京都が天皇杯Vにこだわる理由 23歳主将が後悔する2年前の失敗「あの時も残留に必死で」【コラム】

京都のキャプテン・川﨑颯太【写真:徳原隆元】
京都のキャプテン・川﨑颯太【写真:徳原隆元】

京都は千葉を破って天皇杯ベスト4に進出

 2年前の天皇杯準決勝を思い返すたびに、京都サンガF.C.のキャプテンで、今夏のパリ五輪を戦ったU-23日本代表にも名を連ねたMF川﨑颯太の胸中には、無念の思いがこみあげてくる。

 ホームのサンガスタジアム by KYOCERAに、サンフレッチェ広島を迎えた2022年10月5日の準決勝。京都は延長戦の末に1-2で敗れ、優勝した2002年度大会、準優勝した2011年度大会に続く決勝進出を逃した。

 後半31分から途中出場し、延長戦を含めて44分間プレーした川﨑を含めて、ピッチに立った17人全員がもちろん必死に戦った。しかし、どうしても広島戦に集中しきれなかったと川﨑は打ち明ける。

「あのときもJ1残留に必死で、そこまで天皇杯のベスト4を意識できなかったところがあって……」

 当時は京都を率いて2シーズン目だった曺貴裁監督も、天皇杯では完全ターンオーバー制を敢行。広島との準決勝の前後に行われたJ1リーグ戦ではまったく異なる、主力ともいえる11人を先発で送り出していた。

 リーグ戦で最終的に16位に終わった京都は、J1参入プレーオフ決定戦でロアッソ熊本と1-1で引き分け、規定によりJ1残留を決めた。一方で広島が決勝に進んだ天皇杯の結果はどうだったか。3回戦から北海道コンサドーレ札幌、サガン鳥栖、アビスパ福岡、そして鹿島アントラーズとJ1勢を立て続けに撃破したJ2のヴァンフォーレ甲府が決勝でも広島を相手にジャイアントキリングを達成し、天皇杯を初めて制していた。

 山梨県甲府市で生まれ育ち、小学生年代のU-12、中学生年代のU-15と甲府のアカデミーで心技体を磨いた川﨑の脳裏に、準決勝で勝っていれば、という思いが浮かびあがってきたのも無理はなかった。

「甲府が優勝した天皇杯の決勝も見ていました。実際にあの大会では自分たちもベスト4でしたし、もう一回勝っていれば決勝で甲府と当たっていて、個人的にも特別な大会になっていましたけど……」

 川﨑がこんな言葉を残したのは、J2のジェフユナイテッド千葉のホーム、フクダ電子アリーナに乗り込み、3-0の快勝とともに2大会ぶりの天皇杯準決勝進出を決めた18日の準々決勝後の取材エリア。京都は今シーズンも残留争いの真っ只中にいる。それでも、2年前とは雰囲気がまったく違うと川﨑は笑う。

「曺さんもミーティングで『本気でタイトルを取りにいこう』と話していましたし、まだまだ残留へ気が抜けない状況ですけれども、自分たちのなかにも『とうとう4強まで来た』という気持ちは前回よりも強いですね」

千葉戦のプレーに及第点「かなりポジティブなプレー」

 迎えた千葉との準々決勝。開始11分にFW豊川雄太が決めた先制点を巻き戻していくと、自陣の右タッチライン際で相手ボールを奪い、さらに前線へ素早く縦パスを入れた川﨑のプレーに行き着く。このパスをFWマルコ・トゥーリオがフリック。豊川が落とし、受けたトゥーリオが発動させたカウンターから豊川が決めた。

 エンドが変わった後半4分には、敵陣の中央から鮮やかなスルーパスを一閃。トゥーリオの追加点をアシストすると、同40分には中央から今度は左サイドに攻めあがっていたDF三竿雄斗へ絶妙のパスを供給して、MF平戸太貴のダメ押しゴールの起点になった。試合後には自身のプレーに及第点を与えている。

「相手がかなり気合を入れてきたのがわかりましたし、平日の夜にもかかわらず、千葉のサポーターも大勢駆けつけていて、すごくいい雰囲気で試合が始まった。だからこそ自分たちも最初から絶対にギアをあげて、相手以上にエネルギーをもって臨まなければいけなかった。その意味でいうと、自分の縦パスであるとかスルーパスはチームを勢いづける、かなりポジティブなプレーだったと思います。トヨくん(豊川)もマルコ(・トゥーリオ)も、ああいうところを練習から常に狙うのがわかっているので、自分としてもどんどんチャレンジしてきましたし、今日もチャレンジしたからこそのゴールだったと思っています」

天皇杯を制してACLに出場した甲府【写真:徳原隆元】
天皇杯を制してACLに出場した甲府【写真:徳原隆元】

地元・山梨で感じた「ヴァンフォーレ甲府」の存在

 甲府の天皇杯優勝をめぐって、川﨑には後日談がある。J2に所属しながら2023-24シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権を獲得した甲府は、メルボルン・シティ(オーストラリア)、浙江(中国)、ブリーラム・ユナイテッド(タイ)と同組になったグループステージで堂々の首位通過を果たした。

 ラウンド16では韓国の強豪、蔚山現代に敗れたものの、プロビンチアのクラブがアジアを勝ち抜いていった痛快無比な軌跡は、地元の甲府にも確実に伝わっていたと川﨑は身をもって実感した。

「自分は山梨県出身なので実家に帰ったときなどに、ACLに出場したからこそ町全体で甲府を応援しよう、という感じがすごくありました。自分たちも天皇杯で優勝してACLに出ることによって、京都サンガというチームのコンテンツが京都のなかでもっと、もっとメジャーになっていけたらと思っています」

 リーグ戦が折り返した6月最終週から、京都は公式戦で10勝2分1敗と右肩上がりに転じている。ブラジル人FWのラファエル・エリアスが、リーグ戦7試合で7ゴールをマークするなど新加入選手もフィット。リーグ戦で今シーズン初の3連勝を継続中で、天皇杯ではベスト4に勝ち残った。

「チーム全体でポジティブなプレーがどんどん増えてきている。ボールを奪われるにしても後ろ向きのプレーではなく、前向きで取られているからこそ、すぐに自分たちのハイプレスで狙える。ポジティブなプレーや声がけが増えていると思いますし、天皇杯でいえば自分は前の試合もその前の試合でも得点やアシストといった結果を出せているので、その意味ではひと皮むけたのかな、と思っています」

 10月27日の準決勝では、鹿島アントラーズとヴィッセル神戸の勝者と対戦する。目の前の戦いに集中できないまま広島に敗れた、2年前の後悔を振り払えるチャンスをえた喜びと、京都をJ1残留に導く使命を胸中に同居させながら、23歳の若きキャプテンの戦いがクライマックスを迎えようとしている。

(藤江直人 / Fujie Naoto)

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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