A代表入り期待の逸材多数 10代ロス世代が始動…W杯滑り込み目指す次世代の「タレント集団」とは?【コラム】

ロス五輪での活躍が期待される逸材たち【写真:徳原隆元 & Getty Images】
ロス五輪での活躍が期待される逸材たち【写真:徳原隆元 & Getty Images】

すでに海外組も多数…ロス五輪世代の中心選手たち

 細谷真大(柏)、高井幸大(川崎)ら2001年生まれ以降のメンバーが挑んだ2024年パリ五輪がベスト8敗退に終わり、日本サッカー界の悲願であるメダル獲得は次の2028年ロサンゼルス五輪へと持ち越しとなった。

 高い領域を目指すのが、2005年生まれ以降の”ロス世代”。今季J1で試合出場機会を得ている中島洋太郎、井上愛簾(ともに広島)、佐藤龍之介(FC東京)、J3で主力級の活躍を見せている市原吏音(大宮)、大関友翔(福島)、横山夢樹(今治)らが代表的な面々である。

 彼らは9月25日に開幕するAFC・U-20アジアカップ中国2025予選(キルギス)で国際舞台デビューを果たすことになる。同大会は2025年5~6月にチリで行われるU-20ワールドカップ(W杯)の1次予選に該当するもので、グループIに入っている日本はトルクメニスタン、ミャンマー、キルギスと同組。中1日ペースで3試合を消化して1位になった国が来年2月の中国での最終予選に進む形だ。

「キルギスでの大会で、気候とか衛生関係とかタフさも求められると思う。でもやるしかない。自分たちは確実に狙われる側ですけど、受け身にならずに、自分たちのサッカーをやれば勝てると思うので、全員でタフに戦っていきたいです」と船越優蔵監督から直々にキャプテンに指名された市原は毅然と前を向いていた。

 ロス世代には、後藤啓介(アンデルレヒトⅡ)、塩貝健人(NECナイメンヘン)、道脇豊(ベフェレン)、吉永夢希(ゲンクⅡ)などすでに欧州に活躍の場を移している10代の才能豊かなプレーヤーが複数いるが、シーズン中の今、欧州組は招集できない。

 そこで今回は国内組のみの編成となっているが、船越監督は「ここにいる選手が日本代表で、僕は一番いいメンバーを呼んでいる」と断言していた。

「自分自身も2023年U-20W杯(アルゼンチン)に富樫(剛一=現横浜ユース監督)さんと一緒に行かせてもらって感じた“基準”がありますし、森保(一=日本代表監督)にも来てもらって話をしていただきましたけど、本当に世界基準を持って選手に取り組んでもらっています。ただ、うまいだけの選手は世界で通用しないことをここにいるメンバーはみんなよく分かって、ピッチ上で表現してくれていると思います」と、指揮官は目の前の選手たちに改めて大きな期待を示したのだ。

 実際、市原や大関、本間ジャスティン(横浜FM)が1~2月のアジアカップ(カタール)にトレーニングパートナーとして帯同。本間、佐藤龍之介らはパリ五輪のトレーニングパートナーも務めており、アジアで勝つ大変さ、世界トップにのし上がる難しさを間近で体感している。その貴重な経験をほかのメンバーに還元できるのは、非常に大きなアドバンテージと見ていい。

「アジアカップを経験した身で言うと、緊張感とか全然違うなと思った。1試合にかける思いは自分たちも思いはありますけど、ピッチ外でのコミュニケーションの取り方とかはもっと学ばないといけないと感じました。自分を含め、アジアカップに行ったメンバーが何人かいるし、パリ五輪の帯同メンバーもいるので、上のカテゴリーの代表を経験している選手は僕らの代に落とし込まないといけない責任もある。まだ『これをやる』というのは言えないですけど、選手だけでミーティングしたりとか、準備とか片付けのところを含めて、伝えていくのが自分の役目かなと思います」

 キャプテン・市原も神妙な面持ちでこうコメントしていたが、「自分がA代表に上り詰めてやる」という鼻息の荒い選手が1人でも多く出てこなければいけないのは確か。パリ世代のA代表昇格が遅れている今、ロス世代がごぼう抜きで最高峰レベルに到達するくらいの勢いがないと、日本代表も近い将来、頭打ちの状況に陥ってしまいかねない。2026年北中米W杯を含め、それ以降の日本サッカー界を担うのがロス世代だと言っても過言ではないだろう。

A代表も下からの突き上げが必須 ロス世代には世界での活躍を期待

 9月19日の流通経済大学との練習試合で2ゴールを叩き出した攻撃の主軸で、副キャプテンも務める佐藤龍之介も「五輪を目指しているレベルだと、やっぱり世界でトップを取るのは難しいと思う。つねにA代表に呼ばれてもいいような姿勢だったり、目標を持つことはすごく大事ですね」と前向きに言う。

 そのうえで、今回の予選に向けて「(昨年のU-17W杯を率いた)森山(佳郎=現仙台)監督が『想定外を想定しておけば、別に想定外じゃない』とよく言っていたけど、そういう考え方でキルギスでは戦えればいい。インドネシアでもキックオフ時間が雨で遅れたりした。そういうのはアジアではよくあること。当たり前だと思って戦っていきたいですね。僕自身もここで結果を残したい。それですぐにFC東京で出られるようになるとは思っていないけど、今は試合に出られる環境が感謝なので。自分ができることを最大限示して、チームにもいい影響を与えていきたいですね」と今季リーグ2試合出場にとどまっている現状を変えていく構えだ。

 彼らの中から1人でも多くの選手がJ1でレギュラーをつかみ、頭抜けた活躍を見せてくれれば、来年の最終予選突破はもちろんのこと、U-20W杯本大会の上位躍進も見えてくるはずだ。

 近年のU-20世代を見ると、板倉滉(ボルシアMG)、冨安健洋(アーセナル)、堂安律(フライブルク)、久保建英(レアル・ソシエダ)らを擁した2017年U-20W杯(韓国)は16強敗退。中村敬斗(スタッド・ランス)、菅原由勢(サウサンプトン)らを擁した2019年U-20W杯(ポーランド)も同じステージで敗れている。松木玖生(ギョズテペ)や高井らが参戦した前回2013年大会に至っては、まさかの1次リーグ敗退。小野伸二(解説者)らが成し遂げた1999年ナイジェリア大会準優勝を超えるス―パーチームはまだ出てきていないのだ。

 だからこそ、この2005年世代には多くの人々を驚かせる大ブレイクを果たしてほしいところ。それが、2026年北中米W杯滑り込みにつながるかもしれない。さしあたって、その可能性がありそうなのは、欧州組の後藤や塩貝、キャプテンの市原や人材の薄い左サイドバックの高橋仁胡(C大阪)くらいかもしれないが、まったく予想もつかない人材が急成長してくれれば面白い。

 まずは25日から始まるトルクメニスタン、ミャンマー、キルギスとの3試合に集中することが肝要だ。若きタレント集団には圧倒的な強さを見せつけ、ここからグングン成長していってほしいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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