久保建英も世界的名将の対策に驚き「普通ではない」 地元記者は高評価も…チームの「最重要課題」を指摘【現地発コラム】

アトレティコ・マドリード戦に出場したソシエダの久保建英【写真:Getty Images】
アトレティコ・マドリード戦に出場したソシエダの久保建英【写真:Getty Images】

公式戦2戦ぶりに先発復帰の久保建英、強豪アトレティコ戦で持ち味発揮

 公式戦2試合ぶりに先発復帰した久保建英は、アトレティコ・マドリード相手に右サイドで徐々に調子を上げ、インターナショナルブレイク前にホームサポーターの前で躍動する姿を見せた。

 レアル・ソシエダは10月6日のラ・リーガ第9節で強豪アトレティコをホームに迎えた。イマノル・アルグアシル監督は、GKアレックス・レミーロ以外のスタメン10人を入れ替え、控え組中心で臨んだ3日前のUEFAヨーロッパリーグ(EL)第2節アンデルレヒト戦(1-2)から戦力を戻し、再び久保やマルティン・スビメンディ、セルヒオ・ゴメス、ミケル・オヤルサバルなどを先発復帰させた。

 ラ・リーガでここ9試合勝てていない強豪との大一番だったが、キックオフが日曜日21時、さらに雨模様という悪条件が重なり、入場者数は今季3番目の少なさとなった。それでもスタジアムは熱気であふれ、選手の入場とともにスタンドは青と白のクラブカラーのモザイクで染まり、我がクラブの選手たちを鼓舞した。

 試合は予期せぬ展開でスタート。アトレティコが開始1分にハビ・ガランの前線へのフィードを、アントワーヌ・グリーズマンがペナルティーエリア内で巧みなトラップから相手の意表を突くヒールパス。これをフリアン・アルバレスが決めて、早々に先制した。

 これによりソシエダのゲームプランは大きく狂ってしまう。さらに久保が試合後に、「ハビ(ガラン)だけでなく、(アントワーヌ)グリーズマンもよく下がってきていた。2トップの一角でプレーする選手が自分の横にいるのは普通のことではない。彼のようなすべてを勝ち取った選手が、僕を抑えるために戻ってくるなんて信じられないことだ」と語ったように、序盤から前述の2人に加え、クレマン・ラングレから厳しいマークを受けた。

 突破を許してもらえず、クロスも味方に上手く合わない。思うようにプレーさせてもらえないまま時間だけが過ぎていく。しかし、「30分くらいからハビがあんなふうにボールを奪いに来てくれたのは僕にとって良かった」と振り返ったように、相手が深く当たりに来てくれたことで、仕掛けるスペースを得られるようになると、久保は徐々にその状況を変化させていった。

 そして前半42分にチャンスが訪れる。右サイドからカットインしてハビ・ガランを振り切り、最初のシュートを打った。惜しくも名手ヤン・オブラクにファインセーブされてしまったが、ようやく持ち味を発揮し、手応えを掴んだように感じられた。

 ハーフタイムを挟んでもその勢いは衰えず、後半も次々とファウルを誘発。試合後にディエゴ・シメオネ監督が今季初先発のハビ・ガランについて、「久保と対峙するのは簡単ではない」と語ったように、久保が右サイドで脅威となっていたのは確かだ。

 ボールをキープするもゴールを奪えず、敗戦濃厚となるなか、ソシエダは後半39分にルカ・スチッチのゴラッソで同点。そして後半アディショナルタイム、久保がふたたび真価を発揮した。自陣からドリブルを仕掛け、ペナルティーエリア手前でラングレをかわし、左足で強烈なシュート。ボールはクロスバーの上を越え、惜しくも決勝点にはならなかったが、この一発は逆転を信じるホームサポーターを大いに沸かせるものとなった。

ソシエダ本拠地エスタディオ・アノエタのチケット売り場の様子【写真:高橋智行】
ソシエダ本拠地エスタディオ・アノエタのチケット売り場の様子【写真:高橋智行】

 開始直後の先制点で守備的な戦いを続けたアトレティコ相手に、ソシエダは試合内容で圧倒し、最終的に1-1で引き分けた。

アトレティコ戦当日、ソシエダ本拠地エスタディオ・アノエタのグッズ売り場の様子【写真:高橋智行】
アトレティコ戦当日、ソシエダ本拠地エスタディオ・アノエタのグッズ売り場の様子【写真:高橋智行】

久保が滲ませた悔しさ「僕たちのほうが押し込めていたし…」 現地紙は軒並み高評価

 最後までリードを守る能力を備え、逃げ切りを図る強豪相手に、同点に追い付いただけでも上出来。しかし、アルグアシル監督は「低いブロックの守備で世界最高峰の相手に、我々はチームを作り直し、できる限りのことをやったので残念だ」と、勝てなかったことに物足りなさを感じていたようだ。

 久保も同様に、「僕たちのほうが勝利にふさわしかった」「個人的にもチームとしてもいいゲームだったので勝ち点3が欲しかった。普段のゲームとは違い僕たちのほうが押し込めていたし、いい時間帯もあり、ピンチらしいピンチもあまりなかったので今日は勝っておきたかった」と勝利まであと一歩だった内容に悔しさを滲ませた。

 この日のソシエダは相手の4倍となる16本シュートを打ち、数字だけ見れば勝ってもおかしくはない。しかし、ゴールネットを揺らしたのは終了間際の1点のみ。またもや決定力不足が露呈したことで、その原因を聞かれた久保は、「分からない」「僕たちはいいプレーをしていると思うし、そのうちゴールは次々と決まるはずだ」と答えた。

 これが大きく響き、ソシエダはラ・リーガ9試合を終え、2勝3分4敗の勝ち点9。昨季までの調子を取り戻せておらず、降格圏の18位バレンシアとの勝ち点差はわずか2の15位と後退した。

 久保のここまでラ・リーガ成績は、9試合(先発7試合)、633分出場、2得点0アシスト。チームの得点ランキングでオーリ・オスカルソンと並び、トップに立っている。

 ラ・リーガ3位の強豪相手に奮闘した久保を、スペインメディアは軒並み高評価した。クラブの地元紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」は、「彼の献身性と忍耐強さは議論の余地がない。あまり上手くいかなかったが、常に最も多くのチャンスを生み出す選手だった」と評し、ナイフ・アゲルド、イゴール・スベルディア、スチッチ、セルヒオ・ゴメスの4人と並ぶチーム最高タイの6点(最高10点)とした。

 もう1つの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」は、「1つ1つのプレーに求められるものをより良く選択する必要があるとはいえ、彼が最もトライしている選手であることは否めない。相手との1対1から良いシュートを打っていた。1本目はオブラクに拳で阻まれ、後半46分のシュートはゴール上を越えていった。何度もファウルを受け、疲労困憊で試合を終えていた」と寸評。ジョン・アランブル、マルティン・スビメンディ、ミケル・オヤルサバルと同じ3点(最高5点)をつけた。チームトップは貴重な同点弾を挙げたスチッチで4点だった。

アトレティコ戦で賑わいを見せるソシエダ本拠地エスタディオ・アノエタのチュロス屋の様子【写真:高橋智行】
アトレティコ戦で賑わいを見せるソシエダ本拠地エスタディオ・アノエタのチュロス屋の様子【写真:高橋智行】

 全国紙の「マルカ」「AS」の久保評価はともに、チームトップタイの2点(最高3点)となっている。

久保建英を高く評価したスペインラジオ局「カデナ・セル」のレロベルト・ラマホ記者【写真:高橋智行】
久保建英を高く評価したスペインラジオ局「カデナ・セル」のレロベルト・ラマホ記者【写真:高橋智行】

地元記者が称賛「タケはいいプレーをした」 チームの課題も指摘「最後まで響いた」

 スペインのラジオ局「カデナ・セル」でアトレティコ・マドリード戦を実況したレロベルト・ラマホ記者に、この日の久保のパフォーマンスについて伺ってみた。

「タケは今日、とてもいいプレーをしたと思うし、ラ・レアルの中で一番良かったんじゃないかな。チームで一番決定機を作り出していたけど、その多くはタケ対策の任務を与えられたハビ・ガランなどと対峙した1対1から生み出されたものだ」

「いくつかあったチャンスの場面では、スタンドプレーがあったようにも見えた。シュートを打つのではなく、もう少し早くパスを出し、チームメイトともっと連携すべきシーンがあったかもしれない。それでもタケが自ら作り出したチャンスなので、たとえミスを犯したとしても、ゴールを狙う権利があったと思う」

 またもや勝ち切れなかったソシエダについては、特に試合の入りの悪さを嘆いていた。

「あのゴール(アトレティコの先制点)は相手を褒めるべきかもしれないが、あんな形で失点してはダメだ。守備に絶対的な自信を持つアトレティコにとって、早々に1点をリードするというシチュエーションは非常に好ましいものなのだから。ラ・レアルはただでさえ難しい相手に早い段階から苦しい戦いを強いられ、それが最後まで響いてしまった」

「アトレティコ相手に同点に追い付くためには、通常よりも大変な労力を費やさなければならない。もちろん、ゴラッソで1-1にしたことは称賛に値する。しかし、今のラ・レアルはシーズンを通じてずっと同じものを欠いている状態だ。チャンスを作り出しているのにゴールにつながらず、決定率が低い。これまでは比較的容易にゴールネットを揺らしてきたが、今シーズンは苦しみ、大いにもがいている。イマノルとタケはともに“いずれゴールは決まるようになる”と話していたが、ラ・レアルが上に行くためには、早急に解決しなければならない最重要課題だ」

 ロベルト・ラマホ記者がこう語るのは、今シーズンのソシエダが公式戦11試合で9得点と、1試合平均1点を下回っているため。これが積み重なったことで、わずか2勝という厳しい状況に陥っているのだ。

 アトレティコ戦後、「自分の調子はとてもいい」と代表戦に向けて意欲的なコメントを発した久保はこの後、日本代表に合流し、サウジアラビア、オーストラリアとの重要な試合に臨む。その後、10月19日にアウェーで行われるジローナ戦でラ・リーガを再開するが、怪我なくスペインに戻り、アトレティコ戦の良い感触を維持することに期待したい。

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高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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