日本の最先端を行く“最強施設” 長崎の新スタを徹底解剖…意図した“本当の狙い”【コラム】
『ピースタ』の本領はスタジアムシティ内の他施設との連動性にある
サッカーを追いかけて数多くのスタジアムを見てきた。専用スタジアム、陸上競技場、芝生席しかない多目的広場、土のグラウンド、離島、山の中、海外……。だが、生まれてこの方、徒歩圏内に最新鋭の設備を備えたホームスタジアムを持つ暮らしは経験したことはない。
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10月13日に正式開業した『長崎スタジアムシティプロジェクト』。その中核施設であり、10月6日に先行オープンしたV・ファーレン長崎の新たなホームとなる『ピース・スタジアム Connected by SoftBank』がそれである。
市内中心部に位置し、JR長崎駅、バスターミナル、路面電車の電停など、あらゆる交通手段の拠点が徒歩10分以内。ピッチとスタンドの距離は日本一近い5メートル。トレーニングルームとロッカールームは十分な広さを確保し、シャワーだけでなく浴槽も整備したバスルーム。記者席の後ろにはメディア用ラウンジが設置され、Wi-Fiなど通信環境も抜群だ。
やや広めに作られた席には全てドリンクホルダーが付いており、どの席で見ても観戦し難いということはない。しかもバックスタンド側には飲食店やフードホールが並び、試合がない日でも解放されピッチを眺めて過ごすことができる上、スタジアム内にインターナショナルプレスクールとして保育施設まで併設と、まさに至高のサッカー場だ。
だが、ピースタの真価は単体のみで発揮されるものではない。その本領はスタジアムシティ内の他施設との連動性にある。試合当日、隣接するホテル「スタジアムシティホテル」はそのままスタジアムの優待席やラウンジとなり、スタジアムのフードホールは、ショッピングモールやオフィス棟の飲食店として平日もオープン。B1リーグ・長崎ヴェルカの新ホームアリーナである「ハピネスアリーナ」はパブリックビューイング会場としても使用される。
他にも、スタジアムシティ内には、V・ファーレンとヴェルカのファンショップ、さらにジャパネットグループ内で唯一、試用・購入ができる店舗「ジャパレクラボ」をオープン。ホテルで使用した家電などで気に入ったものがあれば、すぐに買えるようになっているという。
ハピネスアリーナの屋上にはフットサルコート2面を整備。ショッピングモール内の屋内型スポーツアトラクション施設と合わせて、幅広い年代にスポーツの魅力を発信するはずだ。また、オフィス棟には情報データ科学部を持つ長崎大学大学院が入居している点も中々に興味深い。このように施設内のあらゆる施設が連動し、ピースタはその中でこそより輝くようにできているのだ。
このあらゆる施設を連動させるのは、髙田旭人社長が当初から意図した狙いである。以前からスタジアムビジネスに興味を持っていた旭人社長だが、2017年に長崎市中心部の敷地が確保できる目処が立って以降、社を挙げて急ピッチでプランを策定。その後はスタジアムシティの主業務を担う「株式会社リージョナルクリエーション長崎」など次々と関連会社を立ち上げ、2022年には社内のグループ企業を再編した。売り出すものの「質と価値のバランス」に徹底的にこだわる旭人社長は、ときに部下にとっては無茶振りとも言える構想を提案して、その可能性をトコトンまで探らせることもあったという。
サッカー場、アリーナ、ホテル、ショッピングモール、ビジネス棟を単に並べる10+10ではなく、10×10とするように相乗効果を突き詰めた結果が今の形と言えるだろう。つまり、ピースタでサッカーを観るとは、スタジアムシティの他の施設も利用するのとイコールなのである。
こうして全ての施設に連動性を持たせているスタジアムシティだが、連動性があるからこそのデメリットも存在する。サッカー面において特に大きなデメリットがピースタの芝問題だ。こけら落としとなった6日の大分戦は芝の根付きまで時間が足りず、選手たちが「こっちはこの状態だと知っているのを強みにするしかない」と自虐気味に語るほどの状態だった。しかも大分戦の翌週にコンサートが開催された影響で、再び数千万円をかけて芝は全面張り替えである。芝の問題は今季最後まで続きそうな気配だ。
また、ピースタで練習をすることは少ないだろうが、公式戦後のリカバリーの日以外は練習を非公開とするのが常のチームにとって、ホテルや商業棟・ビジネス棟からピッチが見えるのはスカウティング対策面で不安だ。運営面でも多くのグループ企業が関わった結果、取材申請や問い合わせ一つとっても窓口がバラバラな点や、ピースタ移転を機に運営ボランティアの募集を止め自社主体で全て賄うとしたものの不馴れな点が目立つ。また、フードホールが全て飲食店で賄えるため、トラスタ時代のスタグルがなくなったことに寂しさを感じる人も多い。
ただ、これらの問題点は「あえて言えば……」のレベルである。
芝の問題はコンサート後の張り替えが約束されているし、「次の芝はもっと根付きの良いものを」と関係者が語っている。それでも施設に見合うレベルの芝とするには時間がかかりそうだが、来季の開幕は問題ないレベルとなっているはずだ。馴染みのスタグルがなくなったのは残念だが、魅力的な飲食店が増えたのはプラスと捉えたい。問い合わせなどへの対応や運営業務、スカウティング対策もノウハウが蓄積されれば改善されていくだろう。
全ては時間さえあれば解決できることである。
そう、開業前の時点でアリーナでバスケットのB1リーグ、ピースタではV・ファーレン長崎の公式戦、そしてコンサートが次々と開催されたが、スタジアムシティ全体のオープンは10月14日からである。まだ出来たて、これからの施設なのだ。
「スタジアムのアドバンテージは確かにあった。相手も長崎のサポーターが出す声や熱量には押されると思うし、そういう圧が伝わるスタジアム。他にもそういうスタジアムはあると思いますが、『長崎の思い』が伝わるスタジアム。このビッグプロジェクト、そしてわれわれはその中でシンボルであらねばならない」
ピースタこけら落としを戦った下平隆宏監督はそう語った。規格外の施設と至高のスタジアムで、シンボルたるべきV・ファーレン長崎は、ここからどんな戦いとドラマを見せてくれるのか。そして、この先ピースタという最強の街中スタジアムで、われわれは何を体験するのか。全てはこれから体験する物語である。