鎌田大地、新天地で挑む「今までと違うやり方」 “潤滑油”としてのチーム適応と必要な取り組み【現地発コラム】

クリスタル・パレスの鎌田大地【写真:Getty Images】
クリスタル・パレスの鎌田大地【写真:Getty Images】

後半立ち上がり過ぎに決勝点をアシストした鎌田

 象徴的な場面は後半19分に訪れた。現地時間9月17日、クリスタル・パレス(英1部)の鎌田大地としては、移籍6試合目に当たるリーグカップ3回戦(2-1)。クイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)から勝ち越し点を奪ったシーンのことだ。ミドルを放ったエベレチ・エゼへのアシストは、中盤中央で先発した日本代表MFによるものだった。

 もっとも、試合後に本人の話を聞くまでは、運も味方した得点シーンという認識でしかなかった。“記録上”のアシストも然り。

 もちろん、シュートは打たなければ決まらない。40メートル近くを上がって自ら狙ったエゼには、チーム最大の武器としての責任感があったと言えなくもない。その11分ほど前にリードを帳消しにされていたパレスは、2部勢との対戦で格差を見せつけていたとは言えない内容だったのだ。

 とはいえ、ボールがゴールに吸い込まれた最大の理由は、相手DFに当たって大きく変わった弾道にある。2ボランチを組んだジェフェルソン・レルマからのパスを、ハーフウェーライン付近に落ちていたエゼにワンタッチで届けた鎌田のパスも、まだゴールまで遠い地点での“ラストパス”だった。

 だが鎌田自身は、アシストがついたことを知って「そうなんですか?」と苦笑しながらも、次のように言った。

「相手が点も入れて前から来ている時間帯で、キーパーがしっかりボランチにつけて、僕からエブス(エゼ)っていう、チームとして狙っていたことがしっかりできて、そのまま点につながった。点が入ったのも良かったですし、その過程が凄く良かったかなと思います」

 個人的には、前半38分のプレーの方が印象に残っていた。結果的には、惜しくも通らなかったスルーパス。右アウトサイドに開いて絡むと、素早くウイングバックのダニエル・ムニョスを裏に抜けさせようとした1本は、鎌田らしいトライだと感じられた。

 筆者のなかで、高い位置で得点に寄与する彼のイメージと、攻撃の引き出しを増やす即戦力としての期待が強過ぎるのかもしれない。1ゴール1アシストの活躍を見せた前ラウンドもそうだったように、オリバー・グラスナー体制下の3-4-2-1システムでは、やはり2ボランチではなく、トップ下の一角を務める方が効果的なのではないかと思えた。

6番役への見解と俯瞰的な視点

 この日の鎌田は、開始早々4分にルーズボールを拾ってからのシュートで、チーム1本目のコーナーキック(CK)を奪ってはいた。だが以降、アタッキングサードで展開に絡む頻度は減る方向に。前半24分には、プレッシャー下の自軍ボックス内からダイアゴナルパスを放ち、カウンターの起点となる姿も見られはした。しかし、その前後には、QPRの左ウイングとして先発していた斉藤光毅を止めようとしてファウルを取られ、イエローをもらう姿も見られた。

 後方からフィードを受けても、前につける選択肢がなく、度々バックパスを余儀なくされていた。攻撃面では、41分に右インサイドを駆け上がったもののパスは来なかったランが、前半最後のアクション。後半に入っても、ボールに触れることすらままならなかった5分過ぎの時間は、本人にすれば実際の2分間ほどよりも長く感じられたのではないかと思っていた。

 それでも当人は、パレスでの6番役に好感触を得ていた。

「やっぱりボールに触れる回数もあるし、ボールを奪ったりもしやすい。後ろから出ていく方が、多分、得点のチャンスとかも増えてくると思うので、後ろのほうがいい感触はあります。自分が(持ち場を変わって)抜けてからボールを回せなくなっているし。今日は、特にアダム(・ウォートン)も出ていなかったので、そうやってできる選手がいなくなった。トップ下で出ても、なかなかボールに触れなかったりすることもあるので、僕としては6番のほうがやりやすいかなと」

 パレスに加入した鎌田と、鎌田を得たチームは、まだまだ互いに適応中の段階にある。であればこそ、前述のチーム2点目にも、第三者の目に映る以上の価値があった。

「僕が今までやってきたチームと違って、コンビネーションで崩すというよりも、エブス(エゼ)だったり、個の部分で結構崩している感じがある。エブス自身も、コンビネーションでやるようなタイプじゃないし。自分たちにとって一番のストロングポイントは、間違いなくエブスだったり、JP(ジャン=フィリップ・マテタ)だと思うので、そういう選手を活かして、(自分も)活かしてもらえるような感じで、自分自身が10番で出るならそういう場所を見つけないとダメだと思うし、6番で出ると、後ろを助けながらタイミング良く前に出たりとかもできると思う」

 この俯瞰的な視点は、移籍2か月目の新顔でありながら頼もしくもある。

「(過去の試合で)僕が10番で出ていたのも、(バイエルンに移籍したミカエル・オリーズの)代えの選手が獲れなかったり、最後の最後にエディ(・エンケティア)が入ったり、昨季良かった流れでやったりだとか、いろいろと試していたタイミング。今、リーグ戦で勝てなくて、試行錯誤しながらチームとしてやっていると思う。監督とはフランクフルトで2年やりましたけど、開幕ダッシュできた年はなかったので、(今季も)1回勝てればチームとして良くなっていくと思う。カップ戦でもズルズル負けたりせずに勝てたというのは、凄くチームとして大事なことかなと思います」

新天地では「今までと少し違うやり方でやらないとダメ」

 そのカップ戦勝利で、鎌田個人の出来は10点満点中6点といったところだろう。しかしながら、肝心の本人にとっては、及第点以上に意義のある93分間だったことになる。

 後半29分の選手交代に伴い2列目に上がる直前には、中盤から自ら持って上がったボールをエゼにつないだり、1トップのマテタへの楔を試みたりする鎌田の姿があった。ポジション変更後も、ボックス内に侵入すれば、最前線に投入されたイスマイラ・サールへの折り返しを狙っていた。

 新たなシャドー役としては、エゼと並んで先発したエディ・エンケティアの積極性が目立つ一戦となった。今夏の移籍市場最終日にアーセナルから移籍した新FWは、前半16分、相棒のお膳立てで、角度の厳しい位置から先制ゴールを決めてもいる。ただし、本来センターフォワード(CF)志向の25歳は、チャンスメイクの意識と腕前を磨く必要がある。周りの見え具合では、年齢でも3歳上の鎌田が1枚も2枚も上手だ。

 逆に、鎌田にも取り組みを要する点はある。例えば、「回せなくなっている」という発言からも窺えるポゼッション意識。プレミアリーグでの第3節チェルシー戦(1-1)前に意見を聞いたパレス・ファンは、「スローダウン」という言葉を使っていた。

 パレスが、常にボールを支配できるチームであれば問題はないのだが、現実は違う。プレミアでの過去4試合でのポゼッションは、20チーム中7位の平均54%ではあるものの、うち3試合はボールを持たせてくれるチームとの対戦だった。チェルシー相手のボール支配は4割未満。トランジションを速攻で活用したい試合では、鎌田の持ち場が前線であれ中盤であれ、一気に加速すべき攻撃を減速させてしまう存在にもなりかねない。

 もっとも、「パレスはパレス。今までと少し違うやり方でやらないとダメだなって思います」と言っている鎌田は承知のうえに違いない。リーグカップで16強に駒を進め、次いで今季プレミア初勝利を目指すパレスの一員として、攻撃の引き出しの滑りを良くする「潤滑油」としても、鎌田の適応が楽しみだ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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