日本代表25歳は「未知数」 欧州強豪へ加入、現地記者が謙虚さ評価「よく合う」と太鼓判【インタビュー】
コンパニ体制で刷新の名門バイエルン、伊藤洋輝の特徴と人間性はカラーに合致
日本代表DF伊藤洋輝がドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンに移籍して数か月が経つ。2024年7月のプレシーズンに負傷して出遅れた伊藤は、新監督ヴァンサン・コンパニの下で新スタイルに取り組んでいる名門バイエルンで定位置を掴めるのだろうか。ブンデスリーガに精通し、日本人選手の動向にも注目しているドイツ人記者キム・デンプフリング氏は「コンパニのサッカーに伊藤は合うと思います」との見解を示している。(取材・文=中野吉之伴/全3回の2回目)
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――伊藤の強みの1つは左利きという点ですよね。バイエルンはここ数シーズン、左利きのセンターバック(CB)がおらず、左利きのサイドバック(SB)もアルフォンソ・デイビスとラファエル・ゲレイロの2人。両者とも優れた選手ですが、怪我の多さが悩みの種でもあります。コンパニ監督のサッカーにおいて、25歳と伸び盛りの伊藤は重要な選手になり得ると思いますか?
「重要な役割を担える可能性は十分にあると思います。バイエルンでコンパニはビルドアップからの展開にとても価値を置いていますし、オフェンシブな布陣で試合に臨む傾向がここまでの戦い方から見て取れます。GKマヌエル・ノイアーがかなり前に出て守るほどに前線から押しこもうとしているので、失点のリスクもありますが、コンパニのサッカーに伊藤は合うと思います。ただ、どこまで重要な存在になるかはまだ分かりません。公式戦での出場がないので、バイエルンにおける伊藤は未知数というのが正直なところでしょう。負傷復帰からどれくらいスムーズに順応できるのか、どれくらいスムーズに元のコンディションを取り戻して、シュツットガルト時代のパフォーマンスを発揮できるかが問われるところです」
――コンパニ監督は前線から積極的にプレスをかけるサッカーを志向しています。結果として守備陣は1対1で守り切らなければならない場面が増えています。シュツットガルト時代のタスクとはまた違うものがありますし、これまで期待されて加入してきたほかのCBも苦戦しています。フランス代表の主力として活躍しているダヨ・ウパメカノもバイエルンでは不安定なプレーが指摘されています。ギリギリの競り合いに臨まなければならない機会が明らかに多いという面もあるなか、伊藤の印象はどうでしょうか?
「伊藤の1対1における対応は悪くないです。ただキム・ミンジェのケースと似るかもしれません。彼は非常に優れたCBですが、バイエルンではミスが散見されています。1対1の場面が多いため、それもオフェンス陣がオープンな状態での1対1が多くなるため、そこでの対応ばかりがフォーカスされてしまう。現在のバイエルンのスタイルでは、基本的にどんなCBも非常に困難な課題に直面する。それだけに実際にバイエルンで公式戦に出場して、そうした状況においてどんな対応を見せるのかを待ちたいところですね。難しいかもしれませんし、ただ逆にシュツットガルト時代以上のパフォーマンスを発揮する可能性もあると思います」
――伊藤の人間性という点ではどうでしょうか? バイエルンに合うと感じますか?
「バイエルンに来るトップレベルの選手は『我こそは!』というメンタリティーを持っている選手も多いですし、それがメリットに働くこともあれば、デメリットになることもあります。チームのためのタスクを問題なくこなしながら特徴を出せるというのは大事なポイントです。サッカーに集中して取り組むのが大切。バイエルンにとって、ピッチ外で問題を起こさない選手は本当に必要としているところでしょう。ここまでの印象だと伊藤は謙虚ですし、そこまで表に出ようとしないタイプなので、ここはバイエルンでは評価されるポイントだと思います。それだけにバイエルンによく合うのではないでしょうか」
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。