森保Jの圧倒的な選手層 「結果を出したいという意識」が導く“ハイレベルな争い”【コラム】

ウォーミングアップ中の三笘薫【写真:徳原隆元】
ウォーミングアップ中の三笘薫【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】試合前に見せた選手それぞれの表情

 2026年ワールドカップ北中米大会の出場を目指す日本代表は、アジア最終予選で3連勝の好スタートを切り、第4節となるオーストラリア代表との一戦に臨んだ。

 試合前、ピッチへと最初に姿を現したのは、フル代表に新たな息吹を吹き込む可能性を秘める、新鋭の藤田譲瑠チマだった。ベンチからのスタートとなる藤田だが、芝の感触を肌で確かめようと、スパイクを履かずにピッチのなかでボールを蹴っていく。これからの熱狂に向けて、静かに試合へと臨むルーティンをこなしていた。

 そして、藤田のルーティンからわずかな間を置いたあと、スタンドから一段と高い歓声を受けて、サムライブルーの選手たちがウォーミングアップのためにピッチへと散って行った。

 ここで、グループの最大のライバルであるオーストラリアとの試合に臨む日本の先発メンバーへ、望遠レンズを装着したカメラを向ける。遠藤航の体調不良により先発の出番が回ってきた田中碧をファインダーのなかに捉えると、彼は試合への集中力を高めるように、大きく深呼吸を繰り返していた。

 選手にはそれぞれ試合に向けた集中力の高め方がある。そうしたなかで鋭い視線を放っていた三笘薫にシャッターを切った。カメラを通して目が合ったようにも思え、その切り取られた1枚は、結果的にこの対オーストラリア戦でもっとも印象に残る一瞬となった。

後半途中から出場した伊東純也【写真:徳原隆元】
後半途中から出場した伊東純也【写真:徳原隆元】

結果を出したいという意識が攻撃に拍車

 こうして、迎えた試合。改めて言うまでもないが、今の日本の攻撃陣は、過去のチームと比較しても圧倒的な選手層を誇る。ヨーロッパ各地のリーグで活躍する三笘、南野拓実、堂安律、そして久保建英が八咫烏のエンブレムのついたユニフォームに着替え、オーストラリアゴールの攻略へと挑んでいく。

 しかし、オーストラリアも日本の鋭い攻撃は織り込み済みで、屈強な守備陣でゴール中央を固く閉ざし得点を許さない。こうなると高い攻撃力を誇る日本といえども、簡単にはゴールネットを揺らせない。日本は攻めながらも最終局面を崩せない時間が続く。

 この手詰まりの状況を打開するために、森保一監督は次々と交代のカードを切っていく。そのなかで伊東純也と中村敬斗のスタッド・ランスのコンビが躍動する。ヨーロッパの舞台で磨かれた、スピードと切れのあるフェイントを駆使したドリブルで、オーストラリア守備網を切り裂いていく。なにより2人のプレーは見ている者のハートを刺激するダイナミックさがあった。

 ただ、このライバルとの一戦は攻撃陣の奮闘も実らず、ホームでありながら引き分けに終わる。今の日本の実力から言えば、決して満足のいく結果ではなかっただろう。サイドを攻略しながらもゴール前を崩せなかったことは課題として残り、本大会の出場を目指すライバルたちとの差を大きく広げることはできなかった。

 それでも、油断は禁物だが、本大会への出場枠が増えた今、日本が予選で敗退することは考えにくい。それほど日本の戦力は充実している。当然、高いポテンシャルを秘めた選手たちのレギュラー奪取に向けた戦いは、これまでの日本にはなかったハイレベルな争いとなっている。誰もがレギュラーを約束されているわけではなく、今回はピッチに立てたが、活躍をしなければ次の先発は保証されない。

 そうした結果を出したいという意識は、日本が生み出す攻撃に拍車をかけているのではないだろうか。対戦相手だけでなく、チーム内の競争にも勝ち抜きたいという心に秘めた闘志が、ウォーミングアップをする三笘の厳しい表情から感じられ、カメラのシャッターを切ったのだった。その鋭い眼光は勝利を勝ち取るための原動力だ。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)

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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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