ボランチ遠藤不在で…選手から漏れた「簡単じゃない」 森保ジャパン中盤に起きた異変【コラム】

遠藤航が不在時の影響とは?【写真:徳原隆元】
遠藤航が不在時の影響とは?【写真:徳原隆元】

ドロー決着の豪州戦、不動のボランチ遠藤不在の影響は?

 日本代表は10月15日に行われた北中米ワールドカップ(W杯)最終予選でオーストラリアと1-1で引き分けた。もちろんホームで勝利できなかったことは残念だが、日本が4試合を終えて勝ち点10になり、首位を堅持したことと、最終予選の突破を考えれば、最大のライバルとなり得るオーストラリアに勝ち点3を与えなかったことの価値は小さくない。

 ただ、やはりスタートの3試合で攻守を支えてきたキャプテンの遠藤航が不在だったことの影響は今後の課題として、言及しておくべきだろう。この日は前日会見にも登壇した守田英正がキャプテンマークを巻いたが、森保一監督は「航(遠藤)がキャプテンシーを発揮してくれることはチームにとってありがたいことですが、チームの活動の中で選手たちを見ていても、自分がキャプテンやリーダーだという自覚を持って、みんなその役割ではないにしても、ゲームをしてくれるという姿勢を持ってくれる」と語り、大きな影響がなかったことを主張した。

 ゲームキャプテンを務めた守田も「キャプテンに対して、必要以上に変なプレッシャーがかかるような、そういった気持ちはないですし、むしろキャプテンをできるのは本当に光栄なこと。今日の試合に限っては僕1人しか巻けないわけで」と語っている。試合中の細かいリーダーシップという部分は試合の現象や選手の発言を合わせても、正確に評価することは難しい。ただ、後半に点を取りに行く流れで谷口彰悟のオウンゴールで失点してしまい、追いかける展開になってもバタつくことなく、交代選手も含めて攻撃の矢印と守備のリスクマネジメントを両立させていたことなど、メンタル的な部分では本来のキャプテンの不在をはっきり感じさせるものは見られなかった。

 遠藤の不在がより影響したのは中盤のメカニズムの部分だろう。この日、今回の最終予選で初スタメンとなった田中碧は遠藤に代わり、守田とボランチのコンビを組んだ。3-4-2-1システムで、どちらかというと田中が右、守田が左になる並びだが、ボランチなので当然、状況に応じて入れ替わったり、縦関係にもなる。田中は「自分も3-4-3-をやり慣れているわけではないので、守田君にいろいろ聞きながら」周りとの関係を見て立ち位置を取っていた。ただ、5-4-1の守備を固めながら、日本のビルドアップを限定してくるオーストラリアに対して、ボランチ2人の関係が曖昧で、ボールを握る中でも探り探りというところは目に付いた。

ボランチ2人が効果的に関われていたとは言い難い

 もちろんポジションを動かした時にボールをロストすると、オーストラリアがシンプルに力強いカウンターを繰り出してくるので、先に失点したくない日本のボランチとしては、そのリスクに向き合いながら、左右のウイングバックや2シャドーの攻撃力を生かしていくことはベースになる。ただ、5-4-1で構える屈強な相手を崩していくのに、ボランチの攻撃参加は不可欠と言っていい。遠藤と守田のコンビであれば、基本は遠藤が6番の役割を担い、守田が幅広く攻撃に関わりながら、タイミングよく前に出ていくというのが、これまでのセオリーになっていた。その関係性があったうえで、たまに逆転させるにしても、2人の中での共有が明確にあるから、それがリスクになりにくい。

 良い局面を切り取れば前半14分に右サイドの久保建英を起点に、守田、田中と高い位置で経由して、左で受けた三笘薫が縦に仕掛けてクロスに持ち込んだシーン、同23分のカウンターから堂安律と久保が縦にボールを運んだクロスのセカンドボールから、田中がボレーシュートをはなったシーンなど、1つ合えば先制点という場面もいくつかあった。2ボランチが前に関わらないシーンでも、守田の縦パスから1トップの上田綺世がうまく落として、三笘が得意のカットインに持ち込んで、結果CK(コーナーキック)を獲得したシーンもある。

 しかし、守備の堅い相手に対する攻撃の連続性という基準では、ボランチの2人が効果的に関われていたとは言い難い。守田は「(田中)碧も3バックでプレーする機会が少なくて。すごい考えながらやりすぎた分、ちょっと良い意味でのアンバランスさ、自由さという彼にしかない能力っていうのをうまく試合で使わせてあげれなかった。もっと僕はバランス取って、もっと自由に振る舞わせてあげられれば、よりもっと違いを生み出せられたんじゃないか」と語る。やはり2人の関係性で言えば、守田が6番的に振る舞い、田中が積極的に関わって行く関係がイメージしやすい。ただ、それは守田からすると遠藤との関係性とはある種、逆転になる。

「簡単じゃないですよ。それは碧をどうにかして生かしてあげないとという気持ちがあるからじゃなくて、それが同じユニットじゃない分、差があるし、気も遣う。でも彼のことは必要最低限、知ってるつもりだし、今日彼のパフォーマンスがどうだったかは人それぞれ印象が違うと思いますけど、もっとやれるだろうし、僕ら次第でもっとやれたんじゃないかと思う」

当面は遠藤と守田の2ボランチが森保ジャパンの軸に

 守田と田中は川崎フロンターレで一緒にプレーしており、2人が海外組になってからも、試合で組んだのは一度や二度ではない。ただ、6月シリーズから本格導入した3-4-2-1というシステムで遠藤と守田のコンビが、かなり噛み合っていたこと、そしてサウジアラビア戦でも見せたような守田の良さというのが、遠藤とのコンビから引き出されたものであったことも確かだろう。中盤における役割の話で言えば、田中も所属クラブのリーズ・ユナイテッドで中盤のアンカーを担うなど、6番的な役割をこなせるベースはある。

 ただ、チームの生命線となるボランチは相手との兼ね合いやリスクマネジメントも含めて、シンプルな関係式だけでは成り立ちにくい。それは難しい相手になればなるほどそうだ。準備期間が限られる代表活動において、これまでの日本代表でもボランチというポジションはスタメンの選手が固定されやすい傾向が強かった。まして攻撃的な3-4-2-1のシステムにおいて、森保一監督はウイングバックとシャドー、そして1トップでの選手交代を後半のギアチェンジに使うので、現在はボランチの途中交代が少ない。

 田中も最初の中国戦は4-0と大量リードした後半26分から遠藤に代わり守田とコンビを組んだが、バーレーン戦、サウジアラビア戦と出番がなかった。田中のポテンシャルに関してはここで今さら語るまでもないだろう。まして、ドイツ2部からチャンピオンシップ(イングランド2部)に環境を変えて、ボールを奪う守備強度は数か月前より明らかに増しているように感じる。しかし、3-4-2-1の関係構築や対戦相手を見ながらのアジャストなどを想定すると、普段あまり組めていない2人がバッとビジョンを合わせるのはかなり難しいはず。遠藤と田中のように、基本的な特長に違いがあれば、なおさらだろう。

 ただ、田中としては手探りな部分が多かった前半に比べると、後半のほうが立ち位置の関係もよく、守田だけでなく周囲との関わりも含めて、だいぶイメージアップできていたようだ。その最中でのオウンゴールによる失点、そこから伊東純也や中村敬斗の投入によるギアチェンジで、ボランチはよりシンプルに、個人で仕掛けられるサイドの2人に付けたり、オープンな展開で役割が変わったこともあり、前半からの改善点が明確に伝わる時間が限られた。それでも中村の仕掛けによる同点ゴールの起点になった田中はサイドとの関係についても「やっていければ、もっと良くなるだろうし。これから楽しみな部分である」と前向きに語っている。

 素直に評価すれば、守田と田中の関係もやればやるほど良くなるだろう。しかし、最終予選を確実に突破して世界につなげて行くために、遠藤の体調さえ問題なければ、当面は遠藤と守田の2ボランチが森保ジャパンの軸になっていくことはほぼ間違いない。もし11月シリーズでアウェーのインドネシア戦と中国戦を順当に勝ち切ることができれば、来年の4試合は結果にこだわりつつも、ある程度、先を見ながらの選手起用もしていけるかもしれない。今回は田中がクローズアップされたが、パリ五輪世代のキャプテンだった藤田譲瑠チマも出番なく10月シリーズを終えたことは軽視できない。

 今回は遠藤を試合前日からの体調不良で欠くという緊急事態が、田中のスタメン起用につながったことは想像に難くないが、チームの生命線である2ボランチで、3人目、4人目の選手を抜擢していくリスクは当然あるなかで、それでもやっていかないと、過密日程で7試合を戦うW杯の本大会に向けても、大きな課題として残されてしまうだろう。オーストラリア戦はそうしたことを改めて感じさせられる、良い機会となった。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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