スペイン名門が対照的「監督の手腕に定評」「先に戦術」 噛み合えば“無双アタッカー陣”誕生も【コラム】
首位バルサと2位レアル、クラブの特徴が顕著に出ている今季
ラ・リーガは第4節終了時点でFCバルセロナが4戦全勝で首位。レアル・マドリード、アトレティコ・マドリード、ビジャレアルが2勝2分で並んでいるが、得失点差でレアルが2位につけている。
ここまでのバルセロナ、レアルは対照的だ。また、それぞれのクラブの特徴がよく表れている。
バルセロナはハンジ・フリック新監督を迎え、戦術的な変化があった。伝統の4-3-3をマイナーチェンジした4-2-3-1に変わっている。中央に選手を集める攻撃が今季の特徴だ。
センターフォワー(CF)、トップ下、さらに場合によっては左右のウイングとボランチの1人までもが中央部に集結していく。そこで数的優位を作り、素早いパス交換によって中央を突破していく。ラミン・ヤマルは右サイドに張っていることが多いが、左サイドはサイドバック(SB)が上がってきて幅を取っている。移籍の目玉だったダニ・オルモが出場するようになると、この中央集結攻撃の効果がより表れるようになった。ダニ・オルモは新戦術にうってつけでもある。
先に戦術ありきというところがバルセロナらしい。
ヨハン・クライフが監督に就任し、アヤックス方式を持ち込んでからプレースタイルが確立され、その後さらに発展させてきた。創立者がスイス人のハンス・ガンパーでもあり、当初から国際色豊かで、最も長く監督を務めたジャック・グリーンウェルのように初期には英国人監督が多かった。その後もエレニオ・エレーラ、リヌス・ミケルス、ヘネス・バイスバイラーなど、その時代の名監督を招聘していて、戦術を重視してきた伝統がある。
カンテラ出身者の多さもバルセロナらしい。
パウ・クバルシ、マルク・ベルナル、ヤマルの3人は17歳。マルク・カサド、アレックス・バルデが20歳。負傷で戦列から離れているガビも20歳。一時期はカンテラ出身者が途絶えかけていたが、今季は一気に増えた。台所事情もあるのだろうが、これだけの若い才能を使える育成力はさすがである。
一方、レアルは念願のキリアン・ムバッペを獲得した。時代のスーパースターを獲得していくのはこのクラブの基本方針だ。
しかし、ムバッペ、ビニシウス・ジュニオール、ロドリゴ、ジュード・ベリンガムで組む豪華カルテットは互いを探り合っているような状態で、個々の実力は文句なしだが、それぞれが技を披露してつないでいく足し算の域を出ていない。まるでエキシビションマッチみたいなプレーぶりで開幕戦のマジョルカ戦に引き分けた。
ただ、これはよくあることで、バルセロナで無双だったMSN(リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)も最初から息ピッタリというわけではなかった。それなりの時間はかかるものだ。第4節のベティス戦ではムバッペがリーグ初得点、PKから2点目も決めた。歯車が噛み合ってくれば、かつてのBBC(カリム・ベンゼマ、ガレス・ベイル、クリスティアーノ・ロナウド)を凌駕するアタックラインになるかもしれない。
レアルはまず選手ありき。集めてきたスターをどう機能させるか。その点でカルロ・アンチェロッティ監督の手腕には定評があり、このスターコレクション方式で栄光を築いてきたクラブの実績もある。エンジンがかかり切らないなかでも2位につけているのはむしろ上出来かもしれない。
ロケットスタートを切った若いバルセロナ、最初はもたつくがスターが噛み合ったあとが恐ろしいレアル。対照的なライバルの今後が注目される。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。