大勝の陰にあった過酷環境の“もう1つの戦い” 取材難航の現地で感じた中東アウェーの洗礼
代表を追い続ける日本人ジャーナリストに脚光
森保一監督が率いる日本代表は現地時間9月10日、2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の第2戦でバーレーンを5-0で下した。高温多湿で過酷な敵地の環境下にさらされていたのは、選手だけではなかった。普段スポットの当たらない、代表を追い続ける存在にスポットライトを当てた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
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試合前日の9月9日、バーレーン・ナショナルスタジアム(リファー)の熱気は異様だった。だが、ピッチに下りれば扉から幾分か風も通り、その部分では選手にとって好材料であったはず。だが取材を試みる記者たちは、公開練習を鉄格子のような囲いの中のスタンド席で見守ることになった。
ピッチ上では緑のビブスを着た日本のカメラマンたちが、当日の立ち位置を確認。芝の状態や体感の気温などを感じ取れるまたとないチャンスだ。だが、ビブスを着ない記者たちが近くへ入ろうとすると「NO」とセキュリティーに止められてしまう。メインスタンドの少し横、メディア用の席はピッチよりも風が抜けず、むわっとした暑さが漂っていた。
前日会見はスタジアムの室内で行われたが、当初空調は効いておらず生ぬるい。多くの日本人記者が、森保監督らが現れる前に録音機をマイクの近くに置いたが、現地スタッフにすべて回収された。監督らから少し離れただけで音を録るためには厳しい環境だったが、「Why?(なぜ?)」と尋ねても対応は変わらなかった。
歩くだけで汗がにじむアウェー練習場でも、精力的に選手たちを取材し続け報道する30人ほどのジャーナリストたち。そもそも海外のアウェーに来る人数と、ホーム(日本)に来る人数は3倍近くの差がある。ましてや昼間は40度にも達する中東の過酷環境に飛び込む記者は、それなりの覚悟を持った人たちでなければならない。
試合当日、スタジアムには無料入場となったバーレーンサポーターが会場を満席にするほど集まる。駆け付けた日本人サポーターも含めスタジアムには2万2729人が来場したと発表された。周囲を囲う赤と白の国旗をイメージさせる観客の渦。日本には馴みのない音楽が流れ、それに合わせて太鼓や手拍子が響き渡る。そんななか、日本国歌へのブーイングも起こっていた。
ヒートアップしたサポーターの行為に、母国選手たちも止めるようにジェスチャーを繰り返す珍しい光景が目に映る。試合中には堂安律、上田綺世らセットプレーのキッカーに緑のレーザーポインターが当てられるなど、アウェーの洗礼が選手たちを襲っていた。
一方で、観客の熱気も混じった異常な環境と戦っていたのはジャーナリストたちも同じだった。座っているだけにもかかわらず頭が重たくなるほどのこもった暑い空気。会場の空も若干淀むくらいの湿度だった。それでも日本が前半37分にPKで先制すると、後半にさらにギアを上げる。日本の3点目を守田英正が叩き込むと、観客は黙り込み、次第に帰路に就く姿が目立つようになった。4点目が決まる頃には、全体を見渡しても空席が目立つほど、バーレーンサポーターの諦めムードが漂っていた。
試合が終わると、ジャーナリストたちは一斉に選手のコメントを録るために移動し始める。生の声を聞き、地上波での放送のなかった試合情報を、日本へいち早く届けるため奮闘する姿に対し、森保監督も頭を下げ感謝の意を示してくれた。一通り業務を終え、勝利に安堵する記者やカメラマンたち。アウェーの洗礼は彼らにも降りかかったが、慣れない地で失敗を幾度も繰り返しながら、選手同様その逆境を乗り越えて仕事を全うしていた。
(FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko)