J2に15年…「眠れる獅子」が遂げた変貌 敵将も脱帽、J1へ望みつなぐ24歳エースの覚醒【コラム】

仙台戦で2ゴールを奪った千葉・小森飛絢【写真:Getty Images】
仙台戦で2ゴールを奪った千葉・小森飛絢【写真:Getty Images】

J2ジェフユナイテッド千葉のFW小森飛絢に高まる期待

 敗軍の将が発した第一声が、ジェフユナイテッド千葉が遂げた変貌ぶりを物語っていた。

「眠れる獅子を起こしてしまったゲームだったのかな、と」

 声の主はベガルタ仙台の森山佳郎監督。舞台は今シーズン2度目の4連勝を狙い、敵地・フクダ電子アリーナに乗り込んだ25日のJ2リーグ第28節で、前後半に2度のリードを奪いながら最終的には2-4で逆転負けを喫した直後の公式会見。年代別の日本代表で実績を残し、今シーズンから仙台を率いる指揮官はさらにつけ加えた。

「ここ数試合、ちょっと悩んでいる感じではあった千葉さんの良さが全開になったゲームだった。一番点を与えてはいけない選手に取られてしまったし、これで千葉さんも勢いをつけてくるだろう、と思っています」

 森山監督が言及した選手は、千葉のエースストライカーを担う小森飛絢。同点で迎えた後半31分に勝ち越しゴールを頭で、9分後の同40分にはダメ押しの4点目を右足でゲット。新潟医療福祉大から加入して2シーズン目の24歳は試合後のヒーローインタビューで、胸中に秘めてきた思いを静かな口調とともに言葉に変えた。

「本当に苦しい時間を過ごしてきたので、ようやく勝ち点3が取れてホッとしています」

 仙台戦を迎えるまで1分け4敗と、千葉はリーグ戦で5試合続けて白星から見放されていた。J1への自動昇格圏内につける清水エスパルスと横浜FCに敗れただけでなく、J1昇格プレーオフ圏内の6位以内を争うファジアーノ岡山戦はスコアレスドローに終わり、さらにホームにいわきFCを迎えた前節も0-3で完敗した。

 6位で踏ん張っていた千葉も、仙台戦のキックオフ前の時点で8位とズルズルと後退していた。そして、チームが不振に陥った責任を誰よりも感じていたのが小森だった。今シーズンの10点目を決めて、2年連続で2桁に到達させた6月16日の徳島ヴォルティス戦を最後に、7試合もゴールから遠ざかっていたからだ。

 今シーズンのJ2リーグで、小森はチームでただ一人、28試合すべてに出場している。しかし、いわき戦では12試合ぶりに先発から外れていた。千葉を率いる小林慶行監督は「ストライカーなので、ゴールから離れているメンタル的な影響は少なからずある」と小森に言及したうえで、こう続けていた。

「チャンスの回数そのものは、彼が得点を重ねていたころに比べて減っている。ただ、得点できないのであればビルドアップのクオリティーを上げて、何度も何度もチャンスを作れるようにしなければならない。そこはチームとしての伸びしろであり、彼だけに言えることではないと思っている」

 いわき戦から中3日の21日に、千葉は北海道コンサドーレ札幌との天皇杯ラウンド16を戦っている。いわき戦から先発を10人も入れ替えた千葉は、前半45分にMF品田愛斗が決めた直接フリーキック(FK)による1点を最後まで死守。J1の札幌相手に下剋上を達成し、10年ぶりのベスト8進出を決めた。

 そして品田に象徴される、出場機会に飢えていた選手たちにまじって、小森も札幌戦の先発に名を連ねていた。後半36分にFW呉屋大翔との交代でベンチに下がるまで、小森はチーム最多の7本ものシュートを放った。そのなかには相手キーパーのファインセーブで惜しくもゴールにならなかった、3度の決定機も含まれていた。

 それでも、相手守備陣を脅かし続けた小森の姿に、何かが吹っ切れはじめていると小林監督の目には映ったのだろう。再び中3日で迎えた仙台戦で先発に復帰した小森は、指揮官の期待に完璧な形で応えてみせた。

 勝ち越し弾は左サイドからDF日高大がクロスを放った瞬間に、身長183cmのDF菅田真啓の背後からその眼前にもぐり込み、同178cmと高さで劣る部分を感じさせずに頭で叩き込んだ。ダメ押し弾は右サイドで粘ったMF岡庭愁人がつなぎ、ニアでDF佐々木翔悟が流したボールをフリーで流し込んだ。

 ルーキーイヤーの昨シーズンを通じて、1試合でマルチゴールを決めたのは初めて。ゴール数も昨シーズンの13にあと1点に迫る12に伸ばし、得点ランキングでトップに3差の単独3位に浮上した。キックオフ前の時点で4位だった仙台に、自身の8試合ぶりとなるゴールなどで逆転勝ちした直後に小森はこう語っている。

「前線で自分が起点になるプレーもそうですけど、一番大事なのはやはり自分が相手ゴール前で仕事をすることだと思っていた。自分としてもずっと複数得点がほしかったので、ようやく取れたという感じです」

 昨シーズンの千葉は6位に食い込んだものの、J1昇格プレーオフ準決勝で、最終的にJ1昇格を決めた東京ヴェルディに1-2で敗れた。2点ビハインドで迎えた後半33分に一矢を報いたのは小森だった。

 迎えた今年元日に、千葉との契約更新が発表された。J2ベストイレブンにも選出された実績を引っさげ、個人的な昇格、つまりは移籍を考えていなかったといえば嘘になる。だからこそ、異例といっていい元日発表には、千葉のエースストライカーとしてJ1昇格を果たしたい、という決意が反映されていた。

 小森の熱い思いに応えるように、千葉もヴェルディへ移籍したMF見木友哉がつけていた「10番」を託した。夏場を迎えて一時的に袋小路に入りかけた小森だが、小林監督が施したいわき戦の先発落ちというちょっとした荒療治と、何よりもあえて背負ったプレッシャーから逃げなかった小森の愚直な姿勢が道を切り開いた。

 しかも、仙台戦の勝利を確実なものにした小森の2点目は、オリジナル10として1993シーズンから戦ってきた千葉の通算1700ゴール。自らの名を歴史に刻んだメモリアル弾を喜びながら、小森はこう語っている。

「自分たちは勝つしかないので、このあとも勝ち続けて、何としても自分たちの目標を達成したい」

 目標とは2009シーズンが最後になっている、J1への復帰にほかならない。6試合ぶりの白星をあげても順位は8位で変わらない。それでも、J1昇格プレーオフ圏内の6位の岡山との勝ち点差をキックオフ前の「7」から「5」に縮めた。残り試合のなかには3位のV・ファーレン長崎、4位のレノファ山口との対戦も残している。

 もちろん、可能性が完全に潰えるまでは、2位以内のチームが勝ち取る自動昇格もあきらめない。敵将をして「眠れる獅子を起こした」と言わしめたほど怒涛の強さを発揮した千葉は、復活を遂げた小森にけん引されながら、残り10試合となったJ2リーグ戦で右肩上がりに転じさせた軌跡をさらに加速させていく。

(藤江直人 / Fujie Naoto)

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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