好調・2列目アタッカー陣の裏で…森保Jに漂う懸念点、シュート0の上田綺世が見たFW陣の現在地【コラム】

中国戦にスタメン出場した上田綺世【写真:徳原隆元】
中国戦にスタメン出場した上田綺世【写真:徳原隆元】

上田綺世は中国戦でシュート数ゼロ「もっとチャンスメイク」

 これまで毎度のように苦戦を強いられ、“鬼門”と言われたワールドカップ(W杯)アジア最終予選の初戦。しかし9月5日の中国戦の日本代表は全くと言っていいほど重圧を感じさせずにゴールを重ね、終わってみれば7-0の圧勝。三笘薫(ブライトン)、南野拓実(ASモナコ)、伊東純也(スタッド・ランス)、前田大然(セルティック)、久保建英(レアル・ソシエダ)と2列目アタッカー陣が次々とゴールを奪い、選手層の厚さを見せつけた。

 こうしたなか、やや物足りなさを感じさせたのがFW陣だ。

 中国戦では上田綺世(フェイエノールト)が1トップで先発。前半12分の遠藤航(リバプール)の先制弾の際には、町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)とともに遠藤のマークをブロック。キャプテンをフリーにするという見事なお膳立てを披露する。

 その後も町田からのタテパスを引き出すなど、最前線で何本かチャンスを作り、3-0でリードしていた後半13分にはしっかりとタメを作って南野の4点目を演出。FWとしてやるべき仕事は着実に遂行していたのだが、悔しいことに自身のシュート数はゼロ。

「自分でもっとチャンスメイクして。シュート数を増やさないとなとは思っています」と上田自身も改めてゴールへの強い渇望を口にした。

 上田と後半34分に交代し、ピッチに立った小川航基(NECナイメンヘン)も無得点に終わった。彼の場合、後半ロスタイムに伊東純也が右から一気にドリブルで持ち込んで崩した折り返しに反応。打点の高いヘディングシュートをお見舞いしたのだが、これは惜しくもクロスバーを直撃してしまった。

「僕自身は今、この日本代表にいる中で僕が1番、点が取れると思っている」と本人は中国戦前に語気を強めていたが、持ち前の鋭い得点感覚が結果には結びつかなかった。

 森保一監督は今回の9月シリーズで、上記2人と中国戦出番なしの浅野拓磨(マジョルカ)、ベンチ外の細谷真大(柏レイソル)の4人を最前線候補と位置づけているはずだ。

「FWに求めるのはゴールという結果」とも口癖のように言っているだけに、彼らの中からかつての大迫勇也(ヴィッセル神戸)のような突出した存在が出てきてほしいと強く願っているに違いない。

 目下、そこに最も近いのが上田。だが、ブライアン・プリスケ新監督率いる新体制のフェイエノールトで定位置を確保できていない分、フィニッシュワークの部分を研ぎ澄ませ、感覚を合わせる作業が進んでいないのかもしれない。そのあたりはモナコで絶好調の南野と対照的な状況なのだろう。

「(得点の部分は)1試合とか、そういう単位の話じゃないんで。点を取れない試合もあるし、継続です。自分はポストプレーもやらなきゃなきゃいけないですし、相手はああやってゴール前を固めてくる。もし負けていたりしたら、なおさら固めてくると思います。そしたら(外が空いて)、クロスやゴール前での仕事も増えるのかなと感じます」

 上田自身がこう語るように、人数をかけて守ってくるアジア相手の試合では、外からの攻めが増えることをまず想定。ゴール前に入るタイミングをすり合わせ、ヘディングで競り勝つ回数を増やすことを徹底させるべきだ。もちろん2シャドーやボランチなど周囲の面々との連係をすり合わせることも必要不可欠なテーマと言える。

「チームとしていろんな攻撃のバリエーションを持つのは1つ大事なこと。相手の戦術、こっちのメンバーとか、いろんな兼ね合いはあるにしても、やっぱり攻撃の幅は必要になってくる。中央もそうだし、サイドアタックに絡む時もあるし、いろんなところで自分の力を発揮できたらいいのかなと思います」と上田は武器である多彩なゴールパターンを前面に押し出して、現状を打開する構えだ。

 FWというのは「ケチャドバ」が常。1つゴールが生まれれば、そこから面白いように取れるケースも少なくない。背番号9が「最終予選無得点」という壁を越えれば、そこから一気に状況は改善していくだろう。それは最終予選初参戦の小川、細谷にしても同様だ。

 代表歴10年というベテランの浅野にしても、2018年ロシアW杯最終予選の天王山だった2017年8月31日のオーストラリア戦(埼玉)、2022年カタールW杯最終予選で崖っぷちに立たされた2021年10月のオーストラリア戦(埼玉)で結果を左右する大仕事をしているが、直近1年間は得点から遠ざかっている。彼も停滞感を打ち破らなければいけない時期に直面しているのは間違いない。

小川航基のヘディングシュートは惜しくもバー直撃【写真:徳原隆元】
小川航基のヘディングシュートは惜しくもバー直撃【写真:徳原隆元】

求められる結果「FWは1人しか試合に出られない」

 果たしてこのうち誰が一足先に抜け出すのか……。今回の最終予選の結果が、2年後の2026年W杯でのエースFWの行方を大きく左右するとも言えるだけに、その動向が大いに気になるところだ。

「(小川)航基くんも(細谷)真大も僕にないものを沢山持っている。練習や試合で学べる部分、自分の力になる刺激は多くあるので、今はそれを成長に繋げられるいい環境にいると思っています。それぞれの特徴はもちろん違います。戦術的に求められることはしっかりやりながら、それ以外のところで個々の特徴を出すということが大事ですよね。ただ、FWは1人しか試合に出られない。結果を出している選手が出られるんだろうし、信頼も勝ち取れる。結局、そこなんですよ」

 上田が自らに言い聞かせるようにコメントした通り、やはりゴールという結果を残した選手だけが生き残れる。それがFWの厳しさだ。ここから最終予選をリードしていくFWが出てこなければ、日本代表は苦しむこともあり得る。今回招集外の町野修斗(キール)や大橋祐紀(ブラックバーン)のような予備軍も控えている現実を脳裏に焼き付けながら、今回のFW陣はまず10日のバーレーン戦(リファー)でチームを勝たせる得点を取ることに集中すべきだ。

 スタメンは上田が2戦連続の可能性が高いと見られるが、小川もチャンスがないとは言い切れない。浅野は2シャドーの一角で出るという見方も強まっているため、さしあたって上田の一挙手一投足に期待するしかない。

 2024-25シーズン開幕後の初ゴールをどんな形でもいいから奪うことで、所属先での立ち位置も前向きに変わるかもしれない。そうなるように、背番号9にはここで1点をもぎ取って、スッキリした勝利をモノにしてもらいたい。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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