佐野兄弟も実践した「田んぼサッカー」で覚醒気配 無名高校→強豪大学で頭角現す“兵庫の逸材”
甲南大3年生FW大西悠斗、無名の存在から飛躍した“天然素材”のキャリア
まさに天然素材と言っていいだろう。関西学生サッカーリーグ1部に所属する甲南大の3年生FW大西悠斗は、180センチのサイズと屈強なフィジカル、抜群のバランス感覚を持ち、豪快な反転と難しい体勢からでも打ち切るパワーを駆使して、関西において徐々に頭角を現してきている。
後期開幕戦となった大阪経済大学との一戦。この試合で大西はリーグ戦初スタメンを飾ると、0-0で迎えた後半5分にFK(フリーキック)のこぼれを素早い反応で押し込んでリーグ初ゴールをマーク。2-0で迎えた後半21分には右サイドのMF清水健生のパスをペナルティーエリア内右のスペースで受けると、角度のないところから豪快に右足を一閃。矢のようなシュートはゴール左隅に突き刺さった。
「あの3点目はあんな軌道で入るなんて思わなかったし、今までやったことがないシュートです(笑)。ボールを受けた時に相手と1対1で、右に誰もいなかったので、身体を入れてボールを収めてから、右のスペースに持ち出しながら前に向いた瞬間に打つしかないと思った。なんか身体が勝手に動きました」
このコメントからも魅力十分。あのシュートを本能でできるのは非常に面白い。
「初スタメンだったので、もうがむしゃらでした」
大西は兵庫県の有馬高校出身。強豪ではなく、3年間で県大会において上位進出の経験はない。3年生の時に所属していたリーグは県リーグ(1部、2部)でもなく、その下の丹有地区リーグ。そこでも9チーム中7位の成績だった。
全くの無名の彼が関西学生リーグ1部に所属する甲南大に進学したのは、先輩の存在が大きかった。高1の時の3年生だったDF越野雄太(現・JFLのミネベアミツミFC)が甲南大に進み、1年から大活躍を見せたのだった。
「もともと大学は強いところでやりたいと思っていましたし、越野さんが無名の存在からレギュラーを取った姿を見て『俺も』と思ったんです」
当然、スポーツ推薦はなく、一般推薦で合格を手にすると、そこからは苦労の連続だった。1年生の時はCチームでプレーし、昨年はBチームでIリーグ(インディペンデンスリーグ)に出場していた。だが、彼には前述したとおり、身体能力とバランス感覚という稀有な武器があり、それが徐々にスタッフ陣の目に留まっていく。
稲刈り後の田んぼでボールを蹴り、体幹とバランス感覚を鍛え上げる
大西の武器が培われたのは幼少時代から高校時代までの日常だった。小学校の時まで彼は水の入っていない田んぼで、ボールを1人でひたすら蹴っていたという。
「稲刈りをしたあとなので、ボコボコでイレギュラーするのですが、逆にそれが楽しかった。ひたすら縦にボールを蹴って、折り返しての繰り返しを夢中でやっていました」
これは佐野海舟(マインツ)と航大(NECナイメヘン)が幼少期によくやっていたことだった。彼らは下駄を履いて稲刈り後の田んぼでボールを蹴っており、大西は靴だったが、それでも抜かるんでいたり、稲の刈り跡があちこちにあったりする状態でボールを蹴りながら走ったり、コントロールをすることは非常に難しい。「靴の裏に泥がついて蹴れば蹴るほど重くなりました」と語るが、そんなのは一切ストレスにはならなかった。
練習というより遊びの延長線上でやっていたと思うが、それが彼の体幹とバランス感覚を自然と鍛え上げていた。中学に進学してからは田んぼではなく、砂利の広場で自家製のゴールを作って、そこにボールを蹴っていたというが、それもまた彼のバランス感覚と足腰の強度を磨く大きな一因となった。
土台があるからこそ、大西は甲南大で徐々にその地位を押し上げていった。今年の新人戦ではついにAチームでスタメン出場を掴むと、そこからコンスタントにAチームに呼ばれるようになり、関西1部リーグデビューは7月7日の第9節の大阪経済大戦。デビューから3試合連続で途中出場を果たすと、前期終了後の裏総理大臣杯(9月の総理大臣杯に出場をしていない強豪大学が集まって行った任意の大会)で再びスタメンに起用されるようになった。
そして満を持して迎えた後期開幕戦でスタメン出場、2ゴールという活躍を見せ、続く第2節の大阪体育大学戦でもスタメン出場をし、貴重な同点弾をマークした。
「高校での不完全燃焼が大きかったので、今はこうして関西1部リーグでがむしゃらにできていることが嬉しいです。この気持ちを忘れないでこれからもやっていきたいです」
屈託のない笑顔で語る彼には、徐々にストライカーとしての自覚が芽生えてきている。精神的にも、身体的にもさらなる成長を秘めた天然素材に注目だ。
(FOOTBALL ZONE編集部)