取り除けるものではないのではないか?

「気にならないと言ったら嘘になります。僕が怪我したみたいなシーンは、練習でも試合でも結構あって、相手がジャンプしなくて下に入り込まれたら、ああやって大怪我につながりかねない。怪我したあとに何回かそういう場面はありましたけど、正直、少し抑えてしまっている部分はあるかもしれないですね。行くべきところは怖がらずに行って、行かないところは無理に行かないというのを、流れのなかで判断してやっていけたらいいかなと思っています」

怪我を乗り越えて戦線に復帰した【写真:Getty Images】
怪我を乗り越えて戦線に復帰した【写真:Getty Images】

システム変更によってもたらされた逆風

 この日のピッチ上で躊躇が見られたわけではない。むしろ、坂元は攻守に果敢だった。投入直後から積極的にプレスをかけ、マイボールとなれば、ワンタッチでつないでシュートチャンス創出にも絡んだ。試合はQPRのカウンターで終わるのだが、コベントリーのペナルティエリア内に侵入した斉藤光毅と正対してバックパスを強いたのは、アタッキングサードからのダッシュで守備に加勢した坂元だった。

 筆者は、前日まで足首の怪我から復帰の可能性も報じられた第5節に足を運んでいた。実際は坂元がベンチ外だったコベントリーと引き分けた(1-1)ワトフォードの番記者は、「トリッキーだし、いたら厄介だったな」と言っていた。

 激しい緩急と、鋭い切り返しで相手DFに勝負を挑む日本代表ウインガーは、限られた時間内でも存在感を示す。やはり後半にベンチを出た、前節プレストン・ノース・エンド戦(0-1)でも攻撃の活性化に貢献していた。

 にもかかわらず、続くQPR戦でもベンチスタートだった背景には、3-5-2システムという理由もある。

 マーク・ロビンズ現体制下ではお馴染みのシステムだが、坂元には、移籍1年目に4-2-3-1への基本システム変更が本領発揮への転機となった経緯がある。右サイドの新戦力が負傷離脱となった昨季終盤戦、チームは再び3バックで乗り切ることになった。

 4バックで開幕節に臨んだ今季リーグ戦では、QPR戦3日前のプレストン戦で3バックへの変更を見た。最終的には9位に終わった昨季以上が期待されるコベントリーだが、中盤の要であるベン・シーフが怪我で開幕に間に合わなかった影響もあり、2勝2分5敗で迎えていた第10節。アウェーゲームで、相手ボール時には5バックで守る堅実策には一理あった。

 しかし、結果として2連敗を避けられず、リーグ順位を降格圏手前の21位へと下げた。チームの自信も低下していないはずはない。そこで、4連敗中で最下位に落ちていたQPRとのアウェーゲームでも、3-5-2が据え置きとなったに違いない。

「やり続けていかないと」 苦しい状況でも見据えるスタメン奪回

 3バック採用となると、スタメン復帰を狙う坂元にとっては分が悪い。ハードワークも欠かさない和製ウインガーだが、指揮官がウイングバック起用に踏み切るとは思えない。あくまでも、適所である前線で敵を脅かし続ける起用法を意識していると見受けられる。この日も、交代したチームメイトは新センターハーフのジャック・ルドニだったが、投入された持ち場は2トップの背後だった。

 坂元自身も、「得点、アシストのところは一番関わっていかなきゃいけない。試合に絡めれば、流れを変えていける自信はある。チームに勢いを与えるという面では、またスタメンで使ってもらえたらできる自信はあるので」と言っている。

 では、下位対決で1ポイント獲得にとどまり、また1つ順位を下げてしまった状況でも、4バックへのシステム変更があるのか?

 可能性は高いと見る。敵も3バックだったQPR戦、右ウイングバックで先発したミラン・ファン・エバイクは、チームメイトの怪我で前半9分から相手の左ウイングバックとしてピッチに立った斉藤との1対1で攻守に苦戦した。そのファン・エバイクが、坂元と並ぶ昨季の2大新戦力と言われた理由は、両者が右SBと右ウインガーとして結成した縦のコンビにある。

 もっとも、坂元との呼吸の良さといえば、本職は左ウインガーだが、この日は2トップの一角で先発したハジ・ライトと、終盤にベンチを出たCFのエリス・シムズだろう。昨季の3者は、リーグ戦だけで合わせて36得点をチームにもたらした。第11節終了時点での今季は、QPR戦で先制ゴールを決めたライトが、2得点でチーム内リーグ戦得点王という状態だ。

 昨季前線トリオの中でも、最も重要な一駒とまで言われるようになっていた坂元。本人は、「とにかく辛抱して、試合に絡んで結果を残せるように練習からやり続けていかないといけない」と、大怪我を克服したあとも歯を食いしばり続ける覚悟だ。

 最後に、控え室に戻る前の取材対応へのお礼とともに「誕生日おめでとうございます」と伝えると、28歳になったウインガーは、汗を拭いて「ありがとうございます」と微笑んでから、勝ち損ねた一戦でのベンチスタートに「微妙な誕生日でした」と苦笑いしていた。だが、再びコベントリーのキーマンとしての坂本が誕生する日も遠くはないはずだ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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