日本代表の超攻撃的「3-4-2-1」 まるでカーレース…戦略的な“タイヤ交換”【コラム】
ウイングバックのタイプ次第…攻撃的にも守備的にもなり得る3-4-2-1システム
ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の日本代表は4試合をすべて3-4-2-1システムでプレーした。両サイドのウイングバックに「ウイング」を起用する極めて攻撃的な布陣だ。
1トップ、2シャドー、2ウイング(バック)の5人のアタッカーを並べた効果が最もよく表れたのが中国戦(7-0)、バーレーン戦(5-0)である。相手が分かりやすく引いてくれたので、簡単に敵陣に押し込むことができた。5人のアタッカーを使う以上、敵陣でプレーできなければ意味がない。
その点で、3戦目のサウジアラビア戦は勝手が違っていた。キープ力のあるサウジアラビアは日本のハイプレスを外して前進する力があり、日本は自陣でプレーする時間が最初の2試合とは比較にならないくらい長かった。本来なら、かなり不都合な試合展開なのだが、そのために超攻撃的システムはそれまでの2試合とは違う顔を見せている。
右ウイングバックの堂安律が相手のエースである左ウイングに対して守備で奮闘。逆の左サイドは鎌田大地、三笘薫、町田浩樹が縦方向へマークを受け渡していく「ジャンプ」。左右で異なる守備対応を見せた。後半に伊東純也が右、前田大然が左とウイングバックが代わると、引いて5バック化した状態から快足を利してのカウンターを繰り出した。
伊東と前田はウイングではなくウイングバックそのものの機能性を見せている。あの試合展開なら、菅原由勢など守備型のウイングバックにする手もあったかもしれないが、「攻撃参加するサイドバック」より「守備ができるウイング」という選択で、アジア予選に関しては十分やれる手応えを得たのではないか。
1-1で引き分けたオーストラリア戦は同じサイドに2人のウイングを起用して交互に突破を狙った。右シャドーの久保建英と右ウイングバックの堂安はポジションを頻繁に入れ替えている。後半は左シャドー三笘、左ウイングバック中村敬斗が次々と左サイドを突破した。中国、バーレーン並みに守備を固めたオーストラリアに対し、最大限攻撃的な攻め手を出して同点に追い付いた。
3-4-2-1システムはウイングバックにどういう選手を起用するかで、攻撃的にも守備的にもなり得る。日本はまだ最大限守備的な布陣は使っていないが、超攻撃的からバランス型まで色調を微妙に変えていた。
右アウトサイドは堂安が4試合すべてに先発。伊東は後半から投入。ただ、1人でサイドの攻守をまかなえる運動量とスピード、無類の突破力で伊東の存在感が際立っていた。伊東がサイドなら、右シャドーはウイングである必要がないので、南野拓実か鎌田が適任だろう。
左は三笘がアウトサイド。こちらも入れ替わりは必要ないのでシャドーは南野か鎌田に落ち着く。ただ、90分間ウイングバックでやらせるのは体力的に厳しいので、中村または前田と交代するか、オーストラリア戦のようにWウイングにするかという選択になる。
伊東、三笘は相手を置き去りにできる速さがあり、細かなずれを作って外していく久保よりも一瞬で決定機に持っていける。中村もやや久保寄りのドリブラーだと思う。単純に伊東、三笘の突破力に頼るなら4バックで良いのだが、そうすると久保、鎌田、南野のうち1人しか使えない。中央突破を残したければ2シャドーに落ち着く。さらに伊東、三笘をウイングバックで先発させた場合、2人同時にガス欠になる可能性もあり、伊東の後半からの投入はそうした背景があってのことではないだろうか。
これだけ豊富な人材をフル活用できるのは5人交代制だからだ。いつ、誰と交代するか。カーレースのタイヤ交換のような交代策は日本の特徴になっている。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。