Jユース誘い断り…将来は「研究者に」 文武両道で「ノーベル賞に興味」、高1の異色キャリア
愛知県進学校・刈谷高の山田斉輝が歩むサッカーと研究者への道
愛知県内有数の進学校である県立刈谷高校。これまで選手権準優勝2回、インターハイ準優勝1回を誇り、伝統の赤ダスキのユニフォームはオールドサッカーファンなら広く浸透されている名門校だ。
2018年度のインターハイ以来全国大会出場こそないが、県内では常に優勝争いに食い込み、昨年度の選手権予選では本大会ベスト8に進出した名古屋高に決勝でPK戦の末に惜敗するなど、全国まであと一歩のところまで来ている。
そんな名門校に今年、実力的にも学力的にも期待十分の新星MFが加わった。愛知の強豪クラブであるフェルボールからやってきた山田斉輝は、中学時代に全国大会に何度も出場し、昨年はU-15日本代表にも選出された技巧派ボランチ。チームのディフェンスリーダーである3年生の岡島陽も「コーチングが的確で、しっかりと状況が見えている上で発信している。戦術理解度の高さが凄まじい」と舌を巻くほど、すでに1年生ながらチームの攻守の要として君臨している。
実は彼は中学時代に3つの強豪Jクラブユースから熱烈なオファーが来ていた。しかし、なぜ彼はそれらを断って刈谷にやってきたのか。その答えは明白だった。
「小さい頃からノーベル賞に興味があって、そこから徐々に研究者になりたいという気持ちが芽生えていきました」
もちろんサッカーへの情熱は強い。小学生の頃はプロサッカー選手としての夢もあったが、中学に入って将来設計をした時に研究者への憧れが強くなったという。
「将来はサッカーよりも人を助けるような仕事がしたいという願望のほうが強かったんです。研究者は自分が直接関わっていない人たちも助けることができるじゃないですか。ノーベル賞をとった偉人たちのように人類のためになる研究をして、例え自分が生きている間に成功できるか、実現できるか分からなくても、何か1つでも物事を前進させるような研究ができて、その後に誰かが成功につなげたり、発展につなげたりしてくれたら嬉しいなと思うようになり、どんどんイメージが膨らんでいきました」
中学2年生の段階で将来は研究者になると決めた。ただ、大好きなサッカーをそこで辞めようとは思わなかった。
「研究者になるためには勉強をしっかりとして、最先端の研究を学べるハイレベルな大学に入らないと実現できない。でも、サッカーは大好きだし、純粋にみんなと戦って勝つことが好きなので辞めたくはなかった」
刈谷高校での3年間では「サッカーでも、勉強でも勝ちたい」
そう考えた時、必然的に進路は勉強もサッカーもしっかりやれる場所で、愛知県内であれば刈谷が条件に合っていた。中2の冬に刈谷に進むことを決断してスタッフに伝え、その時点ですでにオファーが来ていた前述のJユース3クラブに断りを入れた。それ以降も獲得に動いたJユースや強豪校もあったと思われるが、山田の刈谷一本の意思は固く、一切揺らぐことはなかった。
そして彼は意思どおり、刈谷で文武両道を継続している。サッカー面では持ち前の状況判断能力と戦術眼をフルに発揮し、スペースを作り出す動きと埋める動きを的確にこなし、予測をベースにボールを奪い取ると、正確なパスで攻撃を組み立てるチームの心臓となっている。勉強面では学年上位をキープし、難関国立大合格に向けて努力を重ねている。
「今興味があるジャンルはエネルギー系か宇宙系ですね。どれもまだ発展の途上で、かつ研究が進めば、人々の手助けになるジャンルでもあります」
そう語る山田は「僕は別に勉強大好きってわけではないし、得意ではないです」と笑ったように、何か興味を持ったらとことんやり抜きたいタイプの人間だろう。興味を興味だけに終わらせず、きちんと自分の目標として掲げ、そこから逆算をして今何をすべきかを考えて具現化させていく。
「勉強はやりたいことのために必要だからやるという感覚です。でも、やるからには負けたくない。学年で1位になったことはないですし、科目別に見ても上には必ず上がいる。そういう人たちに勝ちたいですし、サッカーを言い訳にもしたくない」
進学校の多くは高校3年生のインターハイを持って部活を辞めて受験に専念するのが一般的だ。刈谷でも毎年、その決断を下す3年生がいる一方で、最後まで文武両道を続ける選手もいる。彼はもちろん後者だ。
「僕はサッカーで勝ちたいし、勉強でも勝ちたい。だからこそ、僕は刈谷での3年間は両方最後までやり抜くと決めています」
インターハイと選手権出場、そしてプリンスリーグ東海昇格を目指し、かつ難関国立大学進学を目指す。
「フェルボールで最後にみんなと『また全国で会おう』と約束をして離れ離れになったので、それを実現させたい」
熱い思いと冷静に現実を見つめる目を持ち合わせ、彼はコツコツと質と勝負にこだわりながら目標に向けて一歩ずつ歩を進めていく。
「コツコツが勝つコツ」。彼はまさにこれを地で行こうとしている。
(FOOTBALL ZONE編集部)