英クラブから日本の10番へ「オファーくれた」 “株上昇”で渡英…ファン拍手喝采「本当嬉しい」【現地発コラム】

イングランド2部に活躍の場を移した斉藤光毅【写真:Getty Images】
イングランド2部に活躍の場を移した斉藤光毅【写真:Getty Images】

過渡期のなかチャンピオンシップで苦しむQPR

「(チームの焦りを)感じるところはめちゃくちゃあるんですけど、こうやってスタメンで出れていないっていう危機感も感じます」

 10月19日のチャンピオンシップ第10節、ロンメルSK(ベルギー2部)からクイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)へ期限付きで移籍中の斉藤光毅が、ホームでのポーツマス戦(1-2)に敗れたあとの発言だ。自身は、約1か月ぶりにスタメンを外れ、20分程度のピッチに終わっていた。

 チームは、下位対決に敗れて24チーム中22位から最下位に落ちた。満員のロフタス・ロードに響くブーイングで不満を示したサポーターならずとも、予想外と思えた敗戦。QPRは、復帰1年目のイングランド2部で勝ち星のなかったポーツマスを相手に、待望の今季ホームゲーム初勝利を挙げると見られていた。

 しかし、開幕からの低調は驚きとは言えない。「プレミアリーグ一歩手前」のチャンピオンシップは、欧州で最もタフな2部リーグとも言われる。しかもQPRは、過渡期にあるチームなのだ。

 昨年10月に就任したマルティ・シフエンテス監督は、ボールを支配してうしろからつなぐスタイルを信条とする。だが、リーグ戦6連敗中の23位でチームを受け継いだ昨季は、後半戦からポゼッションには目を瞑り、降格回避を優先せざるを得なかった。

 続く今季は、言わば仕切り直しのシーズン。今夏の移籍市場では、フロントが重視する「伸びしろ」と、スペイン人指揮官の志向性に合う「足もと」の持ち主が相次いで獲得された。

 ただし、言い換えれば「チャンピオンシップ経験」を持たない新顔ばかり。この日のピッチに立った計16名には6名が含まれていたが、チームとして適応時間を要するのも無理はない。

 その1人である斉藤は、イングランドで増加傾向が著しい日本人戦力の1人でもある。今夏のパリ五輪代表で10番を背負った23歳は、QPRでのプレーを初めて現場で観た今年9月のリーグカップ3回戦(1-2)、今季から鎌田大地がいるクリスタル・パレスに敗れたあと、「結果以上に差は感じました。これがチャンピオンシップとプレミアの差だなと思いますけど、全然やれなくはなかった」と始まった質疑応答で、こう話していた。

「普通に見つけてオファーを出してくれるチームがいくつかあって、チャンピオンシップとかイングランドで日本人が注目されているんじゃないかと思います。リーグ的にも決してレベルが低いわけじゃないし、プレミアにもつながる。そういう部分で選ばせてもらいました」

 国際的なサッカーシーンでは、日本代表が欧州強豪国との対戦で胸を借りる時代が終わり、堂々と勝負を挑める時代が訪れている。ここ「サッカーの母国」でも、日本人株は上昇中。国内シーンでは、時代の流れのなかで従来のフィジカルとスピードに加え、日本人選手がしっかり教育されている「技術力」と「戦術理解力」が重要視されるようになってもいる。

 加えて、英国のEU離脱が「外国人選手」への追い風を生んだ。A代表出場歴に依存した就労ビザ取得には、ほかの欧州主要リーグでも稼げるポイント制審査システムが導入された。ポイント数が足らない場合も、今では、サッカーを通じた英国スポーツ界への貢献が見込まれる選手の雇用を可能にする、「エリート・シグニフィカント・コントリビューション」枠が存在する。

 こうした流れのなかで、「常に上を目指しながら向上心を持ってやっていきたい」と語る23歳の斉藤にも、「ステップアップ」のチャンスが訪れた。

チャンピオンシップへの適正も見えてきた【写真:Getty Images】
チャンピオンシップへの適正も見えてきた【写真:Getty Images】

チーム内でのアピールとともに適性を示し始めた斉藤

 だが、そこはチャンピオンシップ。「オランダのリーグと比べてタフなイメージがすごくあって、それに慣れなきゃいけない。チームのなかで自分のことも知ってもらわなきゃいけないですし、自分もチームメイトや相手を知っていかなきゃいけない。そこのスピードをもっと早く上げていくのが自分の課題」という言葉を、実行に移さなければならない。

 今季初めて3-4-2-1システムで臨んだポーツマス戦では、左ウイングバックとしての投入となった。3分足らずでパスを要求してからフリーキックを奪い、終了間際にも、自軍コート内で絡んだ流れから相手ボックス内へと侵入してコーナーキックを奪ったりしていた。曰く、「左サイドは、もう全部お前。守備の時は戻って、コンビの時はボールを受けて1対1を仕掛けろ」との指示に忠実だったことになる。

 しかし、「自分もシャドーやっていましたし、別にシステムが変わっても全然できる」という意気込みをアピールすることも大切だ。何より、チームのために。

 その意味で、後半45分あたりで見せた、両手を広げて訴えるようなリアクションは前向きに受け取れる。ビルドアップの初期、フリーで受けられる位置で求めたボールは、リーグ戦4連敗が目前となっていたチームの焦りか、後方から縦に蹴り出された。リターンを意図して預けたボールは、自らが向かった前方ではなく横方向へのパスに。リーグ戦1勝にとどまっているチームの自信低下が窺えた。

 3バックが定着するとは思い難いが、指揮官の志向性は貫かれる。ファンの間では更迭論も聞こえ始めたが、まだ序盤戦であるうえに、クラブとは9月末に長期の新契約を結んだばかりだ。

 そのシフエンテスがスタイル習得を指導する今季のチームで、斉藤は適正を示し始めていた。リーグ戦10試合で、内容的なベストゲームを挙げれば第8節ハル戦になる。唯一の白星となっている第4節ルートン戦は、2、3点差とされて逆転勝ち(2-1)があり得ない展開も現実的だった。

 その点、入り方も良かったハル戦は、結果的な敗戦(1-3)が惜しまれるチームパフォーマンス。斉藤個人も、相手チームの番記者が「本当に良いな」と感心すれば、自軍の指揮官も「インテンシティーの高さ」に言及するパフォーマンスを見せた。

攻撃陣の一員として失点の多いチームを救えるか

 QPR最大の難点は、24チーム中ワースト2タイの失点数となって表れている、中盤中央と最終ラインの強度不足にある。しかし、攻め勝ちたいチームであるだけに、誰が先発しても心許ないセンターフォワード(CF)の決定力不足も悩ましい。となれば、得点面の責任を攻撃陣で分担する必要がある。

 監督のやりたいサッカーが垣間見られたハル戦、斉藤はリプレーを見るかのような右足シュート2本で、移籍後初ゴールに迫ってもいた。幻の先制点は、相手GKのセーブを褒めるべき。2-2の同点はゴールポストに阻まれた。その間には、新CFジャン・ツェラルのヘディングが枠を外れたが、巧みなコントロールでマークを剥がしてからのクロスでチャンスを演出してもいた。 

 試合終了の笛とともに、ホームで2試合続けてブーイングが起こったポーツマス戦でも、ファンは認めるべきプレーには拍手喝采を送っている。ライン越しのボールを的確なタッチでものにしてからの低弾道クロス、キープから反転してのドリブルで奪ったフリーキックといった斉藤のプレーにも。

「集中しているので分からないですけど、そうやって歓声が起こるのは本当に嬉しい。でも、結果につなげないと、せっかくの声援も意味がなくなってしまう。もう、自分に任せれば何かやってくれるとか、点が取れるとか、チームの全員に思わせないとダメだなと思うので、気持ちを入れ替えてやっていきたい」と、試合後の本人。

 歓迎したい自己顕示欲だ。和製フットボーラーに対する好評価の一因でもあるが、ハードワークが当然の日本人選手には、失われようのないレベルで「フォア・ザ・チーム」の精神が宿っているのだから。

 リーグ全体が激戦区とも言えるチャンピオンシップでは、適応時間をも自力で勝ち取らなければならない。QPR、そして新戦力の1人である斉藤には、「焦燥感」を「激烈感」に、そして「危機感」を「使命感」に変えるべき時が訪れている。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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