J1昇格目前で…希望砕く7分間の逆転劇 監督ニヤリ「連勝できています」の言葉にあふれた自信【コラム】
【カメラマンの目】アウェー清水戦で鮮やかな逆転、山形が土壇場で見せた底力
IAIスタジアムのスタンドを埋めた清水エスパルスサポーターたちの、J1昇格への思いは果てしなく高かった。もちろん、ピッチに立つ清水の選手たちもサポーターが発する熱量に勝るほど、勝利を目指す思いは強かったことだろう。
しかし、勝ち点3の獲得への思いは、対戦するチームも強く持っていた。J2リーグ第35節、清水がホームスタジアムに迎えたのは、リーグ終盤で5つの白星を並べ連勝街道をひた走るモンテディオ山形だった。
試合はその山形が劣勢の展開を高い守備力で対抗し、清水の攻撃を1失点で凌ぐと、終盤に2ゴールを挙げて2-1で勝利。J1昇格が手に届くところにあり、いつも以上に勝利へのモチベーションを高く持っていた清水を相手にアウェーの地で、しかも内容的にもゲームプランを貫いて勝利したことは見事だった。
試合後、敵地で逆転勝利を挙げた山形の選手たちは、その喜びをサポーターたちと分かち合っていた。歓喜に沸く光景を少し離れたところから、誇らしく、そして眩しそうに見つめていた渡邉晋監督に、広角レンズを装着したカメラを向ける。
こちらの「プランどおりの戦い方で、しっかりと守れていましたね」という言葉に「それができているから連勝できています」と笑顔で答えてくれた。
しかし、勝利までの道のりは険しかった。山形はのっけから劣勢の展開を強いられる。
清水はシーズン開幕前の鹿児島キャンプを取材していた。その時のチームの印象はトップ下の乾貴士、そして左サイドを担当するカルリーニョス・ジュニオの推進力のあるドリブルを武器に、攻撃を組み立てていくスタイルが根幹となっていた。
リーグ終盤を迎えたこの試合では、右サイドの中盤を担当するルーカス・ブラガとその後方に位置する原輝綺の果敢な仕掛けから、清水は多くのチャンスを作っていく。
ただ、山形GK後藤雅明を中心とした最終ラインは、非常に強固に作られていた。さらに、圧倒的に敵陣へと攻め込んで来るものの、シュートを吹かして枠を捉えることができない清水の決定力不足にも助けられ、山形は無失点の時間を続けていく。
それでも後半30分にカルリーニョス・ジュニオのミドルシュートをGKが弾くと、そこを北川航也に詰められて失点を許す。
ここで山形は気落ちすることなく、失点からわずか5分後に高橋潤哉が同点ゴールをマークする。少ないチャンスからゴールへの道筋を探っていた山形は、後半29分に攻撃の選手を3人交代させている。この投入が残り時間も少ないということで、よりシンプルに前線へとボールを運ぶ流れを作り、得点へとつながった。
同点弾は山形の集中力を維持させた。なにより、劣勢の展開を強いられながらも粘り強く清水の自陣への進出を阻んでいた守備陣に、再び敵の攻撃陣に立ち向かわせる勇気を与えたと思う。そして、後半42分に後藤優介が勝ち越し点を挙げて、鮮やかな逆転劇を完結させた。
山形はこれでリーグの連勝を6と伸ばし、順位も7位と昇格プレーオフ出場圏内の6位以内の成績も見えてきた。渡邉監督も好調の要因と挙げている、安定した守備力が光るいまの山形なら、さらに順位をジャンプアップさせる可能性は十分に秘めている。
清水サポーターと同じく、山形サポーターもJ1昇格への期待は果てしなく高い。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。