久保建英がD・シルバ役…“10番”新ポジションで見せた可能性 番記者指摘「非常に危険な選手」【現地発コラム】

バジャドリード戦に出場した久保建英【写真:Getty Images】
バジャドリード戦に出場した久保建英【写真:Getty Images】

バジャドリード戦で2試合ぶり先発復帰のソシエダ久保、4-4-2のトップ下で好機演出

 2試合ぶりに先発復帰した久保建英は新たなポジションで躍動するも、チームはまたもやいい結果を得得られなかった。

 レアル・ソシエダは一向に調子が上がらず、1勝1分4敗、勝ち点4の16位。ラ・リーガ開幕から6試合の成績が、クラブ史上2番目に悪い成績。不調の波から抜け出せないまま9月22日に、プリメーラ復帰をわずか1年で果たしたバジャドリード(17位)とアウェーで対戦した。

 翌週からUEFAヨーロッパリーグ(EL)が始まることも視野に入れてか、イマノル・アルグアシル監督は現状を打開すべく、この一戦で1つの大きな決断を下した。戦前の予想はいつもどおりの4-3-3だったが、キックオフ後にピッチで見られたのは、久保がトップ下に入る中盤ダイヤモンド型の4-4-2だった。

 これは、ミケル・オヤルサバルが左膝前十字靭帯断裂の重傷を負った2022年3月以降に採用されたもの。トップ下を務めたダビド・シルバが負傷した翌年1月まで重用されていた。

 久保は当時、アレクサンデル・セルロートと2トップでコンビを組み、このシステムで一定の成果を上げていた。キャリア最多得点を記録した同シーズンの9ゴールのうち5ゴールは、ダイヤモンド型の4-4-2で先発した時だ。

 アルグアシル監督はバジャドリード戦前日の会見でシステム変更の可能性について、「常に考えている」と話しつつも、「新しい選手が多いのであまり混乱させたくない」と躊躇している様子を見せていた。しかし最終的に、負の連鎖を断ち切るために新たな試みが必要と判断したようだ。

 4日前のマジョルカ戦でベンチスタートだった久保は2試合ぶりに先発復帰。試合前からの雨によりスリッピーなピッチコンディションのなか、精力的に動き回ったが、新たなポジションでの起用は久保にとって、今後に向けた試金石と言えるだろう。

 前半10分にペナルティーエリア内左サイドで2人を突破してゴール前にクロスを送り、オーリ・オスカルソンの決定機をお膳立て。続く同28分、自陣からDF裏に抜け出したベッカーに、GKとの1対1のチャンスを迎える鮮やかなパスを出した。しかし、残念ながらどちらも得点には結び付かず、後半36分に交代した。

ソシエダ戦が行われたバリャドリードの本拠地エスタディオ・ホセ・ソリージャ【写真:高橋智行】
ソシエダ戦が行われたバリャドリードの本拠地エスタディオ・ホセ・ソリージャ【写真:高橋智行】

地元紙は一定の評価「優れたプレーを見せ、あと一歩でゴールというパスを供給」

 ソシエダは決定機を作ったものの、ラ・リーガ最多失点(13)のチーム相手に最後までゴールをこじ開けられず、0-0で引き分けた。5試合連続勝利なし、4試合連続無得点、7試合1勝2分4敗の勝ち点5。降格圏の18位ヘタフェとの勝ち点差1の16位のままとなった。

 久保は試合後、「全力を尽くした。チャンスでシュートを打たなかったことで自分を責めることはできるかもしれないが、やれることはすべてやった」と悔しさを滲ませた。ここまでのラ・リーガ成績は、7試合(先発5試合)、458分出場、1得点0アシストとなっている。

 またもや結果を出せなかったものの、ソシエダ加入から3番目のポジションでプレーした久保に対し、クラブの地元紙は一定の評価を与えた。

「ノティシアス・デ・ギプスコア」紙は「“10番”のポジションでプレーしてより活発に動き、違いを作り出した。優れたプレーを見せ、あと一歩でゴールというパスを供給した。一方、フィニッシュワークが足りなかった」と評し、チーム最高タイの6点(最高10点)とした。同じく6点と評価したのは、アレックス・レミーロ、セルヒオ・ゴメス、マルティン・スビメンディ、シェラルド・ベッカーの4人となった。

 一方、「エル・ディアリオ・バスコ」紙は「イマノルは久保をトップ下に配置した。ボールを持つたびに中盤の選手たちに追い越されてはいたが、インサイドで上手く連係した。ノーゴールに終わったカウンターの起点となるベッカーへのロングパスは見事だった」と寸評し、ナイフ・アゲルド、スビメンディ、セルヒオ・ゴメスの3人と並ぶチームトップの3点(最高5点)をつけた。

 全国紙の「マルカ」「AS」も地元紙同様に久保に対して、トップタイの2点(最高3点)と上々の評価を与えた。

久保建英について語ったスペインラジオ局「カデナ・セル」のカルロス・ラウール・マルティネス記者【写真:高橋智行】
久保建英について語ったスペインラジオ局「カデナ・セル」のカルロス・ラウール・マルティネス記者【写真:高橋智行】

バジャドリードの記者もトップ下の久保を評価「右で張っている時よりも良かった」

 スペインのラジオ局「カデナ・セル」でバジャドリードの記者を務めるカルロス・ラウール・マルティネス氏は、この試合の久保をどのように見たのだろうか。

「バジャドリードの番記者として最初に伝えておきたいのは、久保は数年前バジャドリードに加入する寸前までいった選手ということだ。さらに今の彼はあの時と比べてはるかに成長している」とその実力を認めていた。

 続いて久保が新たなポジションで起用されたことについて、「おそらくイマノルは結果が出ていない状況を打開するため、戦術に変化を加える必要があったのだろう。ラ・レアルは今日、システムを変更して久保をトップ下に据えていた。正確性を欠くところがあり、チームメイトと同じようにあまり運には恵まれていなかったが、プレーゾーンを広げて自由に動き回り、ボールに絡む回数を増やして好パスも出していたので、右サイドで張っている時よりも良かったと思う」と分析した。

 しかし、「バジャドリードの選手たちは久保が非常に危険な選手だと認識しているため、今日はその存在をかなり警戒していたようだ。彼がボールを持つたび1対2の局面を作り上げて守備をすることで、かなり上手く抑えていた」と、自分の担当するチームが楽にプレーさせなかった点を強調することも忘れなかった。

 最後に「それでも久保がラ・リーガにおけるビッグネームの1人であるのは間違いないし、そうなるために大きな進化を遂げてきた」と締めくくった。

 アルグアシル監督は過去、オヤルサバルを万全の状態で指揮下に置いている時、中盤ダイヤモンド型の4-4-2をあまり採用したことがない。そのため、引き続きこのシステムで戦うのか、それとも4-3-3に戻すのかという試行錯誤を繰り返していくことになりそうだ。

 ソシエダはこの後、25日(日本時間26日)にアウェーでニース(フランス)とのEL初戦に臨むことになる。リーガでの悪い流れを断ち切るためにも、早急に最適解を見つけ、新たなタイトルに向けて進まなければならない。

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高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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