Jリーガーの兄が言い放った「プロで武器消される」 左足へのこだわり弱めた21歳逸材の決意

甲南大3年生の泉彩稀(中央)【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
甲南大3年生の泉彩稀(中央)【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

甲南大3年生MF泉彩稀、J3大宮で活躍する兄をお手本に奮闘

 関西学生リーグ1部で奮闘する甲南大学の攻守の要である21歳の3年生MF泉彩稀は、非常に写真を撮りづらい選手だ。攻撃においても、守備においても常に半身の姿勢でいるため、正面からのカットが撮りにくい。

「半身でいることは大事にしていて、常にベクトルを前に向けたいと思いますし、逆にネガティブトランジションの時にすぐに守備に行けることを大事にしています」

 ボランチとして攻守に関わり続けながらも、攻撃のチャンスだけは逃さない。この姿勢が彼のプレースタイルに如実に現れている。ヴィッセル神戸U-18時代はどんどんゴール前に飛び出していくトップ下型の選手だった。そんな彼が、なぜこのような攻守のバランスを第一に考えたボランチになったのか。そこに大きな興味を抱いた。

「ずっと攻撃的な選手だったんです。中学生まではFWと右サイドハーフをやっていて、兄のようにドリブルでガンガン仕掛けてゴールを狙っていくスタイルでした。でも、ヴィッセルに入った時にドリブルからポゼッション主体のチームに変わって、そこでトップ下をやるようになって落ちて受けたり、ターンだったり、ボールと常に関わることを徐々に覚えていって、大学に入ってボランチをやるようになって、そこからワンタッチで周りとのつながり覚えていきました」

 彼の兄は現在、大宮アルディージャでプレーする泉柊椰だ。神戸U-18からびわこ成蹊スポーツ大学から2023年に神戸に加入すると、モンテディオ山形を経て、今年から大宮に期限付き移籍。そこでキレキレのスピードドリブルをフルに発揮して、J3で首位を走る大宮の左サイドの切り込み隊長になっている。

 中学生までは兄と同じようにキレキレのドリブルをベースに、レフティー独特のキックを武器にしていたが、神戸U-18に入ってトップ下で「たくさんボールを触ってプレーするほうが自分の良さを出せることに気付いたんです」と新たな世界を見た。

 そして大学に進学すると、神戸時代に指導を受けていた竹口清一監督に「守備で気の利く選手だと思っているからボランチにする」とさらに1つうしろにコンバート。「中盤の底のほうがよりボールが集まってくるし、自分のリズムや持ち味を出しやすいと感じました」とすぐに順応して、今や確固たるポジションにしている。

兄の教えを受け…武器である左足のキックへのこだわりに変化

 こうした経緯のなかで、彼は常にお手本にしている兄の存在に刺激と学びを受けながら成長を続けている。

「よく話をしますし、プロになってからもプロの世界はどういうものかを教えてもらっています」

 スピードとドリブルという明確な武器を持っている兄が無双をしている姿も、プロに入ってその武器を思うように発揮できずにもがき苦しんでいる姿も、彩稀は誰よりも間近で見てきた。

「プロになると外国籍の選手もいますし、それこそパススピード、判断スピード、寄せのスピードが桁違いに上がる。そこに頭を追い付かせないといけないと思っているうちに、武器のドリブルまでなかなか持っていけないと言っていたのが印象的でした」

 強烈な武器を持っていても、プロの世界では対策を講じられる。「プロでやっていくにはドリブルを磨くというより、ドリブルに至るまでに必要なことを見つけてそこを重点的にやらないといけない。そうじゃないと武器を出す前に消される」という兄の言葉が心に刺さった。プロに進んでからドリブルを磨くというより、ドリブルに至るまでに必要な要素を見つけ出し、そこを重点的にトレーニングする兄を見て、自分に照らし合わせた。

「僕の武器は左足のキックとコントロール。それを磨くこともいいのですが、相手が左利きだと分かれば、徹底的にそこを消してくるので、左足を出せるまでに必要なことを見つけて、そこを重点的にやっておかないといけないということを実践しています。必要なのは判断スピードだったり、フィジカルだったり。パッとボールを受けた時に、左を消されないようなポジショニングだったり、ファーストタッチの質だったり、味方との距離感だったり、右足の精度だったり細かいところまで意識するようになりました」

 そのアプローチの1つが「身体の向き」だった。常に攻撃も守備も出来るポジションに立ちながら、かつアジリティーを発揮できる状態を作り出す。これこそが彼がこの先の世界を見据えて兄から得た教訓だった。

「ポジション的にもチームの勝ち負けが評価につながると思っているので、チームの勝利を意識していくことはもちろん、ゴールに関わっていく、守備はクリーンシートで終わることにこだわってやっていきたいと思います。チームとしてリーグ制覇、インカレ出場を実現させることと、個人的にはデンソーチャレンジカップの関西選抜入りを狙っていきたいし、リーグのアシスト王も狙っていきたい」

 野心は大きく、細かい努力を継続し続ける男は、これからも兄の教えと自分を信じてより大きな存在となっていく。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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