森保Jで実は人材難の“中央CB” 奮起する33歳・谷口に課せられる重責「前に進んでいくしかない」【コラム】

3バックの中央を務める谷口彰悟【写真:徳原隆元】
3バックの中央を務める谷口彰悟【写真:徳原隆元】

谷口のOGもありオーストラリア相手に1-1のドローに終わった

 9月の中国(埼玉)・バーレーン(リファー)2連戦でのロケットスタートで、10月のサウジアラビア(ジェッダ)・オーストラリア(埼玉)2連戦も白星街道が続くと見られた日本代表。その予想通り、鬼門・ジェッダでは2-0で勝ち切ったものの、15日のオーストラリア戦はキャプテン・遠藤航(リバプール)の不在による中盤のバランスの変化、5-4-1の強固なブロックを構築してきた相手の超守備的戦術、三笘薫(ブライトン)や久保建英(レアル・ソシエダ)らに対する徹底マーク…など難しい要素が重なり、結果的には1-1のドロー。埼玉でのオーストラリア無敗記録は辛うじて維持したが、勝ち点1を確保するので精一杯という形になってしまった。

 ボール支配率62.5%対37.5%、シュート数10対1とデータ上では明らかに日本が上回ったが、完全に崩し切った決定機が乏しく、攻めあぐねているうちに、後半13分にオウンゴールを献上。自らの首を絞める厳しい展開を余儀なくされたのだ。

 その場面を改めて振り返ると、GK鈴木彩艶(パルマ)が蹴ったロングボールを相手左CBのジェイソン・ゲリア(メルボルン・ビクトリー/8番)がクリア。これをミッチェル・デューク(町田/15番)と谷口彰悟(シント=トロイデン)が競り合った瞬間、ライリー・マッグリー(ミドルスブラ/14番)とアイディン・フルスティッチ(サレルニタナ/10番)が町田浩樹(ユニオンSG)と三笘の間の大きなスペースに入る形になり、不運にもボールがそこにこぼれたのだ。

 これをフルスティッチが触り、右に流れたマッグリーを経由して、右の大外から上がってきたルイス・ミラー(ハイバーニアン/3番)が大きくクロスを入れた。高いボールはジャンプした町田の頭上を越え、谷口が必死に戻って右足を当てたが、鈴木彩艶が守っていた右側を通ってネットへ。わずか10数秒の出来事だが、複数のところで綻びが生まれていたのだ。

 まず鈴木彩艶のキックが正確に南野拓実(モナコ)に飛んでいたら、全ては未然に防げた。22歳の発展途上のGKはまだまだディテールを突き詰める必要があるだろう。

 そして次の大きな問題は谷口が背後に誰もいないのにデュークと競った点。ここは近くにいた守田英正(スポルティング)に任せるか、谷口が競るのを見計らって右に寄っていた町田がもっと早く中央に戻っているべきだった。

 その後のフルスティッチに渡った時の三笘のチェックも、ミラーに行った時の守田の寄せも中途半端だったし、谷口のクロス対応も甘かった。

「あの瞬間はいろんなことを頭の中で考えてましたけど、もしかしたら、その前にマチが触るかなと。そこでどう対応するかというところまで考えた結果、ちょっと出足遅れたなと。シンプルに僕のポジションがもう一歩でも下がって、左足でクリアできていたら問題なかったと思うし、あれはポジショニングもそうですし、アラートに準備しておかないといけないシーンだったなと思います」

 谷口は試合後、自身のプレーを反省していたが、オウンゴールにつながったダイレクトな場面だけでなく、守備陣の統率役として一連の流れを未然に防げるような声掛けやオーガナイズの構築をすべきだった。前述の通り、悪いのは彼だけではないし、リスクマネージメントの不備があったのは確かだが、その全てを含めて、チーム全体で見直していくことが肝心だろう。

今こそ谷口彰悟の真価が問われる時だ【写真:徳原隆元】
今こそ谷口彰悟の真価が問われる時だ【写真:徳原隆元】

谷口の真価が問われる時である

 結果的に日本も中村敬斗(スタッド・ランス)がオウンゴールを演出し、追い付いたわけだが、無失点が途絶えたことは気がかりな点。「ああいう目立ったミスをする谷口は年齢的にも厳しい」といった声も出かねないのが、勝負の世界なのである。

 確かに今のDF陣を見ると、大黒柱の冨安健洋(アーセナル)が長期離脱中で、伊藤洋輝(バイエルン)も今季まだ一度も試合に出ていない状態だ。今夏、欧州からJリーグに復帰した中山雄太(町田)も今季絶望の大ケガを負ってしまい、彼ら3人の11月シリーズ復帰はかなり厳しそうだ。

 となると、現有戦力で乗り切るしかないが、3バックの中央は谷口しか目ぼしい人材がいないのが現状だ。板倉滉(ボルシアMG)はそれだけの能力を備えているだろうが、経験値がない分、不安は拭えないし、町田は左CBか左WBの選手。ベンチに入っていた瀬古歩夢(グラスホッパー)も中央ができる選手ではあるが、代表の大舞台に立った経験が皆無だ。

 ポテンシャルの大きな高井幸大(川崎)もケガでいないし、菅原由勢(AZ)や望月ヘンリー海輝(町田)も右CB要員。案外、センターを任せられる人材が手薄なのである。

 昨季限りで引退した長谷部誠コーチをピッチに戻せるなら、3バックの中央で使いたいところだが、それもできないし、森保監督は吉田麻也(LAギャラクシー)のようなベテランを呼び戻すことは考えないはず。となれば、やはり今の3人で少なくとも年内は戦い抜くしかないので、谷口が背負うものは非常に大きいのである。

 11月はインドネシア(ジャカルタ)・中国(厦門)の格下との2連戦。10月よりはやや難易度が下がるかもしれないが、両国ともアウェームードは凄まじいものがある。今回のオーストラリア戦のオウンゴールのような場面が生まれたら、間違いなく声は聞こえないし、お互いのコミュニケーションがまともに取れない。だからこそ、1人1人がやるべきことを緻密かつ愚直にこなさなければいけないのだ。それを肝に銘じてほしい。

 特に谷口は常日頃から「細部へのこだわり」「凡事徹底」を重視している選手。人一倍、今回の反省とフィードバックを行うに違いない。それをシントトロイデンのゲームで生かし、屈強な外国人相手にミスのない守りを磨き上げ、代表に戻ってきてほしい。

 常にに前向きで賢いこの男なら、このくらいの挫折を必ず乗り越えられるはず。そういう人間性に惚れて、森保監督は33歳になった彼を呼び続けているのだろう。谷口自身も2年後のW杯の大舞台に立ちたいなら、この失敗を教訓にするしかない。

 中東経由欧州行きという異例のキャリアを切り開いたように、代表でも地獄から天国に這い上がるという粘り強さと逞しさを示すべき。今こそ33歳ベテランの真価が問われる時である。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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