大学サークル、サテライト経て…ついに日本代表入り 異例の抜擢に「びっくり」、夢掴んだ苦労人
フットサル日本代表へ初招集、苦労人GK樋口就大の異例キャリア
高橋健介監督が率いるフットサル日本代表は9月13日に千葉県にあるJFA夢フィールドでトレーニングキャンプを開始した。14日からはキルギスに渡り、同国との国際親善試合2試合を行う。
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今年4月のフットサルアジアカップ(アジア杯)で史上初のグループステージ敗退となったフットサル日本代表は、木暮賢一郎監督が退任となり、後任として2022年からコーチを務めていた高橋健介氏が監督に就任した。15日からはFIFAフットサルワールドカップ(W杯)がウズベキスタンで開幕を迎えるが、W杯予選を兼ねたアジア杯で惨敗を喫した日本は出場権を得られず。世界の強豪24クラブが世界一を競うなか、日本は4年後に向けて新たなスタートを切ったのだ。
高橋監督は今回、2人の選手を日本代表に初招集した。GK樋口就大(シュライカー大阪)とFP南雲颯太(立川アスレティックFC)である。幼い頃からフットサルをプレーし、高校年代ではU-18フットサル選手権で準優勝。多摩大学時代には大学フットサル選手権優勝を果たした南雲は、学生年代から表舞台に立ってきた。一方の樋口には、苦労人の色が強い。
高校卒業後、一般入学で早稲田大へ進学。サッカー部への入部は叶わずに4年間を強豪サークルで過ごした。在学中に体育の教員免許を取得していた樋口は、「もう一回、アスリートとしてチャレンジしたい」と一念発起。フットサルクラブのセレクションを受けていった。しかし、フットサル未経験の樋口は、ここでもFリーグのクラブからは年齢や経験不足などを理由に合格をもらえず。最終的には、関東1部リーグの古豪ファイルフォックスから「サテライトからなら」という条件で入団を認められた。
「教えてもらわないとうまくならないことは分かっていたので、ちゃんと成長できる場を選びたかった」樋口は、過去に多くのフットサル日本代表選手やFリーガーを輩出したクラブで、しっかりと実力をつけていく。ファイルフォックスの代表である長尾龍氏は、「今回の代表入りは相当びっくりしました」と言いつつ、加入当時を振り返る。
「今はだいぶ身体つきもシュッとしていますが、当時はサイズも大きかったんです。足もとはうまかったけれど、俊敏性はありませんでした。でも、本人が練習を続けて体つきも変わっていき、レベルも上がっていきましたが、うちにも当時いいGKが2人いたので、ずっとサテライトにいましたが、トップでやれる可能性は十分にあるなと感じていました」
その後、樋口はステップアップの機会を求め、Fリーグ・ディビジョン1の優勝経験のある大阪のセレクションを受ける。ここで合格となり、大阪のサテライトに加入。小沢秀GKコーチの指導の下、爆発的な成長を見せると、関東1部クラブのサテライトだった樋口は、翌シーズンからトップチームに昇格してFリーガーとなった。
昨季まで大阪の監督を務めていた永井義文氏は「めっちゃ努力家で、最適な努力を継続できる男」と樋口を称す。今シーズン、大阪は監督が代わり、新たに元フットサル日本代表GK関口優志が加入したが、樋口は併用起用されている。そして、今回、フットサル日本代表の高橋監督の目に留まり、初招集となった。
父親はオシム、岡田監督が率いたサッカーA代表のドクター
樋口の家族で日本代表に入るのは、実は就大が初めてではない。父の潤一氏は長らくスポーツドクターを務めており、2002年にU-16サッカー日本代表のドクターを務めたのを皮切りに、U-20日本代表のドクター、さらにイビチャ・オシム監督と岡田武史監督が率いた2006年から2010年まで、サッカーA代表のドクターも務めてチームに帯同していたのだ。
今回の代表入りについて、「(父は)特別なことは言っていなかったけれど、目指していることは伝えていたので喜んでくれていました」という樋口は、約1か月前に代表に入る可能性があると伝えられると、急いでパスポートを取得。「驚きと嬉しさがある」なか、今回初めて日本代表の一員として海を渡る。
自身の強みについて「シュートストップ」という樋口は「ゴール前だけではなくて、ペナルティーエリア全体プラスさらにもう1つ高いところのカバーが日本代表では求められるので、チャレンジしていきつつ良さを残して、自分の形を作っていきたい」と、さらなるステップアップに目を向けた。
大阪で関口から刺激を受けている樋口は、今回、GKファビオ・フィウーザ(湘南ベルマーレ)とプレーするなかでも、すでに学んでいる。「やっぱり(フィウーザは)すごいですね。今年は大阪に(関口)優志くんも来て、代表のレベルを日々感じながらトレーニングできていることも大きいですし、実際にフィウーザ選手とやって身体の大きさの違いはありますが、技術の選択や判断のところ、スピードと正確さが1つレベルが違うなと感じたので、この期間で学べること、盗めるものはたくさんあると思うので、感じながらやりたいなと思います」と、ブラジル出身GKと2セッションを終えたあとに目を輝かせた。
そして、「最終的にシュートを止めるだけでは、これから世界で戦ううえで通用しないと思うので、足もとのところやディストリビューションで前進できるところ。技術的なところの判断、決断の質は、もっと高めていかないと通用しないと感じるので、そこは特にトライしていきたい」と自身の課題を挙げ、「チームは4年後のW杯に出場してベスト8に進むことを目標にしています。そのなかで全部の活動に呼んでもらえるのが理想ですが、まずは自分のクラブで高いパフォーマンスを維持すること。こうやって呼んでもらえた時に、ここで輝けるように。それが積み重なった先に、フットサルW杯があればいいなと思います」と、今後の目標を語った。
チームドクターとして世界と戦った父に続き、フットサル日本代表選手として世界と戦うチャンスを得た樋口は、20日と22日に予定されているキルギス代表との2試合のなかで代表デビューのチャンスを窺う。
(河合 拓 / Taku Kawai)