日本人が奮闘も苦労「韓国だと難しい」 実感したJリーグとの違い…挑戦2年目の現在地【コラム】

蔚山HDの江坂任【写真:Getty Images】
蔚山HDの江坂任【写真:Getty Images】

蔚山所属の江坂がACLEでの戦いに挑んでいる

 9月からスタートしたAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)。序盤2戦を終えて、日本勢はヴィッセル神戸が1勝1分、川崎フロンターレが1勝1敗。昨季ファイナルまで勝ち上がった横浜F・マリノスも9月17日の第1戦・光州FC戦で3-7という信じがたい大敗を喫したものの、10月2日の第2戦・蔚山HD戦を4-0で圧勝。得失点差をプラスマイナスゼロに戻すなど、ようやく本来の力を示し始めた印象だ。

「Kリーグでやってるような戦術ややり方でやりましたけど、マリノスの方が1枚も2枚も上だった。上手くていい選手が揃っていますし、GKからしっかりオーガナイズされていた。自分たちが準備してきたものを上回られたなと思います」と蔚山の背番号31江坂任は神妙な面持ちも語っていた。

 2015年に加入したザスパクサツ群馬を皮切りに、大宮アルディージャ、柏レイソル、浦和レッズとJリーグで8シーズンプレーした江坂が韓国に赴いたのは2023年1月。21年、22年には森保ジャパンにも招集されたファンタジスタが30歳でKリーグを選んだことは、多くの関係者やファンを驚かせた。

 それでも、蔚山はKリーグの名門。当時の指揮官であるホン・ミョンボ監督(現韓国代表監督)、日本人フィジカルコーチの池田誠剛氏らがいる環境ということで、適応はスムーズに進み、本来の創造性やテクニックを発揮して大活躍するだろうと期待された。

 しかしながら、1年目はKリーグ18試合出場で2得点3アシストという物足りない結果に終わってしまう。

「怪我もありましたし、韓国に慣れるのに想像以上に時間がかかってしまった。最初の半年間は試合に出られないことが多くて、僕自身にとっては本当に難しい時期でした。『なぜ出れないのか』という理由を真剣に考えたし、韓国にアジャストしつつ自分を出す術を模索しましたね」と彼は今年1月のACLラウンド16でヴァンフォーレ甲府と対戦するために来日した際、難しさを吐露していた。

 それから半年以上が経過。ホン・ミョンボ監督の韓国代表行きに伴い、7月末から蔚山の指揮官がキム・パンゴン監督に交代。江坂の役割も微妙に変化しているようだ。

 前体制では「サイド、トップ下、ボランチをやった」と話していたが、今回の横浜FM戦では4-3-3の右インサイドハーフ(IH)で先発。攻守のつなぎ役、そして攻撃のお膳立ての役割を期待された様子だ。しかしこの日は開始早々に失点してからリズムに乗れず、前半45分のみで退く形になってしまう。江坂自身、9月18日の川崎戦で両足を捻挫しており、横浜FM戦の3日前に復帰したばかり。コンディション面でもまだ100%とは言えなかったのだろう。

「ボールさえ来てくれれば良かったんですけど、日本のセンターバック(CB)、GK、サイドバック(SB)と違って(僕らのチームは)あんまりテクニカルではないので、そういうところでKリーグでやっぱり苦労するところはありますね。正直、浦和とか柏にいた時は、今日も(対戦相手に)上島(拓巳)がいましたけど、ああいう選手がストンと(縦パスを)入れてくれるんで、窮屈なところにいても自分のプレーができていたのはあるんですけど、韓国だとちょっと難しい部分もある。そのへんをどうやっていくかだと思います」と江坂は新シーズンACLE未勝利の苦境をにじませた。

「ボールが入ってこない」というのは、甲府戦で来日した時も繰り返し言っていたこと。韓国はスタジアム、練習環境含めてピッチ上状態が劣悪で、それも蹴るサッカーに偏りがちな要因なのだろう。

タレント揃いの蔚山だったが本領発揮できず

 今回の蔚山のメンバーを見ると、かつてサガン鳥栖の攻撃を牽引していたキム・ミヌを筆頭に、神戸などで活躍したチョン・ウヨン、ボルトンで一世を風靡したイ・チョンヨンら経験豊富なタレントが揃っていたが、その良さが十分に出ていないのは確か。ライバルである日本のチームに0-4の大敗というのは、Kリーグ2連覇の絶対王者にとっては絶対に許されない結果。「それなのに後半もギア上げられないのは韓国人選手のメンタルが弱くなった証拠」と苦言を呈する関係者もいる。

 だからこそ、百戦錬磨の日本人助っ人が自らアクションを起こし、改善を促していく必要がありそうだ。

「監督が代わって、やってほしいことをよりハッキリと選手に伝えてくれるので、分かりやすくなったんじゃないかなとは思います。ミョンボさんの方がガッツリした戦術はあんまりなかったので。そういう中で、自分もタフになったと思います。日本みたいに『いいタイミングでボールが来ない』とか『自分がやりたいようなことができないみたい』というジレンマはありますけど、そこも我慢しながら自分の良さをうまく出して、韓国らしいファイトする部分にも2年目なんで対応もしなきゃいけない。そういう部分は日本ではできない経験をさせてもらっている。環境面含めて、そういうところでは自分の成長を感じます」と江坂は前向きに言う。32歳になった“助っ人”がどうリーダーシップを発揮していくかが興味深いところだ。

 川崎、横浜FMに破れた蔚山がACLEで次に対峙するのは神戸。10月23日のホームゲームは必ず勝たなければいけない重要ゲームになる。

「どこもスタイルが違うんで、やり方が変わりますし、次は蔚山のホームで自分たちの戦い方に持っていけるところもあると思う。神戸は今、Jリーグで力をつけているクラブなので、自分たちの力も試せる。そこは楽しみにしてますね」

 江坂にしてみれば、神戸は出身地のクラブ。かつてジュニアユースのセレクションに落ちた経験もある。日本代表で共闘したことのある大迫勇也や前川黛也、浦和の元チームメートの岩波拓也らもいる因縁の相手に彼は本来の輝きを示せるか…。まずはコンディションをトップに引き上げることを最優先に考え、調整を進めてほしいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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