苦難の川崎にパワー系2トップ 助っ人FWがようやく機能、レンズに映った試行錯誤の成果【コラム】

新潟戦でエリソンとマルシーニョが躍動【写真:徳原隆元】
新潟戦でエリソンとマルシーニョが躍動【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】パスサッカー新潟を圧倒し5-1の快勝

 9月27日に行われたJ1リーグ第32節、ホームにアルビレックス新潟を迎えた川崎フロンターレは、前半14分にペナルティーキック(PK)のチャンスを得る。キッカーのブラジル人FWエリソンは、自分を落ち着かせるように1つ大きく深呼吸をした。そして、左足で放ったシュートは新潟GK小島亨介にコースを読まれたが、ボールの勢いが勝りゴールイン。川崎が先制する。

 川崎はスタンドのサポーターの声援を背に、キックオフからフルスロットルの攻撃を見せた。左サイドに位置するマルシーニョが得意のドリブルでボールを前線へと運び、エリソンと山田新のパワー系の2トップを中心としたパスワークで新潟の牙城の攻略を目指す。

 そして、この鬼木達監督の采配が見事に的中する。チームが上手く機能した要因は、やはり2得点を叩き出したエリソンの活躍だろう。ただ、今シーズン新たに川崎へと加わったエリソンは、ここまで本領を発揮できずにいた。

 それは川崎の独特のサッカースタイルが関係していると考えられる。新加入の選手が川崎の独特なパスサッカーを習得することは容易ではない。

 昨年まで所属していたブラジル人ストライカーのレアンドロ・ダミアン、そしてチームの大黒柱である家長昭博も怪我で出遅れたとはいえ、加入の初年度から活躍するのが難しかったように、川崎のチーム戦術に適応するのは簡単なことではない。

 エリソンも過去の新加入の選手と同様にスタイルの習得に苦しんでいた。そのため、この試合ではピッチに立った仲間たちから、彼を活躍させようとする雰囲気が強く感じられた。ドリブル突破からチャンスを作ったマルシーニョはエリソンの動きを強く意識し、多くのパスを供給した。結果を出したエリソンが後半29分にピッチを去る際も、交代の小林悠が大きな拍手で迎え活躍を称えた。

 こうしたエリソンに結果を出してほしいという選手たちの思いとプレーに、ブラジル人FWも応え、ゴールへと結実したのだった。さらに、成長著しい山田も相棒のこのブラジル人に追随するように2ゴールをゲットし、前半18分の脇坂泰斗の得点と合わせて、川崎は5-1の快勝を飾った。

エリソンは新潟戦で2ゴールの活躍【写真:徳原隆元】
エリソンは新潟戦で2ゴールの活躍【写真:徳原隆元】

川崎はルヴァンカップ、ACLEとタイトな日程を控える

 対して大敗した新潟。スコアから見れば川崎に圧倒された形だが、一方的な試合内容だったかというと、必ずしもそうではない。ボールをつないで川崎陣内へと攻め込み、ゴール中央を固められていると見ると、ミドルシュートを放って揺さぶるなど、最終局面は崩せなかったがチャンスは作っていた。結果的にボール保持率も川崎を上回っている。ただ、新潟はゴールが遠かった。

 そうした新潟と比較して、川崎はゴールのチャンスを確実にものにして、上手く90分間を纏め上げた。

 リーグ戦とともにルヴァンカップもベスト4へと進出し、AFCチャンピオンズリーグエリート(AFCE)も戦う川崎にとって、これからの試合は海外遠征を含むタイトな日程となっていく。対戦相手のスタイルもより多様化し、さまざまな対応を考えて試合に臨まなければならない。そうした状況では、チームとしての引き出しが多いことに越したことはない。

 今回のエリソンと山田というダイナミックなプレーを見せるFWを並べた2トップに、脇坂とマルシーニョが織り成す布陣は、見事に機能し大勝を飾った。今シーズンの川崎は近年の成績と比べて苦戦しているが、現有戦力であの手この手を考えて、なんとかやり繰りしている印象だ。そうした試行錯誤やチャレンジは、今回がそうであるように新たな可能性の誕生につながることもある。

 近い将来、この対新潟戦の布陣が、川崎の新機軸として定着する可能性を秘めた大勝だった。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)

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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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