鳥栖降格で待ち受ける“茨の道”…スポンサー離れ売上急落、クラブ再構築は「限りなく険しい」【コラム】

サガン鳥栖が4試合を残して降格決定【写真:徳原隆元】
サガン鳥栖が4試合を残して降格決定【写真:徳原隆元】

降格決定の鳥栖、戦術の基盤失い低迷脱却ならず

 10月19日、J1リーグ最下位のサガン鳥栖は京都サンガF.C.に0-2で敗れた。勝点を26から伸ばせなかった一方、残留圏である17位の柏レイソルが同39としたため、4試合を残してJ2降格が決まった。

 ついに力尽きた、と言えるだろう。

 実際のところ、2023年シーズンから暗い影を落としていた。そのシーズンの前半戦(17試合)を終えた時点では6勝5分6敗/得点19失点21(10位/勝点23)の成績を残していた。だが後半戦だけで考えると3勝6分8敗/得点24失点26(17位/勝点15)で、下位に沈んでいたのだ。

 この失点数の多さが今年の命取りになった。第34節を終えて失点数が65というのはリーグワースト。第2節の北海道コンサドーレ札幌戦こそ4-0で勝ったものの次々と大量失点を重ね、第7節の浦和レッズ戦を終えて14失点と1試合平均2失点を喫する。2023年シーズンの1試合平均1.4失点をはるかに上回るペースだった。

 その浦和戦後の記者会見で川井健太前監督に「失点を減らさなければいけないのではないか」と質問した。川井監督は「なぜ、そうなっているかをもっと追求しなければいけない。いろいろな要素があります。しっかりと試合を見返して改善していきたい」と答えており、その後は第9節で鹿島アントラーズに4-2、第14節には川崎フロンターレに5-2と勝つなど上昇の機運を感じさせる時もあったが、それでも失点数は減らなかった。

 2022年シーズンから指揮を執った川井監督はそれまでの鳥栖を変えようとしていた。堅守速攻で知られたスタイルから、しっかりとボールを保持し、自分たちで主導権を握り続ける戦い方にした。たしかにそのシーズンはうまく機能した。前シーズンのレギュラークラス10人が抜けるという異常事態に陥ったチームを11位に導き、2023年は14位で残留を果たしたのだ。難しい時代に川井監督はしっかり責任を果たした。

 だが就任から1年半を経過し、相手チームの分析が進んでいくとうまく機能しなくなった。2024年は前年度からの守備の不安もあり、序盤戦で選手から戦術に対する迷いの声が漏れてきた。そして鳥栖は苦しくなった時にどこに帰るのか、という基盤を失ってしまっていた。

 最も分かりやすかったのは第18節のアビスパ福岡戦だろう。九州ダービーとして盛り上がるこの試合に鳥栖は0-2と敗れたが、福岡に走行距離でもスプリント回数でも負けていた。川井監督が就任直後、自チームを「やっぱり走れる」と語っていたが様相を変えていた。

 それでも川井監督にさまざまな責任を押し付けることはできないはずだ。主力がごっそり抜けた2022年に監督を引き受けて降格の筆頭候補だった鳥栖を残留させたのだから。それにそもそも鳥栖は12年にユン・ジョンファン監督の下でJ1初参入した時から常に「降格候補」と言われ続けた。

大口スポンサーが離れ財政基盤が脆弱に…

 一番の問題だったのは鳥栖の財政基盤。2012年の昇格時、J1クラブの平均収入が約32億円だったのに対して鳥栖は約15億円。もっともJ2時代の2011年は約7億円だったことを考えると倍以上には伸びた。

 2015年からは大口スポンサーにも恵まれるようになり、売上を伸ばしていくが17年の約34億円、18年は約43億円になったところで一気にスポンサー離れが進み、19年度の売上は26億円にまで急落する。元スペイン代表FWフェルナンド・トーレスの獲得に際してスポンサーとの意思疎通に問題があったことや、別のスポンサーは内部の問題があり、クラブの土台は一気に崩れた。そして佐賀県内の企業では大きな穴を埋めることがなかなかできなかった。

 本当ならこの2019年で鳥栖が降格しても不思議ではなかった。そこをギリギリで乗り切ったのは鳥栖の「フィジカル」以外のもう1つの特長、「若手選手の起用」のおかげだった。19年にトップ昇格した中には17歳の松岡大起(福岡)や大畑歩夢(浦和レッズ)、22歳の樋口雄太(鹿島アントラーズ)がおり、2020年になると17歳の中野伸哉(ガンバ大阪)、大卒新人の森下龍矢(レギア・ワルシャワ)や林大地(G大阪)らを起用し、フレッシュな戦いぶりで立ち向かった。

 しかし2022年からはそんな若手を起用する余裕がなくなった。寮などの施設が充実し、サッカーに打ち込める環境をいち早く整えていた鳥栖ユースに入ることはJ1リーグデビューへの近道だったが、その道は狭くなってしまった。

 こうして降格してしまった鳥栖がすぐJ1に戻れるかというと道は限りなく険しい。2023年度の鳥栖の売上は約25億円。これは同年度のJ2クラブと比較すると9位になる。初昇格のFC町田ゼルビアが約34億円、ジュビロ磐田は43億円で、売上トップの清水は約51億円あった。

 しかも鳥栖が前回J2リーグで戦っていた2011年に比べると、今のリーグには曲者が多い。低予算でもはっきりした、魅力あるサッカーを繰り広げているチームばかりになっている。簡単には勝てない相手ばかりだ。

 茨の道は覚悟しなければならないだろう。チーム作りだけではなく、クラブの再構築も必要だ。まずはシーズン直前やシーズン中に選手が移籍してしまう要因を取り除かなければならない。選手を育てる力が確かなのは、多くのクラブに鳥栖出身の選手がいることで明らかなのだから。

(森雅史 / Masafumi Mori)

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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