J1残留争い…安全圏&危険ラインを考察 浦和の命運いまだ不透明、勝ち点40付近で大混戦【コラム】
佳境のJ1リーグ、混戦模様の残留争いを展望
今シーズンのJ1リーグも佳境に入ったなかで、残留争いが激しくなってきた。20位のサガン鳥栖は残念ながら、すでにJ2降格が確定しているが、先週末の試合で19位の北海道コンサドーレ札幌が名古屋グランパスに、18位のジュビロ磐田がセレッソ大阪にアウェーで勝利し、勝ち点3を積み上げたことで、残りの試合結果によっては残留ラインがかなり高くなる可能性もある。
そうした状況にあって、特に危機意識を持たされたのが浦和レッズだった。雷雨や台風の影響で、2試合が延期となっていた分、勝ち点どおりに評価するのが難しかったが、シーズン途中にマチェイ・スコルジャ監督が就任して初戦こそ、徹底した堅守速攻がハマる形でガンバ大阪を相手にアウェーで1-0の勝利を飾った。しかし、その後は4連敗。しかも得点が東京ヴェルディ戦で、相手のミスを突いたショートカウンターからの1点だけだった。
1-2という結果以上の“惨敗”に終わった東京V戦から中3日で、残留争いの“6ポインター”として注目された柏レイソル戦に臨む前に、選手ミーティングを行い、1人1人が自分なりの意見を言うことで、短い時間ながら試合に向けた意識やビジョンの共有に努めた。それがどこまでピッチに表現されたかは正確に分からないが、ラスト1プレーで相手のハンドを誘う形でPKを獲得し、ホームで1-0の勝利を飾ったことで勝ち点も42に伸びた。
ただ、それでも浦和の残留に確定ランプを灯すのは早い。柏戦でスタメン起用された浦和のFWブライアン・リンセンも「大きな勝利でプレッシャーからは多少解放されますけど、4試合半(※雷雨で中止となった11月22日開催の川崎フロンターレ戦は後半キックオフから再開のため)残っている。今は勝利が大事。いいプレーというよりも戦って、みんなでサバイブ(生き残る)するために、助け合う部分が大事でだと思います」と語る。
その一方で、同じ勝ち点42でも、より難しい立場にあるのは横浜F・マリノスかもしれない。シーズン中に監督交代を経験したという部分も浦和と共通するが、ACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)と天皇杯を並行して戦っており、最終節の名古屋グランパス戦まで公式戦9試合を残している。当然、天皇杯のファイナルに勝ち上がれば10試合に増える。ハリー・キューウェル前監督を引き継いだ、ジョン・ハッチンソン監督の手腕も問われるが、横浜FMにとっては過密日程をどうこなすかが重要テーマだ。浦和にしても横浜FMにしても、残り5試合で1勝すれば勝ち点45になるが、10月30日に迎える直接対決で勝敗がはっきりすると、負けた側は引き続き、難しい舵取りを強いられていくのは確かだろう。
19位の北海道コンサドーレ札幌が残り4試合を全勝した場合は勝ち点44、18位の磐田は残り5試合で同50まで伸ばせるが、現実的には同40~45の範囲で、残留ラインが決まってくるだろう。その意味でも横浜FMと浦和の直接対決は重要な意味を持つ。ここで勝ち点3を獲得したほうが、残留をほぼ確実なものにできるからだ。負けたほうが残留争いの沼にどっぷり浸かるわけではないが、残り試合数が減るなかで、下位が勝ち点を積み上げるとプレッシャーが強まってくる。
夏加入の新守護神が躍動、苦戦予想の湘南が安全圏間近に
勝ち点41の湘南ベルマーレと京都サンガF.C.は降格圏に低迷していた前半戦とは対照的に、後半戦はハイペースで勝ち点を伸ばしてきた。京都は夏に加入したFWラファエル・エリアスが大当たりになるなど“躍進”の理由は1つではないが、ともに若手の成長などに加えて後半戦のほうが、やるべきことがクリアになっているのは大きいだろう。ただ、京都は前節、鳥栖に勝利するまで3試合勝ちなしと、一時の勢いは止まっており、タイトルが懸かる天皇杯ファイナル後に来るアウェーのサンフレッチェ広島戦が残留への試金石となる。
湘南に関しては非常に難しい戦いになることが予想された鹿島アントラーズ、東京V、そして首位の広島という上位との対戦を3連勝したことで、一気に勝ち点9を積み上げた。特に夏加入のGK上福元直人は3連勝のMVPだろう。その勢いを味方に次節のFC東京戦で勝利できれば勝ち点44となり、札幌戦を待たずしてほぼ安全圏になるが、苦しいシーズンを戦い、ようやく残留が見えてきたところから最後のエネルギーを出し切れるかは未知数だ。
今、一番難しい心理状態に置かれているのはアルビレックス新潟かもしれない。ポゼッションをベースに洗練された“新潟スタイル”を確立してきているが、リーグ戦は6試合勝ちなしで、3試合を残して勝ち点40と危険水域に入ってきている。18位の磐田とは勝ち点5差あるが2試合少ないため、自力で逆転される可能性があるのだ。しかも、得失点差は新潟がマイナス14、磐田がマイナス15で、もし勝ち点5差を追いつかれた場合、得失点差も追い抜かれている可能性は高い。
新潟はルヴァンカップでプライムラウンド決勝まで勝ち進んでおり、クラブ初のメジャータイトル獲得に向けて、当日の上越新幹線が増便されるなど、11月2日の名古屋グランパスとファイナルには大勢のサポーターが国立競技場に駆けつけることが予想される。幸い、決勝から次のアウェー柏レイソル戦まで中6日あるので、心身の疲労をとり、リーグ戦に切り替える時間はあるが、残留争いの“6ポインター”に敗れてしまうと、現在4位のガンバ大阪とのホームゲーム、歴史的に勝利のない埼玉スタジアムでの浦和戦があるだけなので、柏戦には何としても勝利が求められる。
その新潟を勝ち点1差で追う柏はその前に、一巡目で0-2負けを喫しているアビスパ福岡とのアウェーゲームがある。福岡は現在、勝ち点44で11位、同勝ち点で10位の川崎フロンターレとともに、残留を確定的にさせるまであと一歩というところにいる。柏にとっては難敵になるが、ここで勝ち点を積み上げて、新潟戦に良い流れを持ち込めるか。この2試合、後半アディショナルタイムのPKでFC町田ゼルビアに追い付かれ、浦和には敗れているだけに、福岡戦でなんとか悪い流れを断ち切りたい。
終盤まで混迷を極めるJ1の“残留争い”だが、次節の結果で先行きがよりはっきり見えてくるものがあるはず。そこまでチームがいかに準備して、いい状態で試合に臨めるか。ここからの戦いにも注目していきたい。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。