今季躍進のJクラブ補強が「最も上手い」 主力の欧州流出を逆手に…“ずれ”を生かした巧妙策【コラム】

主力流出も的確な補強を実現した広島【写真:Getty Images】
主力流出も的確な補強を実現した広島【写真:Getty Images】

過密日程を戦い抜く体制を整えた広島、夏の補強組が大きく貢献

 J1の優勝争いが絞られてきた。サンフレッチェ広島とFC町田ゼルビアが勝点59で並び、1ポイント差(同58)でヴィッセル神戸。この3チームの争いである。

 31試合で61ゴールの破壊力を見せている広島は夏場の補強が奏功している。トルガイ・アルスランは7試合7ゴール。しかもたった9本のシュートで7点という驚異的な決定力だ。ポジションは3-4-2-1システムの左側のシャドーでプレーする機会が多い。ブラックバーンへ移籍した大橋祐紀と入れ替わりに加入して、大橋の穴を見事に埋めた。

 トルガイはあまり速そうには見えない。ドリブルの際にいわゆる「二軸」を使っているからだと思う。

 左右にごく小さくステップを入れて、どちらにも動ける体勢。対面の相手の反応次第で逆を突いてドリブル、パスを行う。いったん止まりかけるので遅くなるのだが、結果的に相手の逆を突くから相対的には速い。この「後の先を取る」プレースタイルが余裕ある選択につながっている。

 レッドブル・ザルツブルク(オーストリア)へ移籍した川村拓夢の後釜には川辺駿を補強した。2021年にグラスホッパー・チューリッヒ(スイス)へ移籍していたが、古巣へ復帰した形。川辺の加入も大きな力になっている。

 チーム内最多得点(11ゴール)の大橋、ダイナミックに攻守に貢献し日本代表にも選出されていた川村。この2人の離脱は大きな痛手になるはずだった。しかし、トルガイと川辺はそれを補って余りある補強と言える。

 ミヒャエル・スキッベ監督の就任以来、広島はタイミングの速い攻め込みと、それに続くプレッシングを戦術的な特徴としてきた。大橋、川村はそれにフィットした選手だったわけだが、トルガイと川辺によって少し違った面が表れている。スピーディーな攻守は大きく変わらないが、新加入2人の技術と判断が落ち着きを与えているように見える。より試合をコントロールできるようになり、ポゼッションからの攻撃が新たな武器になった。チームはより洗練され、バランスが取れてきた。

 広島はさらにゴンサロ・パシエンシアも獲得。ドウグラス・ヴィエイラ、ピエロス・ソティリウと3人のセンターフォワードを抱えることになった。3人とも高さがあるので、シンプルなハイクロスを得点に変えられる。似たタイプが3人も必要かはさておき、過密日程を戦い抜く体制にはなっている。

 欧州とJリーグではシーズンのずれがあり、毎年6~8月には主力選手が欧州クラブに引き抜かれている。一方で、欧州から選手を獲得する機会でもある。広島はそれを最も上手く利用したチームだったのではないか。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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