「日本は試合が止まりすぎ」 海外レフェリーのジャッジ傾向に感じるJリーグの課題【コラム】
「審判交流プログラム」をとおして気づいたこと
日本サッカー協会(JFA)はJリーグと協力し、海外のレフェリーを招聘する「審判交流プログラム」を行っている。
このプログラムで学べることは多い。「海外から来たレフェリーはすごい」ということだけではない。海外から来たレフェリーが戸惑っている場面もある。例えば、日本はクイックリスタートが多いため、来日したレフェリーが笛を吹いてほんのちょっと目を離した隙に次の場面に移って、主審が慌てているということもあった。
それぞれのリーグの特徴の違いがあり、海外の審判もそれを認識して自分に取り入れている。海外の審判に日本のサッカーに対する認識を深めてもらう意味でもこのプログラムは重要だ。もちろんジャッジについても多くのことを学ぶことができる。来日しているレフェリーの笛と、日本の審判のジャッジを見ていると、いくつか気付く点があるのだ。
9月に招聘したレフェリーの1人がメキシコのセサル・ラモス主審だった。2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)では準決勝のフランス対モロッコを裁き、2024年7月のコパ・アメリカ(南米選手権)においては準決勝のウルグアイ対コロンビアで前半アディショナルタイムにコロンビアのダニエル・ムニョスが2枚目の警告で退場となる、激しい試合の笛を吹いた。
そのラモス主審が笛を吹いたJ1リーグ第30節のFC東京対名古屋グランパスと、山下良美主審が担当した第31節のFC町田ゼルビア対北海道コンサドーレ札幌のジャッジを見ながら気付いた点がある。
欧州では脳しんとうや大きな怪我が疑われる場面以外では簡単に試合が止まらず
ラモス主審は激しい接触があり、選手が倒れていてもそのままゲームを流そうとした。だが選手たちは倒れているプレーヤーのことを気遣い、いくつかプレーを続けたあとに自分たちでボールを止め、選手が立ち上がるのを待っていた。
山下主審は接触があったりもつれたりした場面で、必ず一度試合を止めた。選手がぶつかり合ってボールが止まった時、片方がクイックリスタートをしようとしていてもやり直させていた場面があった。
両方の審判の判定基準が試合の間に変わることはなかった。その点で言えば不公平は生じておらず、それがゴールに結び付いたこともなかった。
だが、ヨーロッパのリーグ戦や世界各国で始まった2026年北中米W杯の予選などを観ていると、これは国内の意識を変えていく時期に来たのではないかと思う。
脳しんとうや大きな怪我が疑われる場面などではない限り、なかなか試合は止まらないのだ。プレーが途切れたところで対応が行われたり、あるいはイングランドなどでは怪我をした選手が自分からピッチの外に出て試合を止めることなく治療を受けたりする。
古くからのファンの人は2006年ドイツW杯、イングランド対スウェーデンで、イングランドのFWマイケル・オーウェンが右膝靭帯断裂で全治5か月以上という負傷を負いながら、自ら這ってピッチを出てゲームを止めなかったことを覚えているだろう。
「日本人は優しい」と言えば、それはそのとおり。相手選手であろうとも仲間としていたわり、片方に不利になりそうな場面では正々堂々とした勝負を促す。山下主審の場合で言えば、もしどちらのスローインか微妙な場面でクイックリスタートを認めてしまったら、相手チームからの反発が大きかっただろう。その意味では優勝にも降格にも影響する試合の「温度」を上げすぎないようにコントロールしたのかもしれない。
日本では試合が止まりすぎ!?
しかし、世界を相手に戦っていくことを考えた場合、判定基準を変えていくことが必要ではないだろうか。日本代表のスタッフも「日本は試合が止まりすぎる。もっと流してくれたほうがいい」と語っていたことがあった。
もっとも、これは主審が判定基準を変えただけでは対応できないことだ。主審が流したとしても選手が自分たちで止まったり、あるいは必要以上に興奮したりしてしまっては意味がない。また、観客から不満が出て主審や選手に非難が集まるようになってもいけない。
その点において日本サッカー協会とJリーグは、プレー強度の判定基準をさらに明確にし、啓蒙活動を行っていかなければならないのではないだろうか。どの程度のプレーまでは止めないというレベルを明確に示して浸透させたほうがいい。
日本人選手が多数ヨーロッパで活躍するようになり、激しい接触が多いリーグで活躍しているのを見ると、日本選手はタフなプレーに耐えられるということは証明されている。だったら試合をもっと途切れさせないようにすることもできるはずだ。
そうすればアクチュアルプレーイングタイムは増え、選手も観客ももっとプレーを楽しめるようになり、試合の熱狂度が上がってリーグの魅力が増し、Jリーグの人気がさらに高まって資金がもっと流入するようになって名選手が日本を目指すようになる。——なんてことが一朝一夕には起きないだろうが、「50-50」、どっちに転ぶか分からないようなゲームが増えて楽しくなる。かもしれない。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。