投票依頼も対象選手ゼロ…「若手の登竜門」は大胆改革の時? 考えたいJリーグの高齢化【コラム】

ルヴァンカップに改革の時?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
ルヴァンカップに改革の時?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

気になったルヴァンカップの位置づけ…「若手」の概念から覆す必要がある

 ルヴァンカップへの取材申請が承認されると、広報事務局から即座にメールが届く。21歳以下の選手を対象にした「ニューヒーロー賞」への投票の依頼である。試合を終えたあとにも「リマインド」のメールが届くほどだから、大会広報事務局の同賞への熱の入れ方が伝わってくる。

 ところが再三の依頼にも関わらず、実際に取材をしたルヴァンカップ準決勝セカンドレグの川崎フロンターレ対アルビレックス新潟戦では、どちらのベンチにも対象選手が1人もいなかった。メールには次のような但し書きがある。

「対象選手以外の選手への投票、試合に出場していない選手への投票は無効となります」

「試合エントリーのみの選手(控え選手)への投票も無効となります」

「投票対象外選手への投票が見受けられますので、投票にあたっては必ず投票可否をご確認ください」

 これだけダメ押しの依頼が来るのだ。さすがに投票をしないのは申し訳ないから、該当者不在でも絞り出そうとする。実際に「大会のニューヒーロー賞なのだから、取材した試合に出ていなくても」と誤った解釈をしている投票資格者もいた。

 一般的にルヴァンカップは「若手の登竜門」という認識がある。そういうイメージに沿ってJリーグも、2017年には21歳以下の選手を1人先発させることを義務化するルールを打ち出し、コロナ禍では一時中断されたが、昨年は再導入。ところが今年は再び同ルールを引き下げた。

 ルヴァンカップ準決勝は、新潟が勝ち上がったこともあり比較的、新鮮なカードとなった。ポゼッションにかけては先駆的に革命的なチームを築き上げた川崎に、現在最もボールを保持できている新潟が挑む。だが結果は残酷なまでに明暗が分かれた。新潟がホームで4-1と先勝し、続くアウェー戦でも川崎を2-0で叩いた。

 気になったのは、ルヴァンカップの位置づけだ。今年からJ3まで参戦するノックアウト方式に変わった。また「戦術幅の拡大や育成、経験のためのベンチ入り機会の増加を目的」として、リーグ戦より2人多い9人のベンチ入りを認めた。

 だが現実には、佳境に入るほどリーグ戦や天皇杯との違いはなくなる。準決勝の川崎対新潟戦で、川崎のスタメン平均は29歳。しかも鬼木達監督は「少なくとも2戦目は勝利しよう」と、フィールドプレイヤーの交代は結果的に年功序列となり、ピッチに立った16人の平均年齢もほとんど変わらなかった。

 川崎は20歳になったばかりの高井幸大が日本代表に選ばれたこともあり、ベンチ入りした最年少が22歳の田邊秀斗。また勝った新潟のほうも東洋大から特別強化指定で参加している稲村隼翔、在籍4年目の小見洋太が22歳で最年少だった。

 しかし欧州の輸出国では、22歳はチームの平均年齢に近く、むしろ働き盛りであり売り時とも言える。今、日本の10代の選手たちが視野に入れているのは、いつ欧州に進出するかだ。

 最終目的地が欧州だということもあるが、概してJクラブがベテランの経験値重視の傾向が強いので、国内でプロになっても実戦経験が途絶えてしまうリスクが高いからだ。それは大学選択派増大の一因にもなっているが、やはりプロとしての可能性を追求するなら21歳以下のチームやセカンドチームなどの体制が整う欧州で経験を重ねたほうが得策という考え方もある。

 もしルヴァンカップを本当に若手の登竜門にしたいなら、まず若手の概念から覆す必要がある。そもそも全Jクラブにはアカデミー設置が義務づけられ優秀な素材が集まっている。ところがその大半が同年代としかプレー経験がなく、若年層からプロに近い強度や駆け引きに触れられる機会を持てる選手は限定的だ。それならユースチームの中軸をフル活用できるようにルヴァンカップをU-21選手権に変革し、逆にオーバーエイジの参戦を検討するなど大胆な発想があってもいいし、大学チームの参戦があっても面白い。

 Jリーグは先日、ルーキーの年俸条件を改善した。だが10代の選手がJリーグではなく欧州進出を目指すのは、条件より試合経験というステップアップできる環境を重視しているからだ。日本のように輸出国のリーグが高齢化しているようでは、明るいビジョンは開けてこない。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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