森保ジャパン初招集・大橋祐紀の「活用術」 4つの得点パターンで浮かぶ「最高の相棒」【コラム】
英2部移籍後ゴール量産、10月のアジア最終予選で日本代表初招集
2026年北中米ワールドカップのアジア最終予選で2連勝の好スタートを切った森保ジャパンは10月シリーズでアウェーのサウジアラビア戦、ホームのオーストラリア戦に挑む。3日に発表された27人のメンバー中、24人は9月シリーズに招集された選手たち。今回は怪我の浅野拓磨(マジョルカ)と中山雄太(FC町田ゼルビア)に加えて、パリ五輪代表のエースだった細谷真大(柏レイソル)が外れた一方で、チャンピオンシップ(英2部)でゴールを量産中の大橋祐紀(ブラックバーン)が初招集された。
またパリ五輪代表のキャプテンだった藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)が2年前のE-1選手権から2年ぶりとなるA代表選出。センターバックの瀬古歩夢(グラスホッパー)も昨年の6月シリーズ以来の復帰となり、第2次森保ジャパンでは初めての予選出場を目指すことになる。やはり注目は28歳で初招集となった大橋だろう。湘南ベルマーレでブレイクしたストライカーは今年、新天地のサンフレッチェ広島で22試合11得点を叩き出して、7月に移籍したブラックバーンでリーグ戦4得点を記録している。
ジェフユナイテッド千葉のアカデミー出身で、八千代高校、中央大学を経て湘南入りした大橋にアンダーカテゴリー代表の実績はない。“遅咲き”とも言える大橋の招集について森保一監督は「若手であれ、ベテランであれ、明らかに結果を出している、そして存在感を発揮しているのであれば、誰にでもチャンスがあるということを大橋選手の招集を通じて、日本代表として世界の舞台で戦いたいと選手に思ってもらえると嬉しい」と説明した。今回は浅野が招集できず、細谷が外れた今回のメンバーからすると、大橋は上田綺世(フェイエノールト)と小川航基(NECナイメヘン)がライバルになる1トップに加えて、広島でも経験のある3-4-2-1の2シャドーでの有力な選択肢になる可能性が高い。
湘南、広島時代も含めて大橋の得点パターンとしては主に4つある。
【1】鋭い動き出しからスルーパスを受けて、ディフェンスの背後でGKと1対1になる。
【2】サイドからの速いクロスに勢いよく飛び込んで合わせる。
【3】ボックス内でショートパスを見事にコントロールして、2タッチ目で流し込む。
【4】味方のFWが落としたボールを右足のミドルシュートで撃ち抜く。
このようにフィニッシュのバリエーションが豊富なことは大橋の強みだか、いかに周りの選手とイメージを共有して、良い形に持ち込めるかが森保ジャパンでの主力定着の鍵になってきそうだ。そのトリガーになり得る選手は誰か。
大橋のゴール前での働きぶりはもちろん、輝かせる側にも注目
【1】の得点パターンの場合、最も期待できるのは鎌田大地(クリスタル・パレス)だろう。3-4-2-1なら左のシャドーとボランチで、8番と6番を兼ねる選手だが、引いた位置でボールを受けてから繰り出す、ロングスルーパスは絶品だ。1トップとしてはもちろん、2シャドーから飛び出して合わせるシーンもイメージしやすい。また左利きながら右サイドを主戦場とする堂安律(フライブルク)もインに流れたところからの左足でのスルーパスを得意としている。
大橋はクロスからの得点力も非常に高い選手で、速いクロスとふわりとした浮き球のクロス、両方に合わせる能力を備えるが、フィジカルの強いセンターバックを揃える最終予選の対戦国に対しては、速いボールに飛び込む形がより有効になる。やはり右ウイングバックの主力である伊東純也(スタッド・ランス)が、大橋とのホットラインを開通しそうだ。左の槍である三笘薫(ブライトン)は抉りながらマイナスに浮かせるクロスを得意としており、大橋が相手ディフェンスと逆の動きをした瞬間に、そうしたボールが入ってくれば面白い。前田大然(セルティック)も縦突破からのクロスに磨きをかけており、同時に起用された時は注目だ。
パワフルなイメージが強い大橋だが、狭いところのクイックネスと冷静さも備えている。ワンツーやショートのリターンパスをボックス内で受けて、GKの反対に流し込むようなフィニッシュはハイレベルだ。こうしたフィニッシュを導く“相棒”になりうるのは南野拓実(ASモナコ)だろう。南野はストライカーとして非凡な能力を備えながら、周りの選手に点を取らせることもできるタレントだ。縦関係はもちろん、2シャドーを組んでも、この形からゴールが生まれるかもしれない。久保建英(レアル・ソシエダ)からも同様のラストパスを引き出せる可能性がある。
相手の守備をなかなか崩しきれない時に、強力な武器になるのがミドルシュートの得点力だ。短いドリブルやターンからゴールを狙うこともできるが、相手ディフェンスにとって最も脅威になるのが、味方が落としたボールをダイレクトで捉えるミドルシュートだ。森保ジャパンにおける、この導き手は上田だろう。1トップのライバルだが、深い位置で相手を背負ってシンプルに落としてくれる上田は大橋がシャドーで起用されたら、最高の相棒にもなり得る。もちろん小川が1トップに入った時も、同様の形からゴールが生まれるかもしれない。
そのほか、デザインされたセットプレーからうまく大橋を使ったフィニッシュも重要な得点源になるかもしれない。森保監督がどのタイミングで、どう大橋を起用していくかは今回のシリーズでも注目ポイントだが、一番大事なのはチームが2試合に勝利し、予選突破に大きく前進することだ。初招集で、いきなり勝利のヒーローになれるかどうか。大橋を輝かせる側にも注目していきたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。