サウジ戦、負のジンクス生んだ“魔の時間” 本田、吉田ら苦戦…過去の経験から紐解く鬼門突破の鍵【コラム】

2021年10月の前回大会は0-1で敗戦【写真:Getty Images】
2021年10月の前回大会は0-1で敗戦【写真:Getty Images】

日本はジッダで行われたサウジアラビア戦で3戦全敗

 10月10日の2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選・サウジアラビア戦(ジッダ)が迫ってきた。日本代表は8日、現地2日目のトレーニングを行ったが、初日不在だった伊東純也(スタッド・ランス)、久保建英(レアル・ソシエダ)ら10人が合流。ようやく27人全員で活動できるようになった。

 この2日間、ジッダの日没後の暑さというのはそれほどでもない。8日のメディア対応した伊東も「今日は試しに長袖でやったんですけど、思ったより暑くないなと。正直、もっと暑いかなと思っていました」と話していた。それは多くの選手の共通認識だろう。

 しかしながら、試合会場であるキング・アブドゥラー・スポーツ・シティはすり鉢型で外から風が入らない。その分、ピッチ上は相当に蒸し暑くなる。6万人収容のスタジアムが超満員に膨れ上がれば、熱気もヒートアップし、暑さに拍車がかかるのは間違いない。

「(2021年10月の前回は)本当に苦しかったなという印象ですね。相当暑かったなというのと、あと超満員になって、非常に熱気というか、空気が薄い感じがして、ハーフタイムに帰ってきた時もみんな苦しんでいたなというのは印象に残っています」

 0-1の苦杯を喫した3年前の生き証人である長友佑都(FC東京)も述懐していたが、屈辱的な敗戦を喫した後のキャプテン・吉田麻也(LAギャラクシー)の当時のコメントも興味深い。

「もう少し気温が落ちるかと思っていた。練習がもう少し涼しかったかもしれないですね。6万人の熱気、風が通らないというのもあったんでしょうけど、試合時間が練習より2時間遅かったので、気温がもう少し下がるかと予想していた。思ったより湿度があって、もわっとした環境でした」と。それこそが同スタジアム独特の難しさ。練習時に涼しさを感じたとしても、本番は予期せぬ息苦しさが押し寄せて、選手たちは体力を奪われるのだ。

 日本代表はこれまでジッダで3度戦って一度も勝っていないが、キング・アブドゥラー・スポーツ・シティが会場だった2017年9月、2021年10月の2試合はいずれも後半に失点して負けている。本田圭佑や岡崎慎司(バサラマインツ監督)らが先発した前者は後半18分にスキを突かれて失点。吉田や長友、遠藤航(リバプール)が先発した後者は後半26分に柴崎岳(鹿島)のバックパスを相手に拾われ、カウンターから一発を浴びている。

 その悪循環を繰り返さないためにも、やはり早い時間帯のゴールが必要不可欠。「日本はジッダで点を取れない」という負のジンクスを払拭することが、今回の最重要テーマと見ていいはずだ。

代表初選出となった大橋祐紀【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
代表初選出となった大橋祐紀【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

上田、小川、大橋のFW陣が決定機をモノにできるか

 そこで期待が高まるのが、3年前はまだ代表定着していなかった上田綺世(フェイエノールト)、小川航基(NECナイメンヘン)、大橋祐紀(ブラック・バーン)のFW陣。彼らが過酷な状況を跳ね除け、確実に決定機をモノにすれば、チーム全体が楽になる。2017年は岡崎、2021年は大迫勇也(神戸)という両エースが失点前にビッグチャンスを迎えながら決めきれなかった。それが敗戦の遠因になっているのも確か。そういった過去の教訓も生かすべきである。

「サウジアウェーは3戦3敗? 記録的なところはあまり考える必要がないかなと思います。僕らは今、W杯予選2連勝で1位をキープしている。この2試合は山場になるし、今後の展開も大きく変わるので、過去3連続無得点よりも、チームを勝たせる1点を取れたらいいかなと思います」と先発が有力視されるエースFW上田は、自らがゴールを叩き出す重要性を改めて強調していた。

 9月シリーズのように前半のうちに得点し、後半15分以降の“魔の時間帯”に圧力を受けないような展開に持ち込むのが最善策。相手をいち早く戦意喪失させられれば、ベストなシナリオと言っていい。

好調の伊東純也が試合を決めるか【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
好調の伊東純也が試合を決めるか【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

伊東純也は「そんなに恐れなくていい」と強気の姿勢

 とはいえ、世界的名将であるロベルト・マンチーニ監督も日本の思惑に通りにゲームを運ばせないように、さまざま策を練ってくるだろう。前半を0-0で折り返し、後半勝負になってしまう展開も十分に考えられる。

 そこで日本が心がけるのは焦れずに自分たちの戦い方を貫くこと。それは3年前のサウジ戦で出場停止となり、スタンドから試合を見ることになった伊東純也が強調する点だ。

「早い時間に点を取れれば、それができればベストですけど、この前のバーレーン戦(リファー)みたいに、粘り強くやっていれば、後半にまたチャンスが生まれてくるのもある。点が取れなくても焦れずにやれればいいかなと。0-0とか1-0で進むと相手も気迫を持ってきますけど、そんなに恐れなくていい」と彼は強気の姿勢を示していた。

 前回最終予選で全12得点中7点に絡んだ伊東がそこまで前向きなコメントをするのも、今の日本代表が充実した戦力と攻撃力に支えられているから。左ウイングバック(WB)の三笘薫(ブライトン)、中村敬斗(スタッド・ランス)、前田大然(セルティック)はいずれもクラブで際立った結果を残しているし、右WBも伊東、堂安律(フライブルク)と複数選択肢がある。シャドーのバリエーションも豊富で、伊東が「昔よりもっといい戦いができる」と自信を見せるのも頷ける。

 サウジ戦は今回の最終予選の中で最も世界基準に近いゲームになる。そこで日本が突き抜けた強さを示せれば、本当に2026年W杯本大会での8強入り、そして優勝も視野に入ってくるかもしれない。「対アジア」ではなく、「対世界」の意識を持って、この一戦を圧倒すること。今の森保ジャパンにはそのくらいの高い志を持って、鬼門突破を現実にしてほしい。

 それを遂行するためには、攻撃陣のみならず、守備陣の手堅い守りももちろん重要だ。サウジのカウンターとセットプレーは脅威以外の何物でもない。特にセットプレーに関しては、9月の中国戦でも2つのゴールをコーナーキック(CK)から奪っている。得点者は3バックの左に陣取っているハッサン・カディシュだったが、キッカーのナセル・アルダウサリ(13番)やムサブ・アルジュワイル(6番)らのキックも精度が高い。そのあたりは日本のスタッフも徹底研究しているはずだが、本番までに細部まで突き詰め、万全な対策を講じるべきだ。

 冨安健洋(アーセナル)、伊藤洋輝(バイエルン)、中山雄太(町田)と守備陣に負傷者が続出し、DF陣の選手層がやや薄くなっている分、一抹の不安もないとは言い切れない。そこは谷口彰悟(シント=トロイデン)が中心となって統率していくべき。わずかなスキを作ったら、それこそ致命傷になりかねない。そのくらいの危機感を持って挑むことが肝要だ。

 無失点なら、最低限の勝ち点1は確保できる。流れ次第ではそのくらいの割り切りを持ってのぞんでもいいはず。とにかくハッキリした戦い方を90分間続けること。それが歴史的勝利への最重要ポイントになるだろう。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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