9月シリーズで試運転した“4ペア” 森保J、3バックシステムの肝を握るシャドーの“相性度”【コラム】

2シャドーの最適解は?【写真:徳原隆元】
2シャドーの最適解は?【写真:徳原隆元】

2シャドーの状態維持が10月シリーズ成功のポイント

 森保一監督率いる日本代表は9月5日の中国戦(埼玉)を7-0、9月10日のバーレーン戦(リファー)を5-0と圧勝し、2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選序盤でロケットスタートを見せた。グループCの現状を見ると、勝ち点6の日本が得失点差+12で断然トップ、2位サウジアラビアは勝ち点4・得失点差+1。3位のバーレーンが同3・同-4、4位のインドネシアが同2・同±0という状況だ。日本、サウジアラビアと三つ巴で枠を争うと見られたオーストラリアはまさかの勝ち点1・得失点差-1の5位に沈んでいる。

 とはいえ、今はまだ2戦が終わった段階。次の10月のサウジアラビア(ジッダ)・オーストラリア(埼玉)が前半戦の山場になると目される。「サウジとオーストラリアを叩けば、ほぼほぼ行けるんじゃないかと思うので、次に集中したいです」と伊東純也(スタッド・ランス)も語っていたが、本当に次も連勝できれば、かなり早い段階の本大会切符獲得も見えてくるかもしれない。

 そのためにも、攻撃陣が好調を維持することが重要になる。とりわけ、タレント豊富な2シャドーの面々は所属先でコンスタントに出場機会を得て、ゴール・アシストといった目に見える数字を残すことが肝要だろう。

 改めて、この2戦を振り返ると、まず中国戦では南野拓実(ASモナコ)と久保建英(レアル・ソシエダ)が90分間コンビを組み、南野が2点、久保が1点を叩き出した。

 一方、バーレーン戦では、南野と鎌田大地(クリスタル・パレス)が先発。後半20分に南野と久保が代わって鎌田・久保コンビにシフトしたが、後半37分からは浅野拓磨(マジョルカ)が登場。浅野・久保コンビになり、鎌田は1列下がってボランチに入った。

 つまり今回は、「南野・久保」「南野・鎌田」「鎌田・久保」「浅野・久保」という4つの組み合わせにトライしたことになる。これが今後の編成のベースになってくると見られる。

「シャドーをできる選手は今のチームにたくさんいて、みんなレベルが高いので、入った選手がやりやすくて適正な長所を出せるようにっていうのはいつも考えていることですね。例えば、タケと大地だったら、よりシャドーのポジションでゲームメイクの役割を担って、俺は動き回ってかき回したり、空いたスペースに飛び込んでいく、シンプルにはたいてもう1回出ていくとか、(左WBの)薫(三笘/ブライトン)のスペースを空けたりとか。自分の役割は前回最終予選でプレーした時よりもスッキリしているし、チームでやっている時のようにスムーズに身体が動いているかなと思います」

 南野はこのように説明していたが、4人のストロングポイントは明らかに異なっている。

モナコでも好調の南野拓実【写真:ロイター】
モナコでも好調の南野拓実【写真:ロイター】

現段階では久保&南野がファーストチョイスか

 南野であれば、セカンドトップの位置からゴールを奪えるのが最大の魅力。点取り屋的な要素が最も強い選手と言っていい。久保は中盤で組み立てにも関与しつつ、右サイドに流れたり、幅広いエリアを動き回りながら、決定的な仕事に関与できる。

 鎌田は4人の中で一番ボランチに近いプレーヤーだ。本人も新天地クリスタル・パレスではボランチを主戦場にするという話はオリバー・グラスナー監督と話していたという。そして浅野は裏抜けやゴール前の推進力を武器とする選手。シャドー、WB、FWで広いスペースがある状況で生きてくる。

 そんな個性・特徴を的確に組み合わせ、使い分けていくことができれば、10月のサウジ・オーストラリア2連戦はもちろんのこと、2年後の北中米W杯で強豪国と対峙した際にも攻めのバリエーションを出せるはずだ。

 今回の2戦でも、久保・鎌田と組んだ南野は縦に走ってポケットを取る動きを徹底。バーレーン戦ではダイレクトに得点には絡めなかったものの、相手にボディーブローを与えるような効果的な仕事を見せていた。

 鎌田のほうも最初は前がかりになりがちな印象だったものの、後半から守田英正(スポルティング)と縦関係を形成。お互いに入れ替わる動きで相手のギャップを突いて、得点量産につなげていた。

 この鎌田のような仕事は久保が入った場合も可能と見ていい。そのあたりのコンビネーションを研ぎ澄ませていき、2シャドーの2人だけでなく、周りも連係連動してオートマティックに動けるようになれば、もっと日本の攻撃は迫力を増していくはずだ。

 森保監督は目下、南野、久保、鎌田の3人をシャドーのベースと考えている様子。どのコンビをチョイスするのかは、その時の状況や所属クラブでのパフォーマンスによる部分が大きいだろう。

 特に鎌田は今季新天地に赴いたばかりで、まだシャドーでプレーし続けるかどうか未知数。コンスタントに先発で出続ける保証もない。少し流動的な立場にいる分、現状では南野と久保がファーストチョイスという位置なのではないか。

浅野拓磨に求めらるのは「飛び道具」としての活躍【写真:徳原隆元】
浅野拓磨に求めらるのは「飛び道具」としての活躍【写真:徳原隆元】

森保監督の“秘蔵っ子”浅野は「飛び道具」的役割

 ここからの1か月間で3人のクラブでの状況がどう変化していくかが非常に興味深い。南野は絶好調だが、それが長く続くと言い切れないものがある。久保もレアル・ソシエダがかなりの苦戦中。彼自身もスタメン落ちを強いられた試合があり、状況をしっかり立て直さなければいけない。2人に加え、鎌田も10月の時点でトップフォームを維持していたら、森保監督も大いに自信を持ってベストコンビを選び、スタートから送り出せるはず。その動向が非常に興味深い。

 もう1人の浅野は今のところ「飛び道具」的な役割で考えられている。それは本人も認識している模様だ。

「自分が出た時間帯は相手が間延びしていましたし、足元で受けることも多かった。自分の特徴を出せたところもありましたけど、今日の試合で判断するのは難しいかなと。ただ、恐れず足元でのぞく動きと、自分の強みではスペースとりやすい動きは消さないようにやらないといけないですね。

 アジアでの戦いになってくると、スペースがないところでのプレーが多くなってくるので、どっちかと言ったら、僕みたいなタイプじゃない選手のほうが特徴を出せる試合は多いのかなと。それでも難しい状況になったり、相手が強くなればなるほど一発っていうところは絶対に必要。そこは間違いなくこのチームの中での僕のストロング。プレーの幅を広げることを含めて、どんどんチャレンジしていけたらいいと思います」

 代表10年目を迎える浅野はサンフレッチェ広島時代に森保監督の下で遂行していた役割に改めてトライしようと目を輝かせている。そんな野心を抱くのは彼だけではない。今回2戦続けてベンチ外になった旗手怜央(セルティック)はリベンジに燃えているし、今回選外だったメンバーにも候補者はいるだろう。

 上記のメイン3人を中心に多彩なタレントがしのぎを削り、より迫力のある2シャドーを構築していければ理想的だ。このポジションにフォーカスしつつ、今後の最終予選の戦いを注視していきたいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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