監督の胸ぐら掴み憤怒「お前に資格はねぇ!」 欧州で日本人が衝撃…罰金3億円超の強烈サポーター文化【インタビュー】

熱狂的すぎるドレスデンのファン・サポーター【写真:Getty Images】
熱狂的すぎるドレスデンのファン・サポーター【写真:Getty Images】

ザンクトパウリで働く神原健太氏が感じた強烈なファンカルチャー

 年間平均集客数で世界一を誇るドイツ・ブンデスリーガの熱気は圧倒的だ。ドイツ1部ザンクトパウリでホペイロ(用具係)として働く日本人スタッフの神原健太氏は、自身の経験談を基に、「本当にもう滲み出るヤバさ」と強烈なファンカルチャーの奥深さについて語っている。(取材・文=中野吉之伴/全4回の2回目)

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 海外でプレーする日本人選手の多くはヨーロッパにおけるスタジアムの雰囲気について、「やっぱり違いますよね」と口にする。圧倒的な熱量により、スタジアムの中にいると声援の大きさで空気が震えるのを感じるほどだ。

 年間平均集客数で世界一を走るブンデスリーガでは熱狂的なファンを持つクラブも多い。それこそ1部ではなく、2部や3部でも激熱だ。ただ熱狂を飛び越えて、狂信的とさえ思わせられるクラブファンもいる。

 現在ドイツ1部ザンクトパウリでホペイロを務める神原健太は、以前仕事をしていた3部ドレスデンでの空気感を「ヤバイ」と表現していた。

「ザンクトパウリのサポーターって、世間的にアグレッシブでヤバイみたいな感覚があったりするかと思うんですけど、僕は全然そうは思わない。それくらいドレスデンのほうが圧倒的にファンカルチャーは強烈。本当にもう滲み出るヤバさ」

 そこまでいう「ヤバさ」とはどんなものなのだろう? 具体的にどういったところに違いがあるのだろう?

「みんなクラブとともに生きている。もう凄いですよ。勝ったら神様扱いされます。味方につけたらこれほどの味方はいないんですけど、敵に回したらもう……。21-22シーズンに2部16位で終えて、3部3位のカイザースラウテルンとの入れ替え戦があったんですけど、セカンドレグのホームゲームで負けたんですよね。これにファンが切れて。花火をピッチに何度も打ち込んでしまって、試合が相当中断したりとか。

 試合後にも荒れ狂ったサポーターグループの一部が、チームバスまで乗り込んできて、監督の胸ぐらを掴んで、『お前にこのエンブレムを背負う資格はねぇ。この服を早く脱げ!』って。そういうのを経験しているので、かわいらしいもんですね、ザンクトパウリのサポーターは(笑)」

ドイツ1部ザンクトパウリでホペイロとして働く日本人スタッフの神原健太氏【写真:本人提供】
ドイツ1部ザンクトパウリでホペイロとして働く日本人スタッフの神原健太氏【写真:本人提供】

警官隊と大衝突も…ファンの騒動で毎年平均2300万円の罰金

 こちらの常識を軽々と超えている。確かに筆者も取材で何回かドレスデンへ行ったことがあるが、「あれ? 身に危険が及ぶかもしれない」という空気感を感じたことはある。スタジアムからの帰り道はいつでもダッシュできる体勢をキープしながら駅まで帰ったのを覚えている。もちろんみんながみんな「ヤバイ」わけではないものの、コアファンの思い入れぶりは半端ない。

「調べてみると面白いと思うんですけど。これまでにドレスデンはファンの騒動で総額いくら罰金払ったか。多分とんでもない額になると思います。毎回のように発煙筒を焚いては罰金を取られています。2部だった21-22シーズンはまだコロナだったので無観客試合だったんですけど、あるホームゲームの時に、スタジアム前にサポーターが5000人ぐらい集まっちゃって。さらには警官隊と大衝突。本当にそういう意味での『ヤバさ』で言ったら本当にドイツトップクラス。調べてみてください」

 実際に調べてみた。2010年から2024年までの14年間で、その総額なんと211万7140ユーロ。日本円に直すとおよそ3億3100万円。毎年平均15万1224ユーロ(約2300万円)が罰金で消えている計算になる。3部リーグ所属でこの支出はきつい。

「そういえばイエナ時代にハンザ・ロストクとよく試合があったんですけど、あるホームゲームで、ロストクサポーターがイエナサポーターに魚を投げ込んだってことがありました」

 ドレスデンだけではなかったのか。いろんなやり方があるものだ。どうやって席まで魚を運んだのかも謎。愛するがあまりに膨大なエネルギーが生まれているのは間違いないが、とはいえやりすぎ感が強すぎる。

 いやはや奥が深い。それとも闇が深い?(文中敬称略)

[プロフィール]
神原健太(かんばら・けんた)/筑波大学体育専門学部に入学後、関東大学サッカー連盟でリーグ運営のスタッフを経験。選手をサポートする仕事に魅力を感じ、J2のFC岐阜などでホペイロを務める。その世界で頂点を極めるため2017年にドイツへ渡り、手探りで道を切り開き、3部クラブのイエナと契約。2020年に当時2部から3部降格したドレスデンへ移り、22年には2部ザンクトパウリへと移籍。23-24シーズン、クラブとともに悲願の1部昇格を祝った。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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