J2台風の目に現れた救世主 古巣鹿島を「気にかける余裕ない」…破竹6連勝に見据える本音 【コラム】

山形の土居聖真【写真:©MONTEDIO YAMAGATA】
山形の土居聖真【写真:©MONTEDIO YAMAGATA】

今夏加入したMF土居聖真が中心で活躍

 佳境を迎えているJ2戦線で、モンテディオ山形が台風の目と化している。中断明けの8月以降で9勝1分1敗と右肩上がりに転じて勝ち点を次々にゲット。10月20日の清水エスパルスとの第35節では、ホームで今シーズン無敗を誇っていた昇格目前の強敵から2-1の逆転勝利をもぎ取り、破竹の連勝を「6」に伸ばした。

 7月末まで8勝5分11敗と黒星が先行し、13位だった山形の順位は、17勝6分け12敗と貯金を5つも作ったうえで7位へ一気に急上昇。3位から6位までの4チームが進出する、J1プレーオフ圏内をはっきりと視界にとらえている。変貌を遂げた山形の中心に、新天地で背番号「88」を輝かせる男がいる。

 中断期間だった7月25日。ジュニアユース時代から約20年も所属した鹿島アントラーズから、期限付きではなく完全移籍で加入したMF土居聖真が清水戦後に残した言葉が、いま現在の充実ぶりを物語っている。

「心も体も、あのころとはやはり別人の感覚があります」

 あのころとは、ランコ・ポポヴィッチ前監督に率いられた鹿島でプレーした今シーズンの前半戦を指す。出場11試合でプレー時間の合計は270分。先発は3度目だった4月3日のアビスパ福岡戦が最後で、5月中旬以降は2試合、ともに1分ずつの出場にとどまっていたなかで、愛着深い鹿島との決別を決めた。

 5月には32歳になった。古巣への感謝の思いを抱きながらも、サッカー人生の第2章を紡ぐために、これまでにも何度かオファーを受けていた、生まれ育った山形市をホームタウンとするチームの一員になった。背番号は鹿島で2015シーズンから背負ってきた「8」を、あえて重ね合わせた「88」に決めた。

 迎えた山形での初陣。8月3日のファジアーノ岡山戦で先発した土居は、先制された4分後の後半12分に移籍後初ゴールとなる同点弾を一閃。その時点で4位だった難敵と敵地で引き分けた山形の快進撃が幕を開けたなかで、土居は全11試合で先発。いきなり8月の月間MVPにも輝くなど、ここまで4ゴールを挙げている。

 2シーズン目の指揮を執る渡邉晋監督も、土居よりひと足早く湘南ベルマーレから加入し、すでに6ゴールを挙げているFWディサロ燦シルヴァーノとともに、夏場から仲間となった新戦力の存在に言及する。

「中断期間中に加入した選手たちの働きは、もちろん素晴らしいものがあると思っています」

 もっとも、土居自身は「僕は何もしていないんですけど」と、清水戦後に謙遜しながらこう語っている。

「僕がというよりは、チーム全体として、スタッフ、チームメイトを含めてみんなで積み上げてきたものだと思っています。今日は勝ちましたけど、まだまだ改善点はたくさんある。本当にここまでずっと自分たちのストロングポイントである、しっかりとボールを大事にしながら、ゲームを支配しながらゴールに迫るサッカーがいまは本当に毎試合できているので、これを今シーズンが終わるまで続けていくだけだと思っています」

 託されているポジションは4-2-1-3システムのトップ下。中断期間中に練習を積めたものの、開幕前と比べれば、与えられた時間はあまりにも少ない。それでも清水戦の後半4分には見せ場が訪れている。

 右サイドから右ウイングのイサカ・ゼインが出したパスを、土居が中央で以心伝心のスルー。パスを受けた燦シルヴァーノが右へ持ち出し、縦へ走っていたゼインへパス。その間にファーへ詰めていた土居がゼインのクロスに反応し、スライディングしながら必死に伸ばした左足はわずかに届かなかった。

 球際で接触した清水の守護神・権田修一を気づかう優しさも見せた土居は、試合後にこう語っている。

「加入した当初はやはり僕のプレースタイルをみんな探り探りで、僕もみんなのプレースタイルやチームのやり方といったものを探り探りでしたけど、練習じゃなくて試合を重ねていくたびに、この選手はこういうのが得意だとか、こういうプレーをしてほしいのか、というのがどんどんわかってきました」

 山形でのプレー時間は、すでに741分に到達している。選手は試合に出るのがまず第一歩を実感している土居にとって、完全移籍で袂を分かち合ったといっても、古巣・鹿島のその後は気になるのだろうか。

「いまは山形の選手なので、しっかりと山形で結果であるとか、いろいろなものを残していきたい。なので、あまり鹿島を気にかける余裕がないというか、本当にいっぱい、いっぱいなので……」

 鹿島に対してこう言及した土居は、今月に入って鹿島から解任が電撃的に発表されたポポヴィッチ前監督の件を「びっくしたのでは」と問われると、苦笑しながら首を横に振っている。

「そういう世界だし、僕も何度も何度も(監督交代を)経験している。ちらっと噂も聞いていたので」

 リーグ戦も残り3試合。勝ち点を「57」に伸ばした山形は、勝ち点1差の「58」で並び、得失点で4位からジェフユナイテッド千葉、岡山、ベガルタ仙台と並ぶグループへの追撃態勢をさらに強めた。ホームのNDソフトスタジアムで11月10日に待つ最終節では、千葉との直接対決も組まれている。土居が決意を新たにする。

「もちろんチームの勝利のために、プレーオフというよりも本当に目の前の試合に全力を注ぐだけだと思っています。個人的には今日もいい集中力で試合に臨めたので、これをまたあと1試合、2試合、3試合、4試合と続けていきながら、チームとしても足元をしっかりと見つめながら次に向かっていきたい」

 リーグ戦の残り試合数よりも多い「4試合」と言及したのは、山形として3シーズン連続で、土居個人としては初めて臨むJ1昇格プレーオフをすでに見すえている証といっていい。鹿島のクラブ公式HPを通じて、ファン・サポーターへ「次の旅へと出発します」と別れを告げてから間もなく3か月。2015シーズンを最後にJ1から遠ざかっている山形の、まさに昇格請負人となった土居の戦いがいよいよクライマックスを迎える。

(藤江直人 / Fujie Naoto)

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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