カメラが捉えた浦和の現状 個人技が打開のカギ?「活力なくして試合には勝てない」【コラム】
【カメラマンの目】町田戦では後半アディショナルタイムに失点しドロー
8月31日に行われたJ1リーグ第29節。浦和レッズは1-1で迎えた後半42分、チアゴ・サンタナがヘディングシュートを決めて勝ち越しに成功すると、さらに続けざまに敵のゴールネットを揺らした。舞台は国立競技場、相手はJ1リーグに旋風を巻き起こしているFC町田ゼルビアだった。
浦和のベンチは前節で指揮官がチームを去り、コーチであった池田伸康が暫定で舵取りを任せられていた。チーム再生に向けた大事な初戦の残り時間もわずかとなった終盤で、鮮やかに2度ネットを揺らした。
これでスコアは3-1。勝負はあったかに見えた。
しかし、ここから劇的な展開が待っていた。3点目となるシュートを決めた松尾佑介とともにゴールへと迫った二田理央が、追随する相手選手のユニフォームを引っ張ったプレーがファウルと判定。町田を突き放す決定打となる得点を取り消されてしまう。さらに同アディショナルタイムもほとんどない最終盤で失点を許してしまう。浦和にとっては悔やんでも悔やみきれない引き分けで、試合の幕は閉じたのだった。
それにしても町田の選手たちの90分間を走り抜くタフさは驚くばかりだ。当然、試合も終盤になれば選手たちの疲労は蓄積されていくが、町田の選手たちは戦術をベースとした動きが明確で、余計な運動量の消費が少ない。そのため最後まで運動量が落ちないのだ。普段からの厳しいトレーニングと相まって鍛えられた彼らは疲れ知らずと言っていい。
対して浦和は指揮官が交代し、戦術を成熟させる時間がない状態で試合に臨んでいる。この状況では効率良く試合を進めるのは難しく、スタミナの消耗度も高くなる。
結果、後半になると町田の攻撃スピードに翻弄されることになる。勝負どころを的確に見抜き、スピードに乗って進出して来る町田の攻撃陣への対応に手を焼き、敵と向き合う形で迎え撃つプレーができず、追随しながら動きを封じざるを得ない、安定感を欠く守備となってしまう場面が増えていった。
町田のこれでもかとゴール前へと供給されてくるラストパスから得点を狙う攻撃に、浦和守備陣はいつ根負けしてもおかしくないほど劣勢を強いられた。しかし、GK西川周作の好守で失点をなんとか後半4分の1点だけで抑えていく。
そして、この頑張りが実を結ぶ。攻撃面でボールを持ちながらも決定打を欠いていた浦和だが、戦術による劣勢の挽回を個人技に求め、少ないチャンスをゴールへと結び付けた。戦術による集団での攻略より、ドリブルを武器とする個人能力を前面に出した戦いへの変化は、8月17日に行われた第27節の対鹿島アントラーズ戦(0-0)でも見られていた。
鹿島戦では戦術的な動きが手詰まりとなり、突破口が開けないとなると、安居海渡や大久保智明が果敢にドリブルで仕掛け状況の打開を目指した。この試みが功を奏し、浦和はアウェーの地で鹿島を相手に互角の展開を見せたのだった。
個人技での打開は町田戦でも見られたが、より強引な“力技”も必要か
首位・町田との試合でも浦和は先制点を挙げたものの、次第に押し込まれる時間が長くなり、攻撃でも最終局面で戦術的な崩しがなかなか作れないでいた。こうした状況に直面した浦和は、途中出場の松尾らが個人技で町田の守備網に挑んでいきチャンスを作る。
ただ、対鹿島戦と比べて、浦和の選手たちの頭の中には、新たな指揮官のチームとしての戦い方を示す戦術を遂行しようとする意識が強かったのかもしれない。鹿島との試合よりは大胆に個人技を前面に出すプレーが少なく、それが状況打開にブレーキをかけてしまったように見えた。前線に進出した選手が、相手ゴール付近でパスを選択するのではなく勢いに乗ってシュートを打つなど、もっと強引な個人による力技を出しても良かったと思う。
それでも戦術での崩しが難しいのなら、それではこれでどうだと言わんばかりに個人技で状況の打開を目指したことは評価できる。チーム力の向上が望まれる浦和だが、いまの状況では個人技に依存することが良いのか、悪いのかといったことは問題ではない。
上昇気流に乗れていない現状では、勝利を目指してなんとかしようとする姿勢がチームに活力を生む。活力なくして試合には勝てない。そして、現在の苦しいなかで光明を見つけ出そうとするこの活力が、ピッチに立つ全選手に波及することによって勝利への道は開けていくのだ。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。