黒田監督、「1年生」町田への世論に見解「いじめる先輩がいる」 教員時代に感じた“悪しき風潮”
浦和戦後の判定に関する黒田監督の発言が反響
FC町田ゼルビアの黒田剛監督は9月2日、8月31日に開催されたJ1リーグ第29節町田vs浦和レッズの振り返りと、4日のアウェー・アルビレックス新潟戦に向けた取材に応じた。
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その浦和戦の振り返りを行うなかで、黒田監督は自分の発言が正しく伝わっていないことについてぼやく場面があった。
黒田監督は浦和戦後の記者会見で、2回のPK獲得かと思われた場面が「ファウルなし」と判定されていたことについて、「クレームということではなくて」としながら、レフェリーの判定に関して「見解を示してほしい」と語っていた。
ところがこの発言から「クレームではない」という部分が抜かれて拡散し、それによって「黒田がクレームをつけた」「上手くいかない時だけいつも文句つけている」「ファウルはお前たちだって多いじゃないか」との反響があったという。
この現象について、黒田監督は自身が学校の教員だった時代に起こっていたことと似ているという。
「先生が黒板に書いたことに誤字があったり、分からないことがあったりしても、生徒はそのときに何も言わず、あとで『あれはおかしかった』と陰で言う。先生が間違った時に『先生それ違うよ』『漢字が間違っていますよ』『分かりません』とその場で指摘しないという『美学』があった」
そして、「(その場で)『ちょっと違うと思います』『これどうなんですか』と異論を呈した(生徒がいた)時には、『あんなこと言ってるんじゃねえよ』と、ネットで名前を名乗らずに陰口で書いていく」ということがあったそうだ。
黒田監督は、「『そんなこといちいち指摘するなよ』と言っておきながら、自分たちはあとで裏でコソコソ言う。その状況が『言ったら損をする』」という風潮を生み出していたと指摘する。それは社会の縮図であり、黒田監督が審判の判定に対して「見解を示してほしい」と語ったことが、「言ったら損をする」ということになっているという。
町田は「J1の1年生」…「いじめる先輩たちがいる」
また、試合の最中に浦和のコーチがタッチラインの横に置かれていたタオルを別の場所に動かしたり頭を拭いたりしていた。それが笑い話になっていることについても憤慨していた。
「今、悪役が町田という流れというか、方向があるかもしれないけれど、悪役がやられていることだから笑って見てられるみたいな(感じになっている)」
確かに、町田のスタッフが同じことを浦和に対して行えば、非難の嵐だろう。
「これは日本人の民族性なのか分からないけれど、勝手にそういう悪役にして、そいつらがやられる分には、どれだけ悪いことをされようとそれが黙認されて、『ざまあ見ろ』くらいの感覚でいる。こういう人間が世の中をダメにしてると思う」
そして、再び学校に例えて自分たちの立場を語った。
「(そういうことを)新参者に対して行う。我々は(J1リーグの)1年生だよ、1年生。それをいじめる先輩たちがいる」
そうやっていじめられたせいというワケでもないだろうが、町田は第15節で首位に立って以来守り続けていた地位を浦和に引き分けた第29節でついに明け渡した。黒田監督はその原因をどう分析して対処しようとしているのか。
「決して悪くないのは、シュート数が増えている、決定機も増えていること。だから、あとは決めることなんだけれど、『決める』とはすごく漠然としているので、確率を上げる作業をどれくらい特化して、集中してやれるかということだと思います」
選手・スタッフは「みんな同列」と説明
作業を行わせるのは指導陣だ。そのコーチ陣に黒田監督はどんな話をしたのか。
「私たち(指導陣)のアプローチも甘かったと思う。(例えば)シュート練習のところもそうだけれど、ダメなら止めてでもとことんやり続けさせられることも、指導陣の責任でもある。何気なく流れてしまっているトレーニングに、もっと自分たちは目を向けなければダメだという話も含めて(指導陣にしました)」
選手たちを叱責したということでもないようだ。選手にはこう伝えたと明かした。
「監督が社長で、選手たちが部下でもなんでもない。私たちはみんな同列で、同じプロとして、1つのもの、ことにこだわって勝利のために全力でやろうという話をしました」
強面に見える黒田監督だが、ここにきて選手たちへのアプローチ方法を変えたようにも見える。それは選手の中に焦りや不安を見出したからだろう。高校サッカーの監督だった時には巧みな選手の心理コントロールを見せていた指揮官が、その力をプロでも発揮できるのか。町田にとって正念場だ。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。