森保Jの“ラストピース” 長谷部誠コーチ入閣で劇的変化…練習前の一コマに見た真相【現地発コラム】

長谷部誠コーチがチームに帯同【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
長谷部誠コーチがチームに帯同【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

9月シリーズから長谷部誠コーチが帯同している

 9月10日の2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選第2戦・バーレーン戦(リファー)が迫ってきた。日本代表は5日の初戦・中国戦(埼玉)の後、チャーター便で移動し、6日から現地入り。4日間の調整を経て、本番を迎えることになる。

 午後7時(日本時間11日)の気温は35度近くなる見込みだが、今回は時間をかけて暑熱適応を行っている分、選手たちは比較的いい状態で戦えるだろう。

 森保一監督は中国戦で大きな成果を収めた3-4-2-1の新布陣を継続する見込み。攻守の要であるボランチは、遠藤航(リバプール)と守田英正(スポルティング・リスボン)の鉄板コンビを連続投入する可能性が大。ただ、田中碧(リーズ)がどちらかと入れ替わる可能性も少なからずある。鎌田大地(クリスタルパレス)、旗手怜央(セルティック)の2人はシャドー要員と位置づけられている模様で、基本的には彼ら3枚を回す形になるだろう。

 そのボランチ陣に寄り添う姿が目立つのが、今回から帯同している長谷部誠・新コーチだ。日本代表のコーチングスタッフは、攻撃担当の名波浩コーチ、FWやセットプレーを主に見る前田遼一コーチ、守備陣にフォーカスする斉藤俊秀コーチ、GK専門の下田崇GKコーチと役割が分かれている。

 ただ、ボランチに関しては、これまで専門的なコーチがいなかった。それを踏まえ、長谷部本人も可能な限り、遠藤や守田の近くにいようとしているのではないか。8日の練習前にも2人がパス交換しているのをじっと見つめていたが、その安心感は凄まじいものがあった。

 1~2月のアジアカップ(カタール)でベスト8敗退した際を振り返っても、守田が「外から『こうした方がいい』とか『チームとしてこういうことを徹底しよう』とか、もっと正直に言ってほしい」と訴え、ボランチを軸としたバランスの見直しが求められる事態となった。自身もボランチだった森保監督も意見に耳を傾けたが、「もっと世界基準を持った人材に身近でアドバイスしてもらった方がいい」と判断したのだろう。あくまで推論ではあるが、この一件が長谷部コーチ入閣のきっかけになったのかもしれない。

 実際、9月シリーズに入ってから、長谷部コーチと守田が1対1で話し込む姿が頻繁に見られる。3日の埼玉でのトレーニング開始前も15分以上、真剣な表情でディスカッションしていた。

「別にそんな大した話はしていないです。ただ、僕ら選手にとってはプラスだと思うし、得られるものは大きい。とにかく説得力がありますよね。ボール回しに参加してもホンマうまいし、バリバリ現役だなって思うので」と守田は7日の練習後、議論した内容をぼやかしつつも、代表レジェンドを絶賛していた。

 守田はもともと細かい立ち位置や相棒との関係性にこだわるタイプ。「考えすぎて頭がパンクしそう」とアジアカップの時も言っていたが、6月シリーズから3-4-2-1に布陣変更したことで、今は新たな距離感の取り方を模索中だ。

 パートナーの遠藤航やシャドーに位置する久保建英(レアル・ソシエダ)、南野拓実(ASモナコ)、ウイングバック(WB)の堂安律(フライブルク)や三笘薫(ブライトン)らとの最適解を見出そうと躍起になっているが、その意識が強すぎるあまり、迷いもあるという。

 そんな時、長谷部から選手目線の助言を聞ければ、本当に助かる。それは盟友・長友佑都(FC東京)も太鼓判を押している点だ。

「ハセさんは世界目線というか、ヨーロッパ目線で話してくれるから、選手もすごくすぐに腑に落ちるというか、ハセさんの1つ1つの言葉に重みがありますよね。それが情報ではなくて、経験が伴う言葉だから、後輩たちもすっと心の中に入ってくる感じがしますね」としみじみ話していた。 

遠藤航も”長谷部効果”を実感【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
遠藤航も”長谷部効果”を実感【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

長谷部コーチの助言効果をキャプテン遠藤も実感

 長谷部コーチの存在によって、救われているのは遠藤も同じ。彼の場合は目下、リバプールでアルネ・スロット監督新体制の下、出番を失う格好になっており、代表キャプテンとしてやり場のない気持ちを抱えていると見られる。

「(4日の)会見に来る時、一緒に車に乗っていたんですけど、ハセさんが『この年齢だったら、そんなに試合に出ていなくても、試合勘とかは関係ない』くらいのことを言っていましたね。ハセさんも昔、チームで試合に出られない時期があったみたいだから。『僕もそう思います』と同意しましたけど」と彼は神妙な面持ちで話していたが、2012年夏~秋にかけての長谷部はもっとひどい状況に追い込まれていた。

 当時所属のヴォルフスブルクでフェリックス・マガト監督から戦力外に近い扱いを受けていたのだ。それでも、代表に来た時には全くブレることなく高いパフォーマンスを見せていたのだから、その言葉には重みと説得力がある。遠藤も力強い後押しを受けて、自信を持ってこの最終予選を戦えるはずだ。

 8月末にイングランド2部・リーズに赴いた田中碧にしても、ここからが本当のスタート。新天地に赴けば、予期せぬ出来事に直面しないとも言い切れない。長谷部も13-14シーズンに1年間だけ在籍したニュルンベルクでは降格の憂き目に遭っている。直後にフランクフルトに行けたからよかったが、移籍した途端、悪循環に陥るケースもあり得る。

 そういう時の代表との掛け持ち精神的な負担が大きいものだ。もちろん田中碧がそうなるとは限らないが、万が一の時に長谷部が近くにいれば、前向きなサポートを得られる。やはりその存在は大きいのだ。

 今のところ、長谷部コーチは試合時にはスタンドから戦況を見て、ハーフタイムに個別にアドバイスするのがメインの仕事のようだ。ベンチ入りは人数の問題でしていない様子だが、ピッチに立っている選手にとってはそれだけでも参考になるし、修正点や改善点も明確になる。特にボランチ陣は具体的なポイントを指摘してもらえて、明確なアクションを起こせるのではないか。

 今後、その効果が徐々に出てくるだろうが、まずはバーレーン戦で彼らのポジショニングや関係性がよりスムーズになれば理想的。それが最終予選序盤2連勝のキーポイントと言っていい。遠藤、守田、田中碧の3人には今回を機に、もう一段階上の連携連動を具現化してほしいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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