J無冠決定の敗北…スタイルの「再考が必要」 強豪惨敗に見えた“大きな転換期”【コラム】
【カメラマンの目】ルヴァン杯で新潟に敗戦…川崎のパスサッカー封殺に見えた現状
後半12分、川崎フロンターレは0-1の劣勢を挽回するために、前線のFW2人を同時に交代させた。ピッチを去る山田新とエリソンの2人は悔しさを露わにする。その抑え切れない感情の発露は、ほかの誰でもなく、結果を出せなかった自分への不甲斐なさに対する悔しさだったと思う。
10月13日ルヴァンカップ準決勝第2戦、川崎はホームにアルビレックス新潟を迎えた。第1戦を1-4で落としている川崎にとっては、決勝進出に向けてなんとしても早い時間帯に得点が欲しいところだった。試合開始から家長昭博、マルシーニョ、エリソン、そして山田を配置した攻撃陣が劣勢のスコアを縮めるために新潟ゴールを目指す。
しかし、新潟は堅い守備で決定的な場面を作らせない。ただ、その新潟も攻撃面では試合開始からフルスロットルでプレーする川崎の攻守に渡った活発な動きの前に、序盤は前線へとなかなかボールを運べなかった。劣勢の展開でしかも反撃の糸口さえ掴めない新潟にとっては、さぞかし苦しい時間が続いたことだろう。それでも川崎の前掛かりとなった陣形の隙を突いて、前半31分にカウンターから小見洋太がゴールをマークする。
第1戦を合わせた得点差を考えると、川崎には実に痛い失点となった。川崎の鬼木達監督は得点を奪えないと見ると、前線の選手を次々と交代させて状況の打開を試みる。だが、最後まで相手のゴールネットを揺らすことができず、逆に試合終盤に再び得点を奪われて0-2とされ、アウェー戦に続きホームでも新潟の前に屈してしまったのだった。
川崎はこれで今シーズンの無冠が決まった。ただ、このルヴァンカップ準決勝での敗退という結果は、タイトル獲得へ道を閉ざされただけでなく、今後のチームスタイルにもかかわる、厳しい現実を突きつけられたと言える。
川崎のサッカーはいまさら説明するまでもないが、鬼木監督の指揮の下、華麗なパス交換によって局面を打開するスタイルをぶれることなく貫き通してきている。
対して今シーズンのJの舞台は、昨年のリーグ王者であるヴィッセル神戸を筆頭に、台頭著しい町田ゼルビア、そして東京ヴェルディがハードマークと素早いカウンター攻撃を武器に好成績を挙げている。
さらに言えばサンフレッチェ広島は、中盤から自陣での1対1での守備における勝負強さが好調を支えており、鹿島アントラーズも監督が電撃交代するまでのスタイルは、高い守備力がチームのベースとなっていた。こうした川崎のパスサッカーの対立軸に位置するライバルチームは、試合となれば強固な守備網を構築し、手ぐすね引いて待ち構えている。
鬼木監督の退任決定、一時代を築いたスタイルは転換期に
この状況に川崎は所属する選手の能力を最大限に活かすために、パスサッカーのなかにもマルシーニョのドリブルを突破口の1つにするなど、ディテールにおいては多少のモデルチェンジを行って対抗している。
同じ対新潟戦でも9月27日のJ1リーグ第32節では山田、エリソン、マルシーニョ、そして脇坂泰斗のよりスピードとパワーを重視したカルテットで臨んだ試合は前線が上手く機能し、5-1の快勝を飾っている。
しかし、ルヴァンカップ準決勝の第2戦では、攻撃陣に最終局面の打開で有効なスピードを欠いたように思う。攻撃陣のパスワークにしても、単独でのドリブルにしても、もっと素早い動きで相手守備網を打ち破るプレーが欲しかった。
新潟はその川崎の攻撃に対してしっかりと守り、相手が前掛かりになったところをカウンターで反撃し得点するという戦い方で見事に勝利した。
もはや守備への意識がリーグ全体で強くなっている流れと、さらに所属選手たちが移籍によってチームを離れていく状況が重なり、手数をかけても相手の守備網を打ち破っていたハイレベルなパスサッカーを、川崎が維持するのは難しくなっていることは否定できない。パスサッカーを根幹としても、選手起用や細部に変化や再考が必要であると思う。
川崎の作り上げたパスサッカーがJリーグを華やかにした、その功績は非常に大きい。しかし、ここにきて持てる戦力でやり繰りをし、なんとかスタイルを貫き、存在意義を示してきた川崎だが、鬼木監督の退任も決まり中村憲剛、家長、大島僚太、谷口彰悟、そして小林悠などのタレントを有して一時代を築いた華麗なパスサッカーは、いよいよ大きな転換期を迎えようとしている。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。