J2落ち回避へ…真価が問われる22歳SB 日本代表トップ選手の“高レベル”を体感「生かさないと」【コラム】
柏DF関根大輝が浦和戦で感じた課題とは
2024年J1も佳境を迎え、上位・下位争いのどちらも混沌とした状況となっている。とりわけ下位は、すでにサガン鳥栖のJ2降格が決定。残り2枠を回避すべく、北海道コンサドーレ札幌、ジュビロ磐田、柏レイソル、アルビレックス新潟らがしのぎを削っているところだ。
とりわけ柏はパリ五輪の日本代表エース・細谷真大、J1屈指の助っ人外国人、マテウス・サヴィオらを擁するだけに、是が非でも日本最高峰リーグの座を死守したいところ。過去を紐解くと、2006、2010、2019年と3度のJ2降格経験があり、いずれも1年で復帰しているが、昨今はJ2全体のレベルも上がっていて、確実に1年でJ1に戻れる保証はない。だからこそ、絶対に落ちるわけにはいかないのだ。
細谷と同じパリ五輪代表で、10月の2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選のサウジアラビア戦(ジェッダ)&オーストラリア戦(埼玉)に参戦した22歳の関根大輝も重責を感じている1人だ。
彼はまだ拓殖大学在学中で、通常より1年早くプロ入りした新人だ。それでも開幕から右サイドバック(SB)の定位置を掴み、瞬く間にU-23日本代表の座を射止め、世界の大舞台に参戦。1年足らずでA代表にまで上り詰めた。その爆発的な成長曲線には驚かされるばかりだが、それとともに主軸の自覚も強まっているのだ。
それを色濃く感じさせたのが、10月23日のJ1リーグ第25節(雷雨の影響で延期した試合)浦和レッズ戦。このゲームは勝ち点39で並ぶ両者のサバイバルマッチ。負けた方が本格的に残留争いに巻き込まれるという生死を賭けた戦いだった。ゆえに、関根も開始早々から対面の松尾佑介の突破を阻止。時には攻撃参加してくるパリ五輪代表の盟友・大畑歩夢もの身体を張って封じていた。その守備意識の高さは目を見張るものがあった。
ところが、0-0でもつれこんだ後半ロスタイム。柏は浦和に一瞬の隙を突かれてしまう。ペナルティーエリアギリギリのところまで上がったボランチの原口元気が左サイドを上がった関根貴大にスルーパスを供給。ここに関根(大輝)も反応したが、クロスが足に当たって浮き球になってしまった。これをニアサイドに詰めていたチアゴ・サンタナが左足シュート。立田悠悟が確実に止めたかと思いきや、不運にもハンドの判定。結局、PKで1点を奪われてしまい、タイムアップの笛を聞くことになったのである。
「あそこはハンドしないようにというのと、足を出して股だけ通させないように…という意識はありました。相手が少し出遅れたので、できるだけ寄せようと思って行きました。結果的にボールが当たって後ろに行っちゃったのは悔しい。あそこで前に弾いていたら失点にはつながらなかったと思います。もう一歩詰めるだったり、本当にそういうところを自分は突き詰めていかないといけない。サッカーというのは、本当に一瞬の隙で事故的なものが起きるもの。ほかが完璧でもあのワンプレーだけで評価されないと思いますし、最後の最後までこだわっていかないとダメですね」と本人も失点に関与した部分を大いに反省していた。
彼が細部徹底の重要性を口にするのも、A代表でハイレベルな面々とトレーニングを積み重ねた経験が大きいようだ。ご存じの通り、関根は2試合続けてベンチ外になり、ピッチに立つことはできなかったが、柏の先輩・伊東純也(スタッド・ランス)とパス交換の練習を行い、ゲーム形式で三笘薫(ブライトン)や中村敬斗(スタッド・ランス)とらとマッチアップを繰り返したことで、1つのミスも許されないという厳しさを再認識したのだという。
「僕はオーストラリアとかサウジアラビアと試合をするよりも、代表の紅白戦の方がレベルが高いと思った。全然プレースピードが違いますし。強力なアタッカーが揃っているなか、彼らと対峙して、ちょっとでも気を抜いたら簡単に裏を取られますし、取りにいけるところを逃すともうボールを取れなくなる。その部分のアラートさを学べたので、それをJリーグにも生かさないといけないと感じています。あの基準でプレーし続けられれば、また代表に戻れるとも思えたので、本当に隙を作らないようにやっていきたいと思います」と関根は目をギラつかせたのだ。
待ち受ける残り4戦は、福岡、新潟、神戸、札幌と難敵ばかり
浦和戦では一瞬の綻びが敗戦につながったが、同じミスを繰り返すわけにはいかない。柏に残されたのは4試合で、堅守のアビスパ福岡、ルヴァンカップ決勝進出のアルビレックス新潟、昨季王者のヴィッセル神戸、同じく残留争いに渦中にいる札幌と難敵ばかりだ。
「どこが相手でも自分たちは勝たないといけない。相手は気にせず、自分たちがいかに点を取るかだと思いますし、とにかくそこにこだわってやっていければと考えています」と関根は手堅い守りはもちろんのこと、より積極的に攻撃に絡んでいく構えだ。
浦和戦でも後半途中からは高い位置を取り、縦関係を形成した山田雄士と絡みながらサイドを崩し、クロスを入れようという意欲を前面に押し出した。しかし、この日はどれもFWと合わず、1点が遠かった。そのあたりは連係面の問題もあるが、彼自身の推進力や個の局面打開力による部分も大きい。それをもっともっと前面に押し出し、「ゴールに直結する仕事のできる右サイドバック(SB)」へ変貌を遂げていくことが重要なのだ。
それが日本代表定着のポイントでもある。関根がサバイバル競争に挑んでいる右ウイングバック(WB)は伊東純也、堂安律(フライブルク)と森保ジャパンの看板アタッカーが陣取っている。4バックをベースにしていた時はレギュラーだった菅原由勢(サウサンプトン)でさえ、最終予選突入後は出番が遠のいているのだから、いかに狭き門なのかよく分かるだろう。
関根は3バックの右や中央でもプレー可能だが、そういった万能性や多様性含め、柏で磨いていくしかない。万が一、J2に落ちてしまったら、A代表に呼ばれる可能性も一気に下がってしまう。彼自身の近未来のキャリアのためにも、ここは何としても踏みとどまるしかない。
果たして関根は窮地に瀕する柏を救えるのか…。今こそ、22歳SBの真価が問われる時である。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。