森保Jの“厚き壁” パリ世代に足りない「圧倒的な結果」…2年後W杯へ厳しい現状【コラム】
9月シリーズでは20歳DF高井がデビューしたのみ
9月5日の中国戦(埼玉)と10日のバーレーン戦(リファー)で7-0、5-0と2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選序盤2連戦で圧倒的強さを見せた日本代表。10月シリーズは前半戦の山場と位置づけられるサウジアラビア(10日=ジッダ)・オーストラリア(15日=埼玉)2連戦で、この結果次第でまた風向きが変わるかもしれないが、発足から6年が経過した森保ジャパンのチーム成熟度が上がっていることは確かだ。
序盤2試合のスタメンを見ると、2022年カタールW杯に出ていないのは鈴木彩艶(パルマ)と町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)の2人だけ。町田はもともと東京五輪世代で、2021年夏の本大会にも参戦しているが、A代表に定着したのはベルギーに赴いてから。三笘薫(ブライトン)と共闘し、UEFAヨーロッパリーグ(EL)などの大舞台を数多く経験したことが飛躍のきっかけになった。「遅れてきた東京世代」の台頭はチーム活性化につながるはずだ。
もう1人の鈴木彩艶は、ご存知の通り、2001年生まれ以降のパリ五輪世代。10代の頃から飛び級を繰り返してきた久保建英(レアル・ソシエダ)に続いて彼が主力級の仲間入りを果たしたのは前向きな要素と言える。だが、それ以外で試合に出たのは、中国戦の後半途中からピッチに立った高井幸大(川崎フロンターレ)だけで、期待の大きかった細谷真大(柏レイソル)と望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)が揃って2戦続けてベンチ外になったのは残念だった。森保一監督にしてみれば「まだまだA代表で試合に出る基準には達していない」ということなのだろう。
指揮官は9月シリーズ後の視察で関根大輝(柏)への興味を示し、10月以降の招集に含みを持たせたが、仮に彼が呼ばれたとしても、大差がついて余裕のある状態にならなければ、高井のようにピッチに送り出してはもらえないだろう。それだけ実績のない面々は厳しい立場にいるのである。
とはいえ、パリ五輪が終わった今、もっともっと多くの人材がポジション争いに割って入らないと日本代表の若返りは進まない。東京世代にカタールW杯の主力がズラリと並んでいる以上、どうしても彼らが2年後の2026年W杯の中心になるのはやむを得ないことだが、もっともっと20代前半以下のメンバーが参戦してほしい。そのためには、所属クラブで圧倒的な結果やインパクトを残すしかないだろう。
細谷であれば、今季J1で4ゴールという数字はやはり物足りない。目下、柏レイソルが残留争いに巻き込まれ、彼自身も対戦相手に徹底マークを受けているのもその要因ではあるが、代表スタメンを狙う人材なのだから、昨季の大迫勇也(ヴィッセル神戸)に匹敵するような圧倒的存在感を残さなければならないはずだ。
実際、FWに関して言えば、現エースの上田綺世(フェイエノールト)は所属先でサンティアゴ・ヒメネスという強力なライバルから定位置を奪えずに苦しんでいる。今回2試合に途中出場した小川航基(NECナイメンヘン)も昨季ほどの爆発はまだ見られない。浅野拓磨(マジョルカ)と前田大然(セルティック)はここ最近、代表では1トップ要員としては使われておらず、細谷の目の前にはチャンスが転がっている状況なのだ。
そういう時だからこそ、今季Jリーグでゴールを量産し、柏の救世主になり、来年は欧州へステップアップして結果を残すといった上昇曲線を描かなければいけない。森保監督は所属クラブでの活躍度を非常に重視する指揮官。それを脳裏に焼き付けて、細谷は自ら成功への道を切り拓いていかなければならない。
それはA代表予備軍と言われる関根や高井、藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)らも同様だ。関根は9月シリーズに呼ばれた望月と同じ右サイドバック(SB)だが、長身でセンターバック(CB)もできるマルチ型。静岡学園高校出身で足もとのテクニックも折り紙付きで、今後の伸びしろは少なくない。
ただ、右SB要員としては、菅原由勢(サウサンプトン)、橋岡大樹(ルートンタウン)、毎熊晟矢(AZアルクマール)という欧州組がいて、今季からプレミアリーグに参戦した菅原でさえ、3バック導入によって出番を得られなくなってしまった。それだけ厳しい環境だけに、関根がチャンスを与えられるとしたら、よほどの強烈なアピールを見せる必要がある。現在のレベルを1段階、2段階引き上げ、五輪本番のスペイン戦をつねに戦っているくらいのマインドでプレーし続けないと、浮上するのは難しそうだ。
ボランチも激戦区…遠藤・守田・田中の牙城を崩せるか
高井にしても、今の代表CBには谷口彰悟(シント=トロイデン)、板倉滉(ボルシアMG)、町田がいて、さらにケガで離脱中の冨安健洋(アーセナル)と伊藤洋輝(バイエルン・ミュンヘン)もいる。その間に割って入るのは容易なことではない。ただ、高井は20歳と若く、ここから一気にステップアップできる可能性がある。本人も海外志向が強く、今季終了直後には欧州へ赴くのではないかと目されているが、次なる環境で冨安や伊藤のようなビッグクラブ行きのチャンスをつかめば、2年後のW杯本番で最終ラインの一角を担っていることもないとは言えない。そのくらい大化けしてくれれば理想的だ。
藤田の方は今季シント=トロイデンでのパフォーマンスがA代表入りの大きなカギになるだろう。途中出場中心だった昨季とは異なり、今季はコンスタントに先発フル出場を続けているが、いかんせんチームが下位に低迷している。彼や小久保玲央ブライアンらが流れを断ち切り、躍進の原動力になってくれれば、森保監督も招集に踏み切るのではないか。
藤田の主戦場であるボランチは遠藤航(リバプール)、守田英正(スポルティング・リスボン)、田中碧(リーズ)の前回W杯トリオがひしめき、攻撃的ポジションもこなせる鎌田大地(クリスタル・パレス)もいる。UFFAチャンピオンズリーグ(CL)経験のある旗手怜央(セルティック)でさえ、今回の2連戦でベンチ外になっているのだから、牙城を崩すのは本当に高いハードルだ。それを乗り越えていかなければ、未来はない。パリ世代の面々は改めて、自分たちの置かれた環境を冷静に受け止め、高いレベルを追い求めていくしかないのだ。
あと2年間でパリ世代の参入が進まなければ、2026年W杯以降の日本代表が足踏み状態に陥ることも考えられる。それを回避し、つねに右肩上がりを続けていくためにも、若い世代の奮起が不可欠だ。この最終予選で我々を驚かせてくれる若手のブレイクを心から願いたいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。