J1降格圏で低迷「得点増えない」 残り8戦への鍵…“リーグNo.1の左足”に「触れば1点」【コラム】

J1残留争い中の磐田【写真:徳原隆元】
J1残留争い中の磐田【写真:徳原隆元】

降格圏に沈むジュビロ磐田、残留への希望つなぐキーマンに注目

 J1リーグも残すところ7節となり、佳境を迎えている。ジュビロ磐田は勝ち点32、17位の湘南ベルマーレより消化試合が1試合多い状況で、得失点差で18位となっている。いまだ降格圏にいるが、J1残留に向けた士気は上向いている。国際Aマッチによる中断明けの直近2試合ではアウェーで柏レイソルに2-0の勝利、故サルヴァトーレ・スキラッチ氏の追悼試合でもあったヤマハスタジアムでのアビスパ福岡戦はスコアレスドローに終わったが、2試合連続での無失点は4月以来となった。

 開幕前には“勝ち点40以上”を掲げていた横内昭展監督からも「我々は勝ち点を拾ってJ1に生き残るというところが大目標にある」という言葉が出ているように、チームは残留という1つの目標に向けてやるべきことが明確になって来ている状況だ。そのための大前提として横内監督が重視するのは前半のうちに失点しないことだ。

 Jリーグの傾向としては前半よりも後半のほうが失点は増えるものだ。心身の疲労や相手の交代策、勝ち点3を目指して展開がオープンになることなど、理由はさまざまだが、磐田の場合はこれまで前半24失点、後半25失点とほぼ変わらない。例えば前節の相手だった福岡が前半11失点、後半22失点と倍の差があるのとは明らかな違いがある。

 実際、これまで前半に先制点を奪われた試合は2勝1分12敗と惨憺(さんたん)たる結果になっている。見方を変えれば前半にリードされなければ、6勝5分2敗と勝ち越せているのだ。柏戦と福岡戦はそのハードルをクリアできての結果でもあるが、福岡戦では守備意識の高さと攻撃面でのダイナミックさをうまく両立させることができなかった。

 磐田の場合これまでの失点を招いていた理由の1つが、ビルドアップのミスでボールを失ってから守備が後手になってしまうことだった。そこで一発のカウンターは凌げても、2次攻撃やセットプレーから失点するケースも含めて、その部分が解決されれば前半の失点を減らせるのは明らかだった。自陣からのシンプルなパス出しやジャーメイン良などFW陣へのロングボールを使った攻撃が、前半から増えているのもそのためだ。一方、前線に起点ができてからの攻撃も大胆さを欠く傾向が出ているのは課題だ。

「得点できるクロスを彼は上げてくれる」…同僚が太鼓判押す助っ人の存在

 ジャーメインと2トップを組むFW渡邉りょうも「最後のところでどれだけ勇気持って、チャレンジしていけるかというとこだと思うので。そこで攻め続けない限り、トライしていかない限り得点が増えていかない」と語る。今のままやり続けても、アバウトなロングボールのこぼれ球を押し込むなど、事故的なゴールはどこかで生まれるかもしれない。しかし、おそらく残留に向けて8試合で勝ち点10ぐらいは積み上げる必要があることを考えても、意図的な得点というのも必要になってくる。

 福岡戦でもそれが全く出ていなかったわけではないが、相手の堅い守備もあり、ゴールに結び付けられなかった。ジャーメインは「自分や(渡邉)りょうのところで起点を作れた時に、出て行くスピードやダイナミックさ、動きの質は必要になる」と主張するが、そこでゴールをもたらすキーマンになってきそうなのが、夏に加入したジョルディ・クルークスと左サイドハーフで2試合スタメンが続く高畑奎汰だ。

 クルークスは右サイドからのカットインと鋭いシュート性の左足クロスを得意とする。基本は攻守バランスに優れる松本昌也が右サイドハーフのスタメンで出て、勝負の切り札としてクルークスが後半に投入されるのが1つのパターンになっているが、その良質な左足を十分に生かせているとは言い難い。高速のボールに味方の選手が合わせ切れていないためだ。

 クルークスの左足を“リーグNo.1”と認めるジャーメインは「だいぶタイミングが分かってきたというか。触れそうなシーンもあったので。触れなかったんですけど、あれに触れていれば1点なので。あのタイミングで来るということで、次しっかり合わせられるように。相手は嫌だと思うので、いいタイミングで入っていければ」と前向きに語る。

 セレッソ大阪でクルークスと同僚だった渡邉は「ジョルディが入ればもちろん、それ以上にエネルギーを持って攻撃をしようという横さんからのメッセージでもあると思う」と前置きしながら「質の高い速いクロスを上げてくれるので。前の選手がそこに入り込めば、先に触りさえすれば得点できるクロスを彼は上げてくれる。ゴールに迫るクロスというのは相手も嫌ですし、その分、ミスしたら失点にすぐつながる。ドンピシャのタイミングで、120%のスピードでようやく触れる。80%ぐらいだと絶対触れない」と強調する。

 第26節の鹿島アントラーズ戦(2-1)で同点ゴールをもたらしたのはクルークスから山田大記への高速クロスだったが、似たスチュエーションはその後の数試合でも生まれており、日頃から練習で一緒にやっている味方の動きが合いさえすれば、得点を生み出せる可能性は高い。もちろんクルークスが直接決めるケースも含めて、次のアウェー名古屋グランパス戦も含めた鍵になりそうだ。

残り8試合、2人のレフティーを生かし狙う「勝ち点3」

 もう1つは左サイドの高畑を生かした攻撃の形で、こちらは前半のうちに得点を奪うためのカギとしても活用していきたいところだ。福岡戦での2本のミドルシュートなど、インサイドに流れたところでの危険なプレーは何度か見せているが、左サイドを抉って左足でクロスをジャーメインや渡邉に合わせるようなシーンが、これまでの柏戦と福岡戦ではなかなか出なかった。

 ジャーメインは「(左サイドバックの松原)后がボール持った時に、いいアクションを起こして、もらえればクロス上げられそうなシーンあった」と振り返る。高畑は右サイドからの攻撃に対して、左側からゴールに入る形でも、何度か得点になりかけたシーンに絡んでおり、守備でハードワークしながら攻撃のオプションとしてもより機能できれば、終盤戦の磐田に勝ち点3をもたらす可能性は十分にある。

 直近2試合で周囲からの評価を高めている高畑も「やっぱり得点やアシストで結果出さないといけないですし、今やってることは当たり前にやらないといけない。ここからは自分の良さをもっと出して、結果につなげられるようにしたい」と決意を新たにしており、名古屋戦では攻撃面で勝負を決定付けるプレーに期待したいところだ。

 もちろん、クルークスや高畑の得点に直結する活躍は磐田の勝ち点3に大きく関わってくるが、やはり4-4-2というシステムで戦っている以上は彼らが作ったチャンスをゴールに結び付けるストライカーの仕事がなければ、残留可能な勝ち点を積み上げるのは難しい。

「自分はやっぱり点を取りたい気持ちはあるので。あと8試合ですけど、20点ぐらい取れるように頑張りたいなと思います。あとは自分がもう1つ状態を上げて点を取れれば、勝ち点1が3になって、残留にも持ち込めていくと思う」とジャーメイン。クルークスと高畑という2人のレフティーを生かしながらジャーメイン、渡邉、マテウス・ペイショットといったFW陣が得点を決めて、磐田に勝ち点3をもたらすことができるか注目だ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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