原口元気「普通に先発から外された」 浦和で3812日ぶり“合唱”も胸中吐露「全然納得していない」【コラム】

浦和の原口元気【写真:徳原隆元】
浦和の原口元気【写真:徳原隆元】

原口も感動、ホーム戦の勝利で浦和サポーターと選手が大合唱「We are Diamonds」

 ホームで勝利した試合のピッチ上で、浦和レッズの選手たちがスタンドを赤く染めたファン・サポーターとともに歌う「We are Diamonds」が、埼玉スタジアムに響きわたる。柏レイソルを1-0で下した23日のJ1リーグ第25節後に生まれた光景への思いを問われた元日本代表MF原口元気は、再び気持ちを昂ぶらせていた。

「10年ぶり以上なので、まあ、かなり感情的にはなりましたし、何て言うんだろう、やはり毎週のように歌いたいと思いますよね。そうなっていかなきゃいけないし、一回歌って満足するんじゃなくて、次も、その次も歌えるように、来シーズンは毎試合、歌えるようにしたいと思いました」

 浦和として6月30日のジュビロ磐田戦以来、原口個人にとっては渡独する直前の2014年5月17日のセレッソ大阪戦以来、実に3812日ぶりとなるリーグ戦後の「We are Diamonds」は難産の末に合唱された。

 試合前の雷雨で、8月7日の開催予定が中止・延期されていた柏との未消化マッチ。約2か月半の間に両チームは勝ち点39で並び、得失点差で浦和が16位、柏が17位と自動降格圏が迫る状況で顔を合わせた。

 勝者がJ1残留へ近づく“6ポイントマッチ”は、一進一退の攻防が続いたまま5分間が表示された後半アディショナルタイムに突入。そして、スコアレスドローの予感が漂ってきた後半アディショナルタイム6分に大きく動いた。

 左タッチライン際にいたMF長沼洋一からパスを受けたボランチの安居海渡が、意表を突くワンタッチパスを前方へ通す。ターゲットはペナルティーエリアの左角付近にいた原口。半身になって右足でトラップした原口は、ひと呼吸おいてから左足でスルーパスを一閃。MF関根貴大をさらに縦へ走らせた。

 森保ジャパンにも選出された柏のDF関根大輝のチェックにあいながらも、関根は利き足とは逆の左足でクロスを放つ。マーカーにあたって山なりにコースを変えたボールへ、真っ先に突っ込んできたFWチアゴ・サンタナが左足で強引にシュートするも、DF立田悠悟の決死のブロックの前に阻まれた。

 しかし、最初は浦和のコーナーキックを示した福島孝一郎主審が、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)との交信を開始する。さらにピッチ脇のモニターでOFR(オンフィールド・レビュー)を実施。立田にハンドがあったとして浦和にPKが与えられ、これをサンタナが決めた瞬間、時計の針は後半アディショナルタイム10分を回っていた。

PKにつながったチャンスは原口と関根の連係から生まれた

 後半30分にMFサミュエル・グスタフソンとの交代で、ボランチとして投入された原口は、コンビを組む安居よりもはるかに前でプレーし、PK奪取につながるパスを出した場面をこう振り返った。

「もう点を取りにいくしかなかったので、ボランチの位置からドリブルで前へ進むプレーと、ちょっと前に入ってゴールに絡むプレーを意識していました。結果的にあの位置で受けて決勝点も生まれているので、やはり自分は前の選手だな、と思います。あそこに入っていくときが、自分としても一番わくわくするので」

 さらに関根へのスルーパスは「結果オーライ、という感じでしたね」と思わず苦笑した。

「タカ(関根)の反応が一瞬、遅れたと思いましたけど、逆にタカが遅れたおかげでオフサイドにならなかった。タイミングが合っていれば、タカがシュートにいけるようなパスを意識していましたけど」

 実はVARは関根がオフサイドか否かもチェックしていた。関根自身も「一瞬だけど、僕だよな、と思った」と映像チェックがはじまったときには、柏ボールでの再開も頭をよぎったと明かす。

「(原口)元気くんからパスが出てこないと思って、一瞬止まったおかげでオフサイドにならなかった」

 ともに下部組織出身で、浦和に大きな愛を抱く原口と関根が音頭を取る形で、浦和は21日に選手だけのミーティングを開催。5シーズンぶりの4連敗を喫し、自動降格圏の18位のジュビロ磐田と勝ち点4ポイント差で迎える柏戦へ、思いを1つにしていた。原口がミーティング開催にいたった理由を明かす。

「何とかしなきゃいけない、という思いからですね。今日の試合は本当に相手も相手だったので、残留に向けてここを勝たないと本当にしんどい流れになるし、この流れは僕らでしか食い止められないので」

 選手各々が腹をくくって、思いの丈を訴えた。そのなかで9月1日に約10年ぶりの復帰が決まり、ファン・サポーターを喜ばせた原口は、敵地・味の素スタジアムで東京ヴェルディに逆転負けを喫した19日の前節後に、場内を挨拶しているときにスタンドから投げかけられた言葉をチームメイトたちと共有した。

「サポーターの方々に『お前、何をしに帰ってきたんだよ』と言われたときに、僕も『確かにそうだな』と思ってしまった。サポーターの方々の気持ちは十分に理解できるし、それはチームのみんなにも伝えた。僕自身はいいものだと思っているし、一緒に戦えている、と感じながらプレーできるのは幸せですよね。だからこそ、いまは何だか1勝して喜んでいる場合でもないな、という思いがあります。何で残留争いをしているんだろう、と」

原口が痛感「まだまだ僕も満足するほど動けていない」

 長男の誕生日である7月8日にちなんで、あえて「78」と大きな背番号を選んだ浦和での再チャレンジ。デビュー戦となった9月14日のガンバ大阪戦こそ、後半31分から敵地・パナソニックスタジアム吹田のピッチに立ち、同4分に関根が決めていた先制点を最後まで守り抜いての勝利に貢献した。

 しかし、先述したように翌節から浦和は4連敗とトンネルに突入する。黒星のなかには、ともにホームでFC東京に0-2で敗れた9月21日の第31節、セレッソ大阪に0-1で敗れた10月5日の第33節も含まれる。原口も前者は後半16分から途中出場で、後者は先発で後半31分までピッチに立ちながら力になれなかった。

 埼玉スタジアムで「We are Diamonds」を合唱する機会を手繰り寄せられなかったからこそ、1つの思いを具現化させた今、原口は自身と愛する浦和の今後へ向けて熱さをほとばしらせる。

「監督からは『後半に経験がほしい』と言われましたけど、今日は普通に先発から外されたと思っている。僕自身も前節は良くなかったから悔しい反面、納得しなきゃいけないし、出たら何かをしてやろう、と」

 柏戦へ向けて胸中に秘めていた思いを明かした原口は、さらにこんな言葉を紡いでいる。

「早くもう1つ勝ってまず残留を決めて、来シーズンに向けて僕も変わらなきゃいけないし、チームも変わらなきゃいけない。まだまだ僕も満足するほど動けていないし、でもどうせ出るのならば前(のポジション)で出たい、というのは今後も伝えいきたい。何で僕が先発じゃないんだという気持ちと、何で僕がチームを救えていないんだという気持ちとがあるし、全然納得していないですよ。なので、これからですね」

 連敗を食い止め、暫定12位に順位を上げた浦和に残されているのはあと5試合。そのうち11月10日のサンフレッチェ広島戦、同22日の川崎フロンターレ戦、そして12月8日のアルビレックス新潟との最終節と、勝利した後に「We are Diamonds」を合唱できる埼玉スタジアムでの試合が待っている。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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